コンサルtoコンサル
なぜ多くのコンサルタントは、異業種への転身ではなく、あえて同じコンサルティング業界内での転職を選ぶのか。この問いの背景には、コンサルティングファームで培った専門性やプロジェクト経験を、事業会社よりも直接的かつ即戦力として活かせるという事情がある。
ポストコンサルのキャリアパスというと事業会社やスタートアップ、PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド:未上場企業に投資し企業価値向上を図る投資ファンド)への転身が注目されがちだが、実際には、コンサルティング業界内で別のファームへ移ることも、ポストコンサルの代表的なキャリア選択肢の一つである。本記事では、コンサルtoコンサルの定義・タイプ・実務での位置づけ・注意点までを整理する。
コンサルtoコンサルとは
コンサルtoコンサルとは、現在所属しているコンサルティングファームから、別のコンサルティングファームへ転職することを指す、業界内で使われる実務上の呼称である。
法令や公的機関による統一的な定義がある用語ではないため、対象となるファームの範囲(戦略系・総合系・IT系・財務系(FAS:Financial Advisory Service、財務や会計の専門知見をもとにM&Aや事業再生を支援するアドバイザリー業務)・組織人事系などをどこまで含むか)には多少の違いがある。なお、経営コンサルタントという職業自体の一般的な仕事内容や必要スキルについては、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)で確認できる。
コンサルtoコンサルは、転職の目的によってさまざまなパターンに分けられる。本記事では、代表的な目的を「領域シフト型」「ワークライフバランス型」「営業リソース獲得型」「ポジション向上型」の4つに整理する。
なお、コンサルtoコンサルと混同されやすい概念に「シンクタンクtoコンサル」や「監査法人系アドバイザリーtoコンサル」がある。これらは出発点となる組織の業態が厳密にはコンサルティングファームと異なるため、統計や記事によっては別カテゴリとして扱われることもある。
境界があいまいな用語であるからこそ、求人票やエージェントとの面談時には、対象とする転職の範囲(戦略系・総合系・専門特化系のいずれを含むか)をすり合わせておくことが実務上重要になる。
| タイプ | 主な目的 | 典型的な転職パターン | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 領域シフト型 | 専門領域・テーマの変更 | 戦略系⇔FAS・組織人事系など | 得意テーマが明確になった人 |
| ワークライフバランス型 | 働き方・生活基盤の維持 | 高稼働・出張の多い環境→働き方の柔軟性を重視するファーム | 家庭との両立や働き方を見直したい人 |
| 営業リソース獲得型 | 案件受注基盤の確保 | 単独営業型→グループ営業基盤を持つファーム | パートナー・シニアクラス |
| ポジション向上型 | 役職・年収の引き上げ | 同領域の他ファームへ抜擢転職 | 即戦力として評価されている人 |
具体例・ミニケース
領域シフト型の具体例としては、戦略コンサルタントとして複数の業界横断プロジェクトを経験する中で「M&A戦略のプロジェクトが特に面白かった」と気づき、FAS(財務アドバイザリー)に強みを持つファームへ転じるケースが挙げられる。
逆に、IT導入プロジェクトの実行支援を担ってきたコンサルタントが「もっと上流の事業戦略から企業変革に関わりたい」と考え、ITコンサルから戦略コンサルへ転じる例も少なくない。
ポジション向上型の具体例としては、高い専門性や顧客基盤を持つ人材が、より高いポジションや役割を提示されて移籍するケースもある。即戦力採用を前提とするコンサルティング業界特有の転職パターンといえる。
営業リソース獲得型の具体例としては、自身で案件開拓を担ってきたパートナーが、グループ会社からの紹介や既存顧客基盤など、より強い営業基盤を持つファームへ移るケースが挙げられる。
ワークライフバランス型の具体例としては、育児や家族の介護と両立させる必要が生じたコンサルタントが、年収水準や業務内容を大きく変えずに、稼働時間の管理やリモートワーク制度が整ったファームへ移籍する例がある。近年は人材のリテンション(離職防止・定着)を重視し、働き方の柔軟性を打ち出すファームも増えており、こうした選択肢の現実性は高まっている。
ポストコンサルの他のキャリア選択との違い
コンサルtoコンサルは、ポストコンサルが選び得るキャリアの一つに過ぎない。事業会社への転職や独立・起業といった選択肢と比較すると、コンサル経験の活かし方やリスクの所在に違いが表れる。
| 選択肢 | コンサル経験の直接的な活用度 | 評価される能力 | 主なリスク |
|---|---|---|---|
| コンサルtoコンサル転職 | 高い(専門性を継続活用) | プロジェクト実績・専門領域 | 短期間の転職を繰り返す場合、転職理由やキャリアの一貫性を説明しにくくなる |
| 事業会社への転職(狭義のポストコンサル転職) | 中程度(役割が大きく変わる) | 経営企画・事業推進スキル | コンサル経験をそのまま転用できない場合、職種や役割が変わる可能性がある |
| 独立・起業 | 低い(自ら事業基盤を構築) | 営業力・事業構想力 | 収入の不安定化・案件獲得の負担 |
コンサル業界におけるコンサルtoコンサルの位置づけ
コンサルタント自身のキャリア整理にも、コンサルティングで使う「論点設計→現状分析→施策設計→資料作成」という考え方を応用できる。以下の4つの観点で整理すると、自身の転職理由を客観視しやすくなる。
論点設計(イシュー出し)
まず整理すべき論点は「なぜ今のファームに留まらず、他のコンサルティングファームへ移る必要があるのか」である。専門領域を変えたいのか、働き方を変えたいのか、営業基盤を変えたいのか、ポジションを上げたいのか。この論点を最初に明確化しないまま転職活動を進めると、内定を得た後の意思決定で迷いが生じやすい。
現状分析(As-Is整理)
次に、現職での担当プロジェクト・専門領域・評価水準・年収・働き方を棚卸しし、市場価値を客観的に把握する現状分析を行う。コンサルタント自身の職務経歴書(レジュメ)の内容が、そのまま現状分析の材料となる点も特徴的である。
施策設計(To-Be)
現状分析をもとに、どのファーム・どの領域・どのポジションを目指すかという施策設計(To-Be)を行う。この段階では、転職エージェントやリファラル(知人・元同僚からの紹介)など複数のルートを使って情報収集することが有効である。
資料作成(スライド構造)
最後に、自身の実績を職務経歴書という「資料」に落とし込む段階である。
プロジェクト実績を定量的な成果(コスト削減率、売上インパクト、プロジェクト規模など)とともに整理し、面接官に一目で伝わる構成にすることは、コンサルティング業務におけるスライド作成の発想と共通している。
コンサルtoコンサルの魅力の一つに、ファームを変えることで、担当できる案件・業界・専門領域、評価制度、働き方などを変えられる可能性がある点が挙げられる。コンサルティング業界では、ファームや職位、業績などによって報酬水準が大きく異なる。特にパートナー層では、個人の案件獲得実績やファームの報酬制度などによって報酬が大きく変動するため、転職時には提示される役割と報酬体系を個別に確認することが重要である。
一方で留意点もある。コンサルティング業界ではシニアクラスに昇格するほど、案件を受注する営業力が強く求められるようになる。専門的スキルだけでなく、クライアント企業からプロジェクトを直接受注できる営業力を並行して培っておくことが、40代・50代以降も業界内で活躍し続けるための鍵となる。また、転職市場全体では人材の流動性が高まっている。総務省「労働力調査」によると、2024年の転職者数は331万人となり、3年連続で増加した。
厚生労働省「雇用動向調査」によると、令和7(2025)年上半期の転職入職者では、前職より賃金が「増加」した割合が39.4%、「減少」した割合が31.5%となっている。もっとも、これらはいずれも労働市場全体の集計であり、コンサルティング業界に固有の傾向を示すものではない。個々のファーム・ポジションによって年収水準や評価制度は大きく異なるため、転職エージェントを通じて個別の求人条件を確認することが実務上は不可欠となる。
コンサル採用面接で問われる理由
コンサルティングファームの採用面接において、「コンサルtoコンサル」という用語そのものを面接官が直接尋ねる場面は多くない。むしろ重要なのは、この概念を通じて自身のキャリアの一貫性や転職理由を論理的に語れるかどうかという点である。
ケース面接との接点としては、転職理由や志望動機を問われた際に、自身のキャリアを「領域シフト」「ポジション向上」といった構造で整理し、論理的な因果関係とともに説明できることが評価につながりやすい。これはケース面接で求められる、論点を構造化して答える姿勢と地続きの能力である。
思考法としての位置づけでいえば、コンサルtoコンサルの背景にあるキャリア理論を丸暗記する必要はない。むしろ、自身の職務経験を俯瞰し、論点整理・現状分析・施策設計という順序で語れる思考の骨格を持っておくことが、面接全体を通じた論理展開に説得力を与える。概要と考え方の骨格をおさえておけば、十分な知識基盤になるといえるだろう。
FAQ
Q1. コンサルtoコンサルとは具体的に何を指すのか。
コンサルtoコンサルとは、在籍中のコンサルティングファームから別のコンサルティングファームへ移籍する転職を指す業界用語である。戦略系・総合系・IT系・財務系(FAS)・組織人事系など、ファームの系統をまたぐケースも含まれる。
目的別に「領域シフト型」「ワークライフバランス型」「営業リソース獲得型」「ポジション向上型」の4タイプに整理できる。公的な資格制度や統一的な定義団体は存在せず、あくまで人材業界・コンサルティング業界の実務上の呼称である点を理解しておく必要がある。
Q2. コンサルtoコンサル転職と、狭義のポストコンサル転職はどう違うのか。
狭義のポストコンサル転職は、コンサルティングファームから事業会社・スタートアップ・投資ファンドなど、業界外へ転じるキャリアを指すことが多い。これに対しコンサルtoコンサル転職は、転籍先も引き続きコンサルティングファームである点が最大の違いである。
前者は経営企画やCxOポジションなど事業運営に近い役割への転身が中心となる一方、後者は専門性やプロジェクト実績を業界内で継続的に積み上げていく性質が強い。どちらが優れているかではなく、目指すキャリア像によって適した選択肢が異なる。
Q3. コンサルtoコンサル転職を進める際、どのような手順・手段を使うべきか。
進め方としては、まず自身の転職理由(論点設計)を明確にし、次に現職での実績を職務経歴書に整理する現状分析を行う。
そのうえで、コンサルティング業界に強い転職エージェントへ登録し、非公開求人を含めた候補ファームの情報収集を進めるのが一般的な流れである。並行して、業界内の知人からのリファラル(紹介)を通じて情報を得るルートも活用される。
面接段階では、複数ファームの選考スケジュールを調整しながら、オファー条件を比較検討する期間を確保することが望ましい。
Q4. コンサルティング業界の実務・転職支援の現場でコンサルtoコンサルはどのように活用されているか。
転職支援の現場では、コンサルティング業界に特化したエージェントが、候補者の専門領域・プロジェクト経験・年収レンジをもとに、非公開求人を含めた候補ファームをマッチングする形で活用されている。パートナー候補など上位ポジションの採用では、営業基盤や既存クライアント関係を踏まえた戦略的な打診が行われることもある。
候補者側にとっては、自身の市場価値を可視化し、専門性を軸にしたキャリアの投資対効果(どの領域に強みを蓄積すれば市場価値が高まるか)を検討する材料としても機能している。
Q5. コンサルtoコンサルについてよくある誤解は何か。
代表的な誤解の一つは、「同業界内の転職だから年収は必ず上がる」というものである。実際には、領域シフト型やワークライフバランス型のように、年収よりも専門性や働き方を優先する転職も多く、必ずしも増収が目的ではない。
また「業界内転職は評判に傷がつく」という見方も一面的である。合理的な理由に基づく転職であれば、業界内でも自然なキャリア形成として受け止められることが多い。一方で、短期間での転職を繰り返す場合は、営業リソースや実績の蓄積という観点から慎重な判断が求められる点には注意が必要である。
Q6. コンサルtoコンサル転職に費用はかかるのか。
転職希望者本人がコンサルティング特化型の転職エージェントを利用する場合、一般的な人材紹介サービスでは費用は発生しない。多くの人材紹介事業では、候補者を採用したファーム側から成功報酬を受け取るビジネスモデルを取っているためである。
一方で、キャリアコーチングやレジュメ添削を専門業者に個別依頼する場合には、別途費用が発生することがある。また、短期間で転職を繰り返すと、専門性や実績の一貫性を説明しにくくなる場合がある。費用面だけでなく、こうした説明のしにくさや評判面への影響も踏まえて検討することが望ましい。
まとめ(実務整理)
コンサルtoコンサルは、専門性やプロジェクト実績を業界内で継続的に活かせる、ポストコンサルのキャリア選択肢の一つである。「領域シフト型」「ワークライフバランス型」「営業リソース獲得型」「ポジション向上型」という4つのタイプを軸に自身の転職理由を整理すると、選択肢の比較検討がしやすくなる。
コンサルティング業務で用いられる論点設計・現状分析・施策設計・資料作成という思考プロセスは、転職の意思決定そのものにも応用できる考え方であり、理解しておくと自身のキャリア整理に参考になるだろう。
採用面接との関係でいえば、この用語自体を暗記する必要性は高くなく、背景にあるキャリアの考え方を概要としておさえておく程度で十分な知識基盤になる。
出典
- 厚生労働省「雇用動向調査」:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/9-23-1.html
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「経営コンサルタント」:https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/81
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