弁護士法人
弁護士をめぐる業務環境は、どのように変化してきたのか。かつて弁護士は個人事務所を拠点として案件を個別に請け負うスタイルが主流であったが、企業法務・M&A・国際取引・労務問題など法律業務の複雑化・大型化が進むにつれ、個人単位では対応しきれないケースが増加した。
この課題に対応するために生まれたのが弁護士法人という組織形態である。法人格を持つことで、複数の弁護士が一体となって案件を受任し、社会インフラとしての継続性・安定性を確保できる。
コンサルティング業界においても、M&Aや組織再編プロジェクトでは弁護士法人との協働が常態化しており、その仕組みを理解しておくことは実務上の意義が大きい。
弁護士法人とは
弁護士法人の法的根拠は弁護士法第30条の2以降に規定されており、2001年(平成13年)の弁護士法改正によって制度が創設され、翌2002年(平成14年)4月1日から施行された。
それ以前も複数の弁護士による共同事務所は存在したが、法人格を持つ組織として法律事務を提供する仕組みは認められていなかった。
弁護士法人を構成する社員(出資して経営に参加する構成員のことであり、会社における従業員とは異なる概念である)は、全員が弁護士でなければならない。
この点は、弁護士資格を持たない者が経営権を握ることを禁じる「弁護士自治」の原則を反映している。
弁護士法人の主要な特徴は以下の3点に整理できる。
- 法人格の取得:個人ではなく法人として契約・受任・責任負担が可能となる
- 従たる事務所の設置:弁護士法人は従たる事務所(支店)を設置できる点が組織展開上の特徴であり、個人の法律事務所とは拠点展開の自由度に差がある
- 責任の構造:案件に起因する債務は一次的に法人財産で弁済される(弁護士法第30条の15)。法人財産で完済できない場合に限り、社員弁護士が連帯して補充的に責任を負う。なお、指定社員制度(同第30条の14)により特定案件の担当社員を依頼者に通知した場合は、当該案件については指定社員のみが責任を負い、他の社員は原則免責される
なお、弁護士法人の設立には日本弁護士連合会(日弁連:全国の弁護士・弁護士法人を統括する唯一の弁護士会連合会)への登録が必要であり、各地の弁護士会(単位弁護士会)への入会も義務付けられている。
弁護士法人と個人事務所の基本構造比較
| 比較項目 | 弁護士法人 | 個人法律事務所(非法人) |
|---|---|---|
| 法的主体 | 法人(弁護士法人) | 個人(弁護士個人) |
| 拠点展開 | 従たる事務所を設置可能 | 法人のような従たる事務所制度はない(個人の事務所設置については別途規律) |
| 受任主体 | 法人全体 | 担当弁護士個人 |
| 責任の所在 | 法人+社員弁護士の連帯責任 | 担当弁護士個人 |
| 社会保険(厚生年金・健康保険) | 法人として加入義務あり | 個人事業主扱い(国保・国民年金) |
| 弁護士会費 | 個人会費+法人会費(別途) | 個人会費のみ |
| 業務継続性 | 担当弁護士が退職しても法人として継続 | 事務所主の弁護士に依存 |
弁護士法人の具体例・ミニケース
弁護士法人の実態をより具体的に理解するため、代表的な活用場面を示す。
ケース①:M&Aにおける法務DDとの協働
製造業A社がターゲット企業Bを買収するプロジェクトでは、戦略コンサルが事業価値評価・シナジー試算を担当しつつ、弁護士法人が法務デューデリジェンス(DD:Due Diligence、対象企業の法的リスクを精査する調査プロセス)を並行して実施する体制が一般的である。
弁護士法人の複数弁護士が契約書・訴訟リスク・知的財産権を並行してレビューすることで、個人事務所では困難な短納期・大量案件処理が可能となる。
ケース②:弁護士過疎地域への支店展開
地方都市・離島など弁護士の絶対数が少ない地域(弁護士過疎地域)においては、弁護士法人が従たる事務所を設置し、本店からの弁護士を派遣または常駐させる形で法律サービスへのアクセスを確保する事例がある。
弁護士法人は法人として従たる事務所を設置できるため、広域的な法律サービス提供を可能にしており、この点が弁護士法人固有の社会的機能の一つといえる。
ケース③:大手コンサルファームとのアライアンス
Big4(ビッグフォー:デロイト・PwC・EY・KPMGの4大国際会計・コンサルファームの総称)などのグローバルプロフェッショナルサービスネットワークでは、メンバーファームとして弁護士法人が連携しているケースがある。
組織再編・コンプライアンス対応・クロスボーダー取引といったプロジェクトで、コンサルチームと弁護士法人が一体となってクライアント支援にあたる体制が整備されている。
なお、弁護士法人は弁護士自治の原則に基づき法律上の独立性を保持するため、「グループ内」ではなく「ネットワーク内のメンバーファーム」として位置づけられる。
弁護士法人・司法書士法人・法律事務所(非法人)との違い
法律系専門職の法人形態は複数存在する。それぞれの業務範囲・設立根拠・構成員要件は異なる。
| 区分 | 設立根拠 | 構成員資格 | 主な業務範囲 | 支店展開 |
|---|---|---|---|---|
| 弁護士法人 | 弁護士法 | 弁護士のみ | 訴訟・示談・企業法務・法律相談全般 | 可能 |
| 司法書士法人 | 司法書士法 | 司法書士のみ | 登記・供託・簡裁訴訟代理(認定者のみ) | 可能 |
| 法律事務所(個人・非法人) | 弁護士法 | 弁護士個人 | 訴訟・示談・企業法務・法律相談全般 | 不可 |
| 弁護士(個人) | 弁護士法 | 資格者本人 | 訴訟・示談・企業法務・法律相談全般 | 不可 |
弁護士法人と司法書士法人は、いずれも法人格を持つ点で共通するが、業務範囲が根本的に異なる。
弁護士法人は裁判所における訴訟代理・法律相談・示談交渉など幅広い法律事務を扱える一方、司法書士法人は不動産登記・会社登記などの登記業務が中心であり、訴訟代理は簡易裁判所(訴額140万円以下)における認定司法書士に限定される。
コンサルティング業務での位置づけ
論点設計(イシュー出し)
プロジェクト立ち上げ時の論点整理において、弁護士法人の関与が必要かどうかを早期に判断することが重要である。
M&A・組織再編・コンプライアンス強化・クロスボーダー取引などの案件では、法的リスクが論点の中核に位置するケースが多く、弁護士法人との連携体制を前提としたイシューツリー(Issue Tree:問題を構造的に分解する論点整理図)の設計が求められる。
現状分析(As-Is整理)
クライアント企業が既に弁護士法人と顧問契約を締結している場合、その契約内容・対応範囲・費用構造を現状整理のインプットとして活用できる。
また、クライアントが弁護士法人を使用していない場合や、顧問弁護士が個人事務所である場合には、案件規模・継続性・支店ニーズとの適合性を確認することが As-Is 分析の一項目となる。
施策設計(To-Be)
法的リスク管理体制の強化を施策として検討する場面では、企業の法務ニーズに応じて、必要な専門領域が揃っているか、全国・複数拠点対応が可能か、案件量に対応できる体制かといった観点から、外部法律専門家の選定や顧問契約の見直しが議題に上がることがある。
特に複数拠点を持つ企業やグローバル展開中の企業では、従たる事務所の設置が可能な弁護士法人の体制面の特性が参照される場合がある。
資料作成(スライド構造)
コンサルスライドにおいて弁護士法人を登場させる際には、「法的リスク対応の実施主体」として役割を明示することが多い。
プロジェクト体制図・ガバナンス構造図・外部専門家活用マップなどのスライドに弁護士法人の位置づけを図示することで、クライアントへの説明責任と体制の透明性を確保できる。
弁護士法人を活用するメリットと注意点
メリット
- 業務の継続性・引継ぎ性:担当弁護士が異動・退職した場合でも、法人として案件を引き継げるため、長期案件におけるリスクが低減される
- 専門性の集積:刑事・民事・企業法務・労務・相続・知的財産など多分野の弁護士を法人内に集約し、ワンストップで複合案件に対応できる
- 社会保険制度への対応:法人形態を採用することで、健康保険・厚生年金等の社会保険制度への対応を整えやすくなる。これにより所属弁護士の雇用環境の整備が進み、人材採用・定着において一定の効果が期待できる
- 対外的な組織体制の提示:法人格による継続性や組織的な対応体制を対外的に示しやすくなる。大規模な企業案件や複合案件において評価される場合がある
- 広域カバレッジ:支店展開が可能なため、クライアントの複数拠点や弁護士過疎地域における継続的なサポートが実現できる
注意点
- 会費の二重発生:弁護士法人は、個人弁護士として支払う弁護士会費に加え、法人としての別途会費が発生する。コスト構造の事前確認が必要である
- 連帯責任リスク:社員弁護士全員が連帯して責任を負う構造であるため、他の社員弁護士の案件に起因するリスクも間接的に引き受ける形となる。参加前のデューデリジェンスが重要である
- 組織運営コスト:法人格維持のための登記費用・管理コスト・事務局体制が必要であり、規模が小さい場合はコスト対効果の検討が求められる
- 意思決定の複雑化:複数の社員弁護士による合議が必要になる場面が生まれ、個人事務所に比べて意思決定のスピードが低下するケースがある
コンサル採用面接で問われる理由
コンサルファームの採用面接において、「弁護士法人とは何か」を直接問われるケースは多くない。
しかし、ケース面接や志望動機の説明のなかで法務・ガバナンス・M&Aといったテーマが登場した際に、弁護士法人の仕組みを理解しているかどうかは、論理展開の質に差として表れやすい。
例えば、「Big4はなぜ弁護士法人をネットワーク内のメンバーファームとして連携させているのか」「M&Aプロジェクトにおける外部専門家の役割は何か」といった問いに対し、弁護士法人の法人格・責任構造・従たる事務所設置といった仕組みを背景知識として持っていると、回答に具体性が生まれる。
また、法律事務所との業務分担やプロジェクト体制の設計を議論する場面では、弁護士法人という形態が持つ組織的特性(業務継続性・複数専門家の集約)を理解していることが、施策提言の説得力に直結する。
フレームワーク名を口にする必要はなく、「なぜその体制が機能するのか」を構造的に説明できることが、コンサル思考の基盤として問われている。
FAQ
Q1. 弁護士法人とは何か、個人の法律事務所と何が違うのか?
弁護士法人は、弁護士法に基づき弁護士が法人格を取得して設立する組織体であり、2001年(平成13年)の弁護士法改正によって制度が創設され、2002年(平成14年)4月1日から施行された業態である。
個人の法律事務所との最大の違いは、受任・責任・業務継続の主体が「個人」ではなく「法人」にある点である。
弁護士法人では、担当弁護士が退職・異動しても法人として案件を引き継ぐことができる。
また、弁護士法人は法人として従たる事務所を設置できる点に特徴があり、個人の法律事務所とは拠点展開に関する制度設計が異なる。
弁護士法人の社員(構成員)は全員が弁護士でなければならず、一般企業のように非弁護士が経営権を持つことは認められない。
継続性・組織的な対応体制の観点から、近年は法人化する弁護士事務所が増加傾向にある。
Q2. 弁護士法人と司法書士法人はどう違うのか?
弁護士法人と司法書士法人はいずれも法人格を持つ法律系専門家の組織であるが、業務範囲・構成員要件・根拠法が異なる。
弁護士法人は弁護士法を根拠とし、構成員は弁護士のみで、訴訟代理・示談交渉・企業法務・刑事弁護など幅広い法律事務を扱える。
一方、司法書士法人は司法書士法を根拠とし、構成員は司法書士のみで、不動産登記・会社登記などの登記業務が中心である。
訴訟代理権については、認定を受けた司法書士に限り簡易裁判所(訴額140万円以下の事件)での代理が認められるにすぎない。
コンサル実務においてM&A・組織再編・企業コンプライアンスに関わる法的支援が必要な場面では、弁護士法人が対応主体となる。
Q3. 弁護士法人がコンサルプロジェクトで活用されるのはどのような場面か?
弁護士法人がコンサルプロジェクトに関与するのは、法的リスクが事業判断の核心に影響する局面である。
代表的なものはM&Aにおける法務DD(デューデリジェンス)であり、買収対象企業の契約書・係争リスク・知的財産・労務問題などを弁護士法人の複数弁護士が並行して精査する。
組織再編では会社法・労働法・独占禁止法にまたがる論点が発生し、弁護士法人のチーム体制が効果的に機能する。
また、クロスボーダー取引・国際仲裁・外国当局対応では、渉外案件を得意とする弁護士法人との協働が不可欠となる。
Big4などのグローバルプロフェッショナルサービスネットワークが、メンバーファームとして弁護士法人と連携する体制を整えているのも、こうした複合案件をワンストップで提供できるようにするためである。
Q4. 弁護士法人の社員弁護士になる際に注意すべき実務上のリスクは何か?
弁護士法人の社員弁護士として参加する際には、責任の構造を正確に理解することが重要である。
弁護士法第30条の15は、法人財産でその債務を完済できない場合に、各社員が連帯して弁済の責任を負うという「補充的・第二次的な連帯責任」を規定している。一次的には法人財産が責任財産となる点が、単純な全員連帯責任とは異なる。
また、指定社員制度(弁護士法第30条の14)により、特定案件について担当社員(指定社員)を依頼者に通知した場合には、当該案件の責任は原則として指定社員のみが負い、他の社員は免責される。
ただし、指定されていない社員でも当該案件に関与した場合は注意義務違反が問われうるため、参加前には法人の財務状況・係争案件の有無・内部リスク管理体制などを確認することが現実的な対策となる。
また、弁護士会費については個人会費に加えて法人会費が別途発生するため、コスト試算を事前に行っておくことが望ましい。
組織運営上の意思決定プロセスが複数社員の合議を要する場合、個人事務所に比べてスピード感が低下するケースもある。
Q5. 弁護士法人についてよくある誤解は何か?
弁護士法人に関する代表的な誤解は、「法人化すれば業務範囲が拡大する」というものである。
実際には、弁護士法人の業務範囲は個人弁護士と同一であり、弁護士法に定められた法律事務の範囲を超えることはない。
法人化によって変わるのは業務範囲ではなく、「受任・責任・継続性の主体が法人になる」「従たる事務所の設置が可能になる」「社会保険制度への対応を整えやすくなる」といった組織的特性である。
また、「弁護士法人のほうが個人事務所より規模が大きい」という誤解もあるが、弁護士法人は社員1名からでも設立できる(弁護士法第30条の8)ため、小規模な弁護士法人も多数存在する。
なお、司法書士法人は2020年(令和2年)の改正により1名での設立が可能となっているが、税理士法人は2026年6月時点においても社員2名以上が設立・存続要件とされており、各士業によって法人化の要件は異なる。
さらに、「弁護士法人はすべて総合法律事務所である」という思い込みも正確ではなく、特定分野(企業法務・労働問題等)に特化した弁護士法人も多い。
Q6. 弁護士法人・外国法事務弁護士法人・弁護士・外国法事務弁護士共同法人の違いは何か?
日本の法律系法人にはいくつかの形態があり、業務範囲・構成員・根拠法が異なる。
外国法事務弁護士法人は、外国弁護士による法律事務の取扱いに関する法律(外弁法)に基づく法人であり、構成員は外国法事務弁護士(外弁)のみで、日本国内において外国法に関する法律事務を提供する。
日本法への関与は原則として認められず、弁護士法人とは根拠法・業務範囲・構成員要件のいずれもが異なる。
さらに2022年(令和4年)11月1日に施行された改正外弁法により、日本の弁護士と外国法事務弁護士が共同で社員となる「弁護士・外国法事務弁護士共同法人」が新たに認められた。
これにより、従来の「別法人同士の連携」だけでなく、一つの法人として日本法案件と外国法案件をワンストップで受任できる体制が整備されている。
Big4系を含む一部の国際法律事務所では、この共同法人制度を活用する動きが見られる。国際案件への対応力が一層強化されている。
なお、リーガルテック(LegalTech:法律業務のデジタル化・効率化を目的とした技術・サービスの総称)の普及に伴い、各法人形態においても業務プロセスの自動化やAI活用が進んでいるが、法律判断そのものを担うのは弁護士であるという原則は変わらない。
まとめ(実務整理)
弁護士法人は、2001年の弁護士法改正によって制度が創設され、2002年4月1日から施行された法人形態であり、法人格の取得・従たる事務所の設置・業務の継続性確保という点で、個人法律事務所にはない組織的特性を持つ。
法律業務の複雑化・大型化が進む現代において、企業法務・M&A・クロスボーダー取引などの案件では弁護士法人との協働が実務の標準となりつつある。
コンサルティング業務の文脈では、M&Aデューデリジェンスや組織再編プロジェクトにおいて弁護士法人が重要な外部専門家として機能する。Big4などのグローバルプロフェッショナルサービスネットワークでメンバーファームとして弁護士法人が連携する体制が整備されているのも、こうした実務ニーズへの対応である。
また、2022年施行の弁護士・外国法事務弁護士共同法人制度により、国際案件の一体的受任が可能な法人形態も加わり、法律サービスの提供体制は多様化が進んでいる。
弁護士法人の仕組み——受任主体の法人化、補充的な社員の連帯責任、従たる事務所設置の柔軟性——の骨格を概念として理解しておくことは、コンサルティング業務やコンサル転職を検討する際のベーシックな知識基盤として参考になるだろう。
出典
- e-Gov法令検索「弁護士法(昭和24年法律第205号)」https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205
- 日本弁護士連合会「日弁連の会員(弁護士法人について)」https://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/membership/about.html
- 法務省「弁護士・外国法事務弁護士共同法人制度の導入について(弁護士法人制度の概要を含む)」https://www.moj.go.jp/housei/gaiben/housei07_00042.html
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