フィージビリティスタディ

フィージビリティスタディ(Feasibility Study:FS)とは、新規事業・プロジェクトの着手前に、技術的・経済的・法的・組織的観点から実行可能性と採算性を多面的に検証し、投資判断の根拠を形成する構造化された調査プロセスである。

新規事業やプロジェクトへの投資判断において、なぜ多くの企業が着手前に詳細な調査フェーズを設けるのか。それは、実行に踏み切った後に発覚する構造的な問題が、取り返しのつかないコスト超過やプロジェクト中断につながるからである。

フィージビリティスタディ(Feasibility Study:以下FS)は、こうした「実行後の失敗」を未然に防ぐための意思決定支援プロセスとして、インフラ整備・M&A・新規事業立ち上げ・ITシステム導入など、あらゆる大型投資判断の局面で活用されている。

コンサルティングファームがFSを担う場面では、クライアントの内部では得られない客観的な市場データや技術評価、財務モデルの構築が求められる。事業の実行可能性を「Yes/No」で判断するにとどまらず、どの条件を満たせばGoとなるかという条件付き推奨の形で示すことが実務上の価値につながる。

フィージビリティスタディとは

FSはFeasibility(実行可能性・実現可能性)とStudy(調査・研究)を組み合わせた英語表現であり、日本語では「実現可能性調査」または「採算性調査」と訳される。略称のFSとして使われることも多い。

FSが対象とする「実行可能性」は、単一の評価軸で判断されるものではなく、以下の複数の評価次元を同時に検証する必要がある。

  • 技術的実行可能性(Technical Feasibility):必要な技術・特許・設備が調達・実装できるか
  • 財務的実行可能性(Financial Feasibility):投資対効果(ROI)・収益予測・資金調達の実現性
  • 市場的実行可能性(Market Feasibility):基本の市場規模・需要の存在・競合環境・顧客獲得の蓋然性
  • 法的・規制的実行可能性(Legal/Regulatory Feasibility):法令・許認可・税制への適合性
  • 組織的実行可能性(Organizational Feasibility):人材・体制・スケジュールの整合性

FSはプロジェクト計画の精度を高めるための「投資前の構造化検証」であり、実行計画そのものではない。実行判断(Go/No-Go)の根拠を提供するとともに、条件付き推奨(「〇〇の条件が整えばGo」)という形で意思決定を支援する点に本来の機能がある。

一方、FSは全てのプロジェクトに必要なわけではない。小規模・低リスクな案件ではコストに見合わない場合もあり、リスクの大きさと調査の深度は比例させることが原則である。

フィージビリティスタディの主要評価次元

評価次元 主な確認事項 代表的な調査手法
技術的実行可能性 技術要件・特許・設備・インフラ 技術評価・プロトタイプ検証
財務적実行可能性 ROI・収益予測・資金調達・損益シミュレーション 財務モデリング・感度分析
市場的実行可能性 市場規模・競合・顧客ニーズ・価格受容性 市場調査・競合分析・TAM/SAM/SOM推計
法的・規制的実行可能性 法令・許認可・税制・コンプライアンス 法務デューデリジェンス・規制マッピング
組織的実行可能性 人材・体制・スケジュール・変革管理 組織診断・WBS・リソース計画

フィジビリティスタディの具体例・ミニケース

ケース①:製造業の新工場設立

ある中堅製造業が東南アジアへの生産拠点移転を検討した際、FSにより以下が明らかになった。現地の土地取得コストと物流インフラの未整備により、当初想定の投資回収期間(5年)が8〜10年に延長する見込みであることが判明。

また、現地の技術者採用に2年以上を要する可能性が示され、最終的に「3年後の再検討」という条件付き判断が下された。

この事例が示すのは、FSが「実行しない」結論を出すことではなく、「どの条件が整えばGoとなるか」を明確にする機能を持つという点である。

ケース②:ITシステム刷新プロジェクト

大手小売業が基幹システムの全面刷新を検討した際、FSでは技術的実行可能性として現行システムとの移行互換性、財務的実行可能性として5年間のTCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)比較、組織的実行可能性として社内IT人材のスキルギャップが評価された。

FSの結論は「段階的移行(フェーズ分割)を条件に推奨」というものであり、一括刷新のリスクを回避するロードマップが示された。

ケース③:コンサルティングでのケース面接との接点

コンサル採用のケース面接では「ある企業の売上を5年で2倍にする施策を考えよ」といった設問が出ることがある。

この場合、複数の成長施策(新市場参入・新製品開発・M&A等)を列挙した上で、各施策の実行可能性(Feasibility)とインパクトの大きさで優先順位をつける思考プロセスが自然に求められる。FSの概念を内面化した思考は、こうした施策評価のロジックを組み立てる際の骨格として機能する。

類似手法との違い:デューデリジェンス・ビジネスケース・PoC

FSと混同されやすい手法として、デューデリジェンス(DD)・ビジネスケース・PoC(Proof of Concept:概念実証)がある。それぞれの目的・タイミング・主体が異なるため、整理しておくことが重要である。

類似手法との比較

手法 主な目的 実施タイミング 判断主体
フィージビリティスタディ(FS) 実行可能性・採算性の多面的検証 投資意思決定の前段 経営陣・プロジェクトオーナー
デューデリジェンス(DD) M&Aにおける対象企業のリスク精査 LOI締結後〜最終契約前 買収側・FA・法務アドバイザー
ビジネスケース 投資対効果の定量的正当化・予算承認申請 社内承認プロセス 事業部門・CFO
PoC(概念実証) 技術・仮説の小規模実証・リスク低減 FS後の技術検証段階 技術チーム・プロダクトオーナー
パイロットプロジェクト 本格展開前の限定的実施・効果測定 PoC後・本格投資前 事業部門・現場チーム

FSとDDの最大の違いは「対象の性質」にある。FSは自社主導のプロジェクト・事業の実行可能性を問うものであるのに対し、DDは外部企業(M&A対象)のリスクを精査するものであり、実施タイミングも異なる。

またFSとビジネスケースは混同されやすいが、FSは調査プロセスであり結論はGo/No-Goの判断根拠であるのに対し、ビジネスケースはGoと判断した後の投資正当化資料であり、社内承認取得が主な目的である。

コンサルティング業務でのフィージビリティスタディの位置づけ

論点設計(イシュー出し)

FSプロジェクトの論点設計では、「この事業・プロジェクトは実行すべきか」という中心イシューを分解することから始まる。技術・財務・市場・法規・組織の5次元を評価軸として設定し、それぞれに「何がわかればGo判断が可能か」という形でサブイシューを構造化する。

コンサルタントが担う論点設計の核心は、クライアントが「やりたい」という前提で動いているプロジェクトに対して、第三者として客観的な評価軸を設定し、感情的な投資意欲と論理的な実行可能性を切り分ける点にある。

現状分析(As-Is整理)

現状分析では、外部要因と内部要因の双方を網羅的に収集・整理する。外部要因としては政治・経済・法制度・税制・インフラ整備状況・自然環境・業界動向・マーケット規模・競合状況などが対象となる。

内部要因としては自社の保有技術・特許・販売計画・財務状況・資金調達能力・人材・スケジュール・競争優位性が含まれる。

コンサルファームが実施するAs-Is整理では、クライアント社内では取得困難な一次情報(現地規制の詳細・競合の非公開動向・専門家インタビュー等)の収集に強みがある。定量データと定性情報を組み合わせたエビデンスベースの現状整理が実務上の付加価値となる。

施策設計(To-Be)

FSにおけるTo-Be設計とは、実行シナリオの複数案を比較・評価するプロセスである。代替案(Alternative)を明示的に設定し、それぞれについて収益シミュレーション・リスク評価・実施工数を比較することで、「最適実行シナリオ」と「条件付き推奨」の両方を提示できる形にする。

感度分析(Sensitivity Analysis)を活用し、主要な前提条件(市場成長率・コスト単価・為替等)が変動した場合の収益変化を可視化することで、不確実性下での意思決定を支援する。シナリオは楽観・基本・悲観の3ケースを設定するのが標準的である。

資料作成(スライド構造)

FSの成果物であるデリバラブル(Deliverable:最終報告書)のスライド構成は、一般的に以下の順序で組み立てられる。

  • エグゼクティブサマリー(Go/No-Go判断と主要根拠の1〜2枚要約)
  • 評価フレームワーク(5次元の評価軸と判断基準の明示)
  • 各評価次元の分析(現状・リスク・前提条件を整理)
  • 財務モデル・収益シミュレーション(3ケース比較)
  • 代替案比較(シナリオ別のFeasibility評価)
  • 推奨とネクストステップ(条件付き推奨・実行ロードマップ)

意思決定者向けのスライドでは、各評価次元の結論を「信号機型(Red/Yellow/Green)」で視覚化し、全体の実行可能性スコアを直感的に把握できる構造にすることが有効である。

フィージビリティスタディの導入メリットと注意点

導入メリット

  • 意思決定の根拠の明確化:感覚的・経験則的な判断から、エビデンスに基づく投資判断へ移行できる
  • リスクの早期可視化:実行後に判明する構造的問題(法規制・技術的ボトルネック等)を着手前に特定できる
  • 複数案の客観的比較:代替案を同一基準で評価することで、最適シナリオの選択が可能になる
  • ステークホルダーへの説明責任:投資判断の根拠を文書化することで、取締役会・出資者・規制当局への説明が容易になる
  • プロジェクト計画の精度向上:FSで明らかになった前提条件・リスク・工数を実行計画に反映でき、予算超過や工程遅延を抑制できる

注意点と適用限界

  • FSはあくまで「現時点の情報に基づく判断」であり、環境変化(市場・規制・技術)によって結論が陳腐化するリスクがある
  • 過度に詳細なFS(いわゆる「FSのためのFS」)は意思決定を遅らせ、機会損失につながる可能性がある
  • FSの品質はインプット情報の質に大きく依存する。不完全なデータに基づくFSは誤った安心感を与えるリスクがある
  • FSの結論が「条件付き推奨」であっても、組織の意思決定バイアスによりGoとして解釈される政治的リスクがある
  • 小規模・短期プロジェクトではFSのコスト・時間が投資額に対して不釣り合いになるケースがある

コンサル採用面接でフィジビリティスタディを押さえておくべき理由

コンサルティングファームの採用面接で、FSという用語そのものが直接問われることは多くない。ただし、FSの背景にある「多面的な実行可能性の検証」という思考構造は、ケース面接で施策の実現性を評価する際の判断軸として自然に機能する。

たとえば「新規市場への参入を検討せよ」というケース問題では、複数の参入シナリオをリストアップした上で、それぞれの実現可能性とインパクトを評価する構造が問われる。

このとき、技術・財務・市場・法規・組織の5次元で施策を評価するFSの枠組みを内面化した思考は、回答の論理展開に一貫性と深みをもたらす。

また、「なぜその施策を優先するのか」という面接官の深掘り質問に対しても、単なる直感ではなく「実行可能性の検証をしたうえで最もFeasibleな施策であるため」という論理を自然な形で展開できる。FSの概念と考え方の骨格をおさえておくと、こうした場面での論理展開に説得力が生まれる。

FAQ:フィージビリティスタディに関するよくある質問

Q1.フィージビリティスタディとはどのような調査か

フィージビリティスタディ(FS)とは、新規事業・プロジェクトの着手前に技術的・財務的・市場的・法的・組織的の5次元から実行可能性と採算性を検証し、投資判断の根拠を形成する構造化された調査プロセスである。

単に「できるかどうか」を確認するだけでなく、「どの条件を満たせばGoとなるか」という条件付き推奨の形で意思決定を支援する点が特徴である。FS(エフエス)と略されることが多く、日本語では「実現可能性調査」または「採算性調査」とも呼ばれる。

規模の大きい案件ほど詳細な分析が求められ、財務モデリング・市場調査・法務精査・感度分析などの手法が組み合わせて用いられる。

Q2.フィージビリティスタディとデューデリジェンスはどう違うか

フィージビリティスタディ(FS)とデューデリジェンス(DD)の最大の違いは「対象と目的」にある。

FSは自社が主体となって推進するプロジェクト・事業の実行可能性を投資前に検証するプロセスであるのに対し、DDはM&A(合併・買収)における対象企業のリスク・価値を精査するための調査であり、通常はLOI(Letter of Intent:基本合意書)の締結後に実施される。

FSは「Goすべきか」の判断に用いられ、DDは「いくらで・どんな条件でGoするか」の判断に用いられる。また、FSはプロジェクトオーナーが主体であるのに対し、DDは財務アドバイザー・法務アドバイザー・会計士等の専門家チームが主導する。目的・タイミング・実施主体の3点で明確に区別される。

Q3.フィージビリティスタディはどのような手順で実施するか

FSの実施手順は、一般的に以下の流れで進む。まず評価目的と評価次元の設定を行い、何をもってFeasibleとするかの判断基準を明確にする。

次にAs-Is整理として外部環境(市場・法規・競合)と内部環境(技術・財務・人材)の現状調査を実施する。続いて代替案(シナリオ)を設計し、財務モデル・収益シミュレーション・感度分析を通じて各シナリオの採算性と実行可能性を定量評価する。

最後に評価結果を統合し、Go/No-Go判断または条件付き推奨としてまとめ、意思決定者に報告する。リスクの大きさに比例して調査の深度を調整することが原則であり、「どの程度の不確実性を許容できるか」が調査設計の核心となる。

Q4.コンサルティングファームはフィージビリティスタディをどのように活用するか

コンサルティングファームがFSに関与する場面は主に3つある。

第一は、クライアントの新規事業・海外展開・大型設備投資等の意思決定支援であり、第三者の客観적立場から技術・財務・市場の複合的な評価を提供する。

第二はインフラ・エネルギー・不動産開発など、公共性の高いプロジェクトへの参画であり、政府・自治体・金融機関向けにFSレポートを作成するケースが多い。

第三はM&A前後の事業性評価であり、買収対象事業のFS(事業継続性・収益改善の実現可能性)を実施することがある。いずれの場合も、コンサルファームの強みはクライアント社内で取得困難な一次情報の収集力と、財務モデリング・感度分析の技術力にある。

Q5.フィージビリティスタディに関するよくある誤解は何か

FSに関する代表的な誤解は3つある。

第一は「FSはGoを正当化するための資料である」という誤解であり、実際にはNo-Goや条件付き推奨を示すことがFSの本質的な価値である。実行バイアスが強い組織では「FSはGoの裏付けを作る作業」と曲解されるリスクがあり、この点が最も注意すべき落とし穴である。

第二は「FSを実施すれば不確実性がなくなる」という過信であり、FSはあくまで「現時点の情報に基づく構造化された判断」であり、環境変化によって結論が変わる可能性は残る。

第三は「FSと実行計画は同じものである」という混同であり、FSは意思決定の前段にある判断材料であり、実行計画(プロジェクト計画書・WBS等)は別途作成するものである。

Q6.フィージビリティスタディの費用・期間の目安はどのくらいか

FSの費用と期間は、プロジェクトの規模・複雑性・調査対象地域によって大きく異なる。一般的な目安として、中規模プロジェクト(数億〜十数億円規模の投資判断)では1〜3ヶ月・数百万〜数千万円程度のFS費用が発生することが多い。

大型インフラ案件や海外展開案件では、現地調査・法務精査・財務モデリングを含む包括的なFSで6ヶ月以上・数千万円を超えるケースもある。

一方、社内リソースのみで実施する小規模FSであれば数週間・数十万円程度に収まることもある。重要なのは、FS費用は「回避できたコスト・リスクの大きさ」と比較して評価するものであり、投資判断の失敗による損失が大きいほどFSへの投資対効果は高くなる。

まとめ:フィージビリティスタディの実務的意義

フィージビリティスタディ(FS)は、大型投資・新規事業・プロジェクト立ち上げにおける「実行前の構造化された検証プロセス」として、意思決定の質を高める実務上の価値を持つ。

技術・財務・市場・法規・組織の5次元から多面的に実行可能性を評価し、Go/No-Goのみならず「条件付き推奨」という形で意思決定を支援する点にFSの本質がある。

コンサルティング業務においては、論点設計・現状分析・施策設計・成果物作成の各フェーズでFSの思考枠組みが機能する。特に「代替シナリオの比較」と「感度分析による不確実性の可視化」は、クライアントへの実務上の付加価値として重要な位置を占める。

コンサル採用の観点では、FSという用語そのものよりも、その背景にある「多面的な実行可能性の検証思考」を内面化しておくことで、ケース面接での施策評価や論理展開に厚みが生まれる。ベーシックな知識として概要と考え方の骨格をおさえておけば十分な知識基盤となる。

出典


Project Management Institute(PMI)『A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide)』
https://www.pmi.org/pmbok-guide-standards/foundational/pmbok

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