経営戦略

経営戦略とは、企業がありたい姿(To-Be)と現状(As-Is)のギャップを把握し、そのギャップを埋めるための全社レベルの方向性・優先順位・資源配分の意思決定枠組みである。

企業が持続的に成長するためには、どの市場で戦い、どのように競争優位を築くかを、組織全体で共有された一貫した論理のもとで決定していく必要がある。

しかし、日々の業務に追われる現場や、個別施策に特化した機能部門だけでは、この全社レベルの意思決定を担うことは難しい。

こうした課題に応えるのが経営戦略(Corporate Strategy)の概念である。経営戦略は、単なる目標設定ではなく、「どこに向かうか(ありたい姿)」「現在どこにいるか(現状)」「そのギャップをどう埋めるか(打ち手)」という三層の問いに対して、組織として一貫した回答を与える意思決定の枠組みである。

変化の激しい事業環境において、経営戦略は経営トップのアジェンダにとどまらず、M&A・事業ポートフォリオ再編・DX投資といった大型意思決定の根拠となる。

コンサルティング業務においても、経営戦略の立案・実装支援は最も重要なサービス領域の一つであり、その構造と実務プロセスを理解しておくことは、コンサルタントとして活動するうえでの基盤となる。

経営戦略とは

経営戦略は、英語ではCorporate StrategyまたはBusiness Strategyと表記され、企業の全体像に関わる意思決定の体系を指す。

語源はギリシャ語の「strategos(将軍・軍の指揮官)」に由来し、限られた資源をいかに配分して目標を達成するかという軍事的思考から転用されたものである。

経営学においては、1965年にH・イゴール・アンゾフ(Igor Ansoff)が著書『企業戦略論』で初めて体系化し、その後マイケル・ポーター(Michael Porter)の競争戦略論(1980年)、および1990年代のリソース・ベースト・ビュー(Resource-Based View:企業の内部資源・ケイパビリティを競争優位の源泉と捉える理論)によって理論的な厚みが加えられた。

経営戦略は「全社戦略」「事業戦略」「機能戦略」の三層構造で把握されることが多い。

全社戦略(Corporate Strategy)は企業全体の方向性と事業ポートフォリオの最適化を扱い、事業戦略(Business Unit Strategy)は特定の事業・市場における競争優位の構築方法を扱う。

機能戦略(Functional Strategy)はマーケティング・SCM(Supply Chain Management:供給連鎖管理)・人事など各機能部門の遂行方針を定める。経営戦略の策定において不可欠な条件は次の三点である。

①ありたい姿(To-Be)の明確化:財務目標・市場ポジション・ミッション・ビジョンを含む複合的な到達点の設定。

②現状(As-Is)の客観評価:3C分析(Customer・Competitor・Company)、SWOT分析(Strength・Weakness・Opportunity・Threat)、PEST分析(Political・Economic・Social・Technological)等を用いた内外環境の把握。

③ギャップの解消策の設計:オーガニック成長(既存事業の伸長・新顧客開拓・業務効率化)とインオーガニック成長(M&A・アライアンス・合弁)の組み合わせを検討する。

なお、経営戦略は最終的に実行されてはじめて意味をもつ。策定にとどまらず、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の設定・ロードマップ化・推進体制の整備まで含めた一連のプロセスが「経営戦略の全体像」である。

経営戦略策定の主要プロセス

フェーズ 主な作業内容 代表的ツール・手法
① ありたい姿の設定 財務目標・ミッション・ビジョンの言語化 バランスト・スコアカード(BSC)、OKR
② 現状分析(As-Is) 内外環境の客観評価 3C分析、SWOT分析、PEST分析、バリューチェーン分析
③ ギャップ分析 目標と現状のボトルネック特定 ギャップ分析、論点ツリー、イシュー分析
④ 戦略オプション策定 オーガニック・インオーガニック両面の打ち手列挙 アンゾフ・マトリクス、ポーターの競争戦略
⑤ 戦略選択・優先順位付け 投資対効果・実現可能性・リスクの総合評価 ペイオフ・マトリクス、スコアリング評価
⑥ アクションプランへの落とし込み KPI設定・ロードマップ化・推進体制の構築 PMO(Program Management Office)設置、OKR連動

経営戦略の具体例/ミニケース

【ケース①:製造業A社の経営戦略転換】

国内市場の縮小と原材料高騰に直面した中堅製造業A社は、従来の「国内製造・国内販売」モデルの限界を認識し、経営戦略の全面的な見直しに着手した。

ありたい姿として「アジア市場において高付加価値製品で売上の40%を獲得する」という10年目標を設定。

3C分析とSWOT分析を通じて、同社の強みである高精度加工技術と、東南アジアのインフラ整備需要の拡大というマクロ環境の好機を接合した。

ギャップ解消策として、ベトナムへの製造拠点移転(オーガニック)と、現地上位企業へのマイノリティ出資(インオーガニック)を組み合わせ、3年間のロードマップに落とし込んだ。

PMO(Program Management Office:大規模プログラムの進捗管理・調整を行う推進組織)を設置し、四半期ごとにKPIをモニタリングする体制を整えた結果、5年後に海外売上比率28%を達成した。

【ケース②:IT企業B社の全社戦略見直し】

急成長フェーズを経て事業ポートフォリオが複雑化したIT企業B社は、ROE(Return on Equity:自己資本利益率)の低下という財務課題を契機に経営戦略を見直した。

バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard:財務・顧客・内部プロセス・学習と成長の4視点でKPIを設定する戦略管理ツール)を導入し、全社目標と各事業部目標を連動させる仕組みを構築した。

成長が鈍化したレガシー事業を売却(ポートフォリオ最適化)し、得た資金をAI関連のM&Aに充当することで、3年以内にROEを8%から14%へ改善する戦略を策定した。

経営戦略・事業戦略・機能戦略の違い(比較表)

経営戦略・事業戦略・機能戦略は「戦略」という名称を共有するが、対象範囲・策定主体・時間軸が異なる独立した概念である。

戦略階層の比較

比較軸 経営戦略 事業戦略 機能戦略
策定主体 経営トップ(CEO・取締役会) 事業部長・BU責任者 各機能部門長(CFO・CMO等)
対象範囲 企業全体(全社) 特定の事業・市場領域 営業・マーケ・SCM等の個別機能
時間軸 3〜10年(中長期) 1〜5年(中期) 1〜3年(中短期)
主な問い 「何を、どこで戦うか」 「どう競争優位を築くか」 「いかに効率的に実行するか」
代表的フレームワーク SWOT・アンゾフ・M&A戦略 ポーターの競争戦略・BCGマトリクス マーケティングミックス・SCM最適化
コンサル支援の重心 ビジョン策定・ポートフォリオ再編 市場参入・競合分析・差別化設計 業務改善・コスト削減・プロセス変革

三層の関係性は「上位戦略が下位戦略の方向性を規定する」ヒエラルキー構造であり、機能戦略は事業戦略を、事業戦略は全社戦略を支える役割を担う。

実務では「経営戦略」という言葉が文脈に応じて全社戦略・事業戦略の両方を指す場合があるため、議論の場では指示対象を確認する習慣が重要である。

コンサルティング業務での経営戦略の位置づけ

論点設計(イシュー出し)

経営戦略プロジェクトにおける論点設計では、「経営課題の本質は何か」というイシュー(Issue:解くべき問い)を最初に特定する。

単に「売上が低迷している」という事象を問いにするのではなく、「どの事業・市場でどのような競争劣位が生じているか」「リソース配分の歪みはどこにあるか」という構造的な問いを立案する。

MECEな(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:相互排他かつ全体網羅的な)論点分解が、分析の抜け漏れを防ぐうえで不可欠である。

現状分析(As-Is整理)

As-Is整理では、3C分析・SWOT分析・PEST分析・バリューチェーン分析(Value Chain Analysis:企業活動を主活動と支援活動に分解し付加価値の源泉を特定するフレームワーク)を組み合わせて現状を多面的に把握する。

顧客インタビューや競合ベンチマーク(競合他社の戦略・KPI・組織構造を比較評価する作業)を通じた一次情報収集も重要であり、財務データ・市場データの定量分析と、現場ヒアリングによる定性情報を統合して、現状の「実態」を立体的に把握することがコンサルタントの役割である。

施策設計(To-Be)

To-Be設計では、ギャップ解消に向けた戦略オプション(複数の打ち手候補)を列挙したうえで、各オプションの実現可能性・投資対効果・リスクを評価して優先順位を付ける。

オーガニック成長(新規顧客開拓・既存事業深耕・業務効率化)だけでは目標達成が難しいと判断される場合には、M&A・合弁・事業売却等のインオーガニック手段も候補として検討する。

最終的な戦略選択には、アンゾフ・マトリクス(製品×市場のマトリクスで成長オプションを整理するフレームワーク)やペイオフ・マトリクスが活用される。

資料作成(スライド構造)

経営戦略を経営層・取締役会へ提案するスライドでは、以下の構成が標準的である。

①エグゼクティブ・サマリー(全体の結論と推奨アクション)
②現状分析(As-Is:市場・競合・自社の三層)
③ありたい姿とギャップ
④戦略オプションの比較
⑤推奨戦略と根拠
⑥実行ロードマップとKPI
⑦リスクと対応策

各スライドは「So What(それで何が言えるか)」を冒頭1文で示す「結論先出し構造」を徹底し、データ・事実・解釈の三層を混在させない。

経営戦略の導入メリットと注意点

導入・活用のメリット 注意点・落とし穴
全社の意思決定軸が統一され、現場レベルの判断ブレが減少する ありたい姿が抽象的すぎると、現場への落とし込みが困難になる
M&A・新規事業・資源配分の優先順位付けに一貫性が生まれる 外部環境の変化速度が速い業界では、策定後すぐに陳腐化するリスクがある
投資家・金融機関・従業員への説明責任(アカウンタビリティ)を果たしやすくなる 戦略策定に注力するあまり、実行計画(アクションプラン)が形骸化しやすい
事業ポートフォリオの最適化により、ROE(自己資本利益率)向上が期待できる 経営層だけで閉じた議論になると、現場の実態やボトムアップの知見が反映されない

コンサル採用面接で経営戦略を押さえておくべき理由

コンサルティングファームの採用面接、特にケース面接において、経営戦略という概念が直接的に問われる場面は多くない。

しかし、「○○業界の市場縮小に対してどう対処するか」「A社の収益改善策を考えよ」といったケース問題に取り組む際、経営戦略の構造を内面化していると、回答の論理が格段に整理されやすくなる。

特に重要なのは、①ありたい姿の設定→②現状分析→③ギャップのボトルネック特定→④オーガニック/インオーガニックの打ち手設計という思考の流れを自然に用いられるかどうかである。

この流れに沿って回答を組み立てると、問題の全体像を俯瞰したうえで施策の優先順位を示せるため、面接官には「構造的思考ができる候補者」として映りやすい。

また、「経営戦略と事業戦略の違いは何か」「全社最適と部分最適の違いをどう考えるか」といった概念的な問いが会話のなかで挟まれることもある。

各階層の戦略が担う役割の違いと、それらが連鎖している構造を概念レベルで理解しておけば、そうした問いへの応答にも十分な知識基盤となる。

経営戦略に関するFAQ

Q1.経営戦略とは何か、一言で説明するとどうなるか。

経営戦略とは、企業がありたい姿(To-Be)と現状(As-Is)のギャップを把握し、そのギャップを埋めるために「何を・どの市場で・どのような資源配分で」行うかを全社レベルで決定する意思決定の枠組みである。

単なる目標設定や計画とは異なり、複数のオプションの中から優先順位を付けて選択するという「選択と集中」の論理が本質にある。

実務的には、
・財務目標(売上・ROE・EBITDA等)
・市場ポジション
・事業ポートフォリオ
の三点を中心に設計され、経営トップの意思決定軸として機能する。

Q2.経営戦略と事業戦略はどう違うか。

経営戦略(全社戦略)は「どの事業・市場で戦うか」というポートフォリオ全体の意思決定を行うものであり、策定主体は経営トップ(CEO・取締役会)である。

一方、事業戦略(Business Unit Strategy)は「既に参入している市場においていかに競争優位を築くか」という個別事業レベルの問いに答えるもので、策定主体は事業部長や事業ユニット責任者となる。

時間軸でも差があり、経営戦略が3〜10年のより長期的な視野をもつのに対し、事業戦略は1〜5年の中期が主な対象となる。

実務では「経営戦略」という語が文脈に応じて両方を指す場合があるため、議論の場では指示対象を明確にすることが重要である。

Q3.経営戦略策定のプロセスはどのように進めるのか。

標準的な経営戦略策定プロセスは、
①ありたい姿の設定(財務目標・ビジョン・ミッションの言語化)
②現状分析(3C分析・SWOT分析・PEST分析による内外環境の把握)
③ギャップ分析(目標と現状の乖離とそのボトルネックの特定)
④戦略オプションの設計(オーガニック・インオーガニックの打ち手の列挙と評価)
⑤戦略選択と優先順位付け(実現可能性・投資対効果・リスクの総合評価)
⑥アクションプランへの落とし込み(KPI設定・ロードマップ化・推進体制の構築)
の六段階で構成される。

各フェーズで使用するツールや調査手法は業界・企業規模・プロジェクト目的によって異なるが、「ありたい姿→As-Is→ギャップ→打ち手」という思考の順序は共通している。

Q4.コンサルティングファームは経営戦略支援においてどのような役割を担うか。

コンサルティングファームは、経営戦略支援において大きく二つの役割を担う。

一つ目は「戦略立案支援」であり、市場調査・競合分析・財務モデリング・ワークショップ運営を通じて、クライアント企業が自力では難しい客観的分析と選択肢の設計を担う。

二つ目は「実行支援(PMO支援)」であり、策定した戦略をアクションプランに落とし込み、KPIモニタリングや進捗管理を担当するPMO(Program Management Office)として継続的に関与するものである。

前者は単発プロジェクト型、後者はリテーナー型(継続契約型)として提供されることが多く、クライアントのニーズや予算規模によって支援形態が選択される。

M&A支援では、戦略策定(ターゲット企業の選定・シナジー試算)からPMI(Post-Merger Integration:合併後の統合プロセス)まで一気通貫で支援するファームも増えている。

Q5.経営戦略に関してよくある誤解は何か。

最も多い誤解の一つは「経営戦略=長期計画(中期経営計画)」と捉えることである。中期経営計画はKPIや投資計画などを数値化した実行計画であり、経営戦略はその上位概念として「何のために・どこで戦うか」という選択の論理を担う。計画の精度を高めることと、戦略の質を上げることは異なる作業である。

二つ目の誤解は「経営戦略は経営トップだけが関わるもの」という認識である。実際には、事業部・現場のボトムアップの知見が反映されない戦略は実行力を欠く傾向があり、現場の実態把握と経営層の判断を接合するプロセスが戦略の質を左右する。

三つ目は「一度策定すれば完成」という静的な理解であり、経営戦略は外部環境の変化に応じて定期的に見直される「生きた文書」として機能させることが重要である。

Q6.経営戦略の失敗事例に共通するパターンはあるか。

経営戦略が機能しない失敗事例に共通するパターンは主に四点ある。

①ありたい姿の抽象度が高すぎて現場への落とし込みができない(「世界をリードする企業になる」等の定性的目標だけで、KPIが設定されていない)。

②外部環境分析が形式的で、策定時点ですでに仮定が崩れている(市場成長率を楽観的に設定する等)。

③戦略策定プロセスが経営トップ・コンサルタントに閉じており、現場の実態・制約が織り込まれていない。

④アクションプランへの落とし込みが不十分で、「誰が・いつまでに・何をするか」が不明確なまま実行フェーズに移行してしまう。

これらはコンサルティング支援においても頻繁に遭遇する課題であり、戦略策定と実行計画を分離せず一体的に設計することが失敗リスクを低減する。

まとめ(実務整理)

経営戦略は、企業の全社レベルの意思決定を「ありたい姿→現状→ギャップ→打ち手」という構造で体系化する概念である。

単なる目標設定や計画とは異なり、複数の選択肢の中から優先順位を付けて意思決定する「選択と集中」の論理が本質であり、オーガニック・インオーガニックの両面から打ち手を設計し、最終的にアクションプランへ落とし込むことで初めて実効性をもつ。

コンサルティング業務では、論点設計・現状分析・施策設計・資料作成の各フェーズにわたって経営戦略の思考フレームが活用される。

特に、クライアントの課題構造をMECEに分解し、データと現場知見を統合して戦略オプションを比較・選択するプロセスは、コンサルタントとしての付加価値を発揮する中核的な場面である。

コンサル採用選考においては、経営戦略の専門知識そのものよりも、その背景にある「構造的思考の習慣」がケース面接での回答の質を左右する。

ありたい姿から逆算してギャップを特定し、実現可能な打ち手を優先順位付きで提示するという考え方の骨格をおさえておければ、十分な知識基盤として機能する。

出典

① 経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)」:https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

② 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」:https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/index.html

③ Harvard Business Review「What Is Strategy?」by Michael E. Porter (1996):https://hbr.org/1996/11/what-is-strategy

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