ワークフォースプランニング
来年度の採用人数は、今年の欠員をどう埋めるかという発想だけで決めてよいのか。この問いに、より長期的な視点から答えようとするのが、ワークフォースプランニング(Workforce Planning)という考え方である。
従来型の要員計画は、現時点の欠員や近い将来の退職予定者を補充するという、いわば足元の帳尻合わせに主眼が置かれがちであった。これに対しワークフォースプランニングは、3年後・5年後といった中長期の事業戦略から逆算し、その時点で必要となる人材の量とスキルを予測したうえで、現在の人員構成とのギャップをどう埋めていくかを計画する、より戦略的なアプローチである。
日本でも人的資本経営への関心の高まりとともに、こうした考え方に近い取組みが政策的にも後押しされるようになってきた。人的資本経営の支援や組織・人事戦略に携わるコンサルティング業務において、ワークフォースプランニングの考え方と実務上の手順を理解しておくことは意義を持つ。
ワークフォースプランニングとは
米国の人事コンサルタントであるトーマス・P・ベシェ(Thomas P. Bechet)氏が2002年に出版した『Strategic Staffing: A Practical Toolkit for Workforce Planning』は、ワークフォースプランニングを体系化した代表的な実務書として広く知られている。
同書は、定性的・定量的な両面から人材の需要と供給を分析し、事業目標と人員配置を結びつける具体的な手法を示しており、2008年には米国人材マネジメント協会(SHRM:Society for Human Resource Management)との共同出版という形で第2版が刊行されている。
同書の核心は、人員配置を事業戦略と切り離された作業とせず、人材戦略を事業戦略と一体のものとして設計する点にある。ワークフォースプランニングの実務は、一般に「現状把握」「将来予測」「ギャップ分析」「対応策の実行」という4つの段階を経て進められる。
現状把握の段階では、既存の人員構成やスキルセットを可視化し、将来予測の段階では、中長期の事業計画に基づいて、将来必要となる人材ポートフォリオを見積もる。
ギャップ分析の段階では、両者を比較して過不足を特定し、対応策の実行段階では、採用、育成、再配置、外部人材の活用等、複数の選択肢を組み合わせて対応する。この一連のプロセスを継続的に見直していく点が、単発の人員計画とは異なる特徴である。
ワークフォースプランニングは、事業戦略の下に位置づけられ、そのさらに下に採用計画・配置計画・育成計画・リスキリング施策等が連なるという、いわば人員計画群を束ねる上位概念である。採用計画だけを指す言葉ではなく、育成・配置・外部人材活用まで含めて設計する点に、この考え方の本質がある。
日本国内では、「ワークフォースプランニング」という言葉自体を法令や公的指針が直接定義しているわけではないが、経済産業省が2022年5月に公表した「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」(通称:人材版伊藤レポート2.0)の中で、これに近い考え方が示されている。
同レポートが人的資本経営を実現するための共通要素の一つとして掲げる「動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用」は、将来の事業構想を踏まえた中期的な人材ポートフォリオのギャップ分析を行い、そのギャップを踏まえて平時から人材の再配置や外部からの獲得を進めるという内容であり、ワークフォースプランニングが扱う論点と多くの部分で重なっている。
将来必要となる人材を予測する際の代表的な手法として、事業計画上の主要な変動要因(ドライバー)と人員数の関係をモデル化する「ドライバー・ベースド・プランニング」が挙げられる。例えば、小売業であれば「売上目標」→「必要な店舗数」→「必要な販売人員数」というように、事業上の指標と必要人員数との連鎖をあらかじめ数式やモデルとして整理しておくことで、事業計画が変更された際にも、必要人材の見積もりを機動的に更新できるようになる。こうした定量的なモデル化は、ベシェ氏の著書でも重視されている手法のひとつである。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ①現状把握 | 既存の人員構成、年齢・スキル構成、退職見込み等を可視化する |
| ②将来予測 | 中長期の事業計画に基づき、将来必要となる人材の量・スキルを見積もる |
| ③ギャップ分析 | 現状と将来必要な人材像を比較し、過不足を特定する |
| ④対応策の実行 | 採用・育成・再配置・外部人材活用等を組み合わせて実行する |
具体例/ミニケース
製造業I社が、主力製品のデジタル化に対応するためワークフォースプランニングに取り組むケースで考えてみる。I社は、5年後には既存製品にIoT機能を組み込んだ新製品ラインへの移行を計画していたが、社内には必要となるソフトウェア人材が不足していることに気づいていなかった。
そこでI社はまず、現在の従業員の年齢構成やスキルセットを棚卸しし、5年以内に一定数のベテラン技術者が定年退職を迎えることを確認した。
次に、新製品ラインの事業計画から逆算して、5年後に必要となるソフトウェア人材の人数と専門性を見積もったところ、既存の採用・育成計画のままでは大幅な人材不足に陥ることが判明した。
I社は、このギャップを埋めるため、新卒・中途採用の強化に加え、既存の技術者に対するリスキリングプログラムの導入、さらに一部の専門人材については外部パートナー企業との協業という選択肢も組み合わせ、これらの施策を年度ごとに配置した5年間のロードマップとして整理した。
このケースが示すのは、ワークフォースプランニングが、目先の欠員補充ではなく、事業戦略の実現に必要な人材を計画的に確保するための、経営と人事が一体となった取組みであるという点である。
要員計画・タレントマネジメントとの違い
ワークフォースプランニングは、人材に関する他の計画・施策としばしば混同される。共通点は「必要な人材を確保する」という目的だが、扱う時間軸や対象範囲は異なっている。
| 用語 | 扱う時間軸 | 対象範囲 |
|---|---|---|
| ワークフォースプランニング | 中長期(数年単位) | 事業戦略から逆算した組織全体の人員・スキル計画 |
| 従来型の要員計画 | 短期(単年度程度) | 既存の欠員補充や近い将来の退職への対応が中心 |
| タレントマネジメント | 個々の従業員のキャリア単位 | 個別人材の育成・登用・配置の最適化 |
コンサルティング業務での位置づけ
論点設計(イシュー出し)
人的資本経営や組織・人事戦略関連のプロジェクトでは、クライアント企業の中期経営計画が、実現に必要な人材の量とスキルまで具体的に落とし込まれているかという論点整理が、初期段階の重要な検討事項となる。コンサルタントは、事業戦略と人員計画の間にどの程度の乖離があるかを見極める役割を担う。
現状分析(As-Is整理)
現状分析のフェーズでは、既存の人員構成、年齢分布、スキルセット、退職見込み等のデータを整理し、事業部門ごとの人材の過不足感を把握する。既存の要員計画が、単年度の欠員補充にとどまっているか、中長期の視点を含んでいるかも確認する。
施策設計(To-Be)
施策設計の段階では、中長期の事業計画から必要人材を逆算し、採用・育成・再配置・外部人材活用のいずれを組み合わせて対応するかを検討する。あわせて、ギャップの大きい領域から優先的に着手するロードマップを策定する。
資料作成(スライド構造)
経営層向け資料では、現在の人員構成と将来必要となる人材像を対比したギャップ分析の図と、ギャップを埋めるための施策・タイムラインを示すロードマップをセットで示す構成が定番である。人材面のリスクと対応策を一枚で確認できる構造にすることで、経営層が投資判断をしやすくなる。
導入メリットと注意点
ワークフォースプランニングに取り組む利点は、事業戦略の実現に必要な人材を、後手に回ることなく計画的に確保できる点にある。人材不足が事業展開のボトルネックとなるリスクを未然に把握し、採用や育成に十分なリードタイムを確保できるようになる。
一方で、留意すべき点も多い。第一に、将来の事業環境や必要人材の予測には不確実性が伴い、想定が外れれば計画の前提が崩れるリスクがある。
第二に、事業部門と人事部門の連携が不十分だと、事業戦略と人材計画が乖離したまま計画だけが独り歩きしてしまう。
第三に、外部環境や事業戦略自体が変化した際に、計画を機動的に見直す運用体制が整っていなければ、計画が形骸化しやすい。
これらを踏まえ、実務では、一度策定した計画を固定的なものとせず、事業環境の変化に応じて定期的に前提を見直し、更新し続ける運用が重視されている。
コンサル採用面接で問われる理由
コンサルティングファームの採用面接で、ワークフォースプランニングという用語そのものがそのまま問われることは多くない。ただし、人的資本経営や組織戦略をテーマにしたケース面接では、事業戦略の実現に必要な人材をどう確保するかという論点が扱われることがあり、その際に「人員計画は事業戦略から逆算して設計するものだ」という発想を持っているかどうかが、回答の説得力を左右する。単に「採用を増やす」という発想にとどまらず、将来必要となるスキルまで見据えて語れると、議論に厚みが生まれる。
こうした視点を備えておくことは、ケース解答の質を底上げする一助になる。個別の分析手法の細部を暗記しておく必要はなく、人員計画は目先の欠員補充ではなく事業戦略から逆算して設計するものだという考え方の骨格を理解しておけば、面接の議論の中で自然に応用できる。
FAQ
Q1. ワークフォースプランニングとは、どのような考え方か。
ワークフォースプランニングとは、中長期の事業戦略を踏まえて将来必要となる人材の質・量を予測し、現状とのギャップを埋めるための採用・育成・再配置等の計画を策定するプロセスである。
米国の人事コンサルタントであるトーマス・P・ベシェ氏が2002年に出版した書籍を通じて体系的な手法が広く知られるようになった。
日本では、経済産業省の人材版伊藤レポート2.0が示す「動的な人材ポートフォリオ計画」という考え方と、多くの部分で重なっている。
Q2. ワークフォースプランニングと従来型の要員計画とは、何が違うのか。
最も大きな違いは、扱う時間軸と出発点にある。従来型の要員計画は、既存の欠員や近い将来の退職への対応を中心とする、短期的かつ足元起点の計画である。
これに対しワークフォースプランニングは、中長期の事業戦略から逆算して将来必要な人材像を描き、そこから現在すべき対応を導き出す点で異なる。前者が「現在から積み上げる」発想であるのに対し、後者は「将来から逆算する」発想に立つ。
Q3. ワークフォースプランニングは、どのような手順で進めるのか。
実務における一般的な手順は、まず既存の人員構成やスキルセットを可視化する現状把握から始まる。
次に、中長期の事業計画に基づいて将来必要となる人材構成を予測し、現状との差分をギャップ分析として特定する。
特定したギャップに対し、採用・育成・再配置・外部人材の活用等を組み合わせた対応策を実行し、事業環境の変化に応じて計画を継続的に見直していく。
Q4. コンサルティングプロジェクトでは、ワークフォースプランニングはどのように扱われているのか。
コンサルティングの現場では、クライアント企業の中期経営計画の実現可能性を検証する際に、必要人材の予測とギャップ分析を支援する場面でこの考え方が扱われる。
また、事業ポートフォリオの見直しに伴う人員の再配置や、新規事業立ち上げに必要な人材確保計画の策定を支援する役割としても活用される。
Q5. ワークフォースプランニングについて、どのような誤解が生じやすいのか。
よくある誤解の一つは、ワークフォースプランニングは単に採用人数を増やす計画だと考えてしまうことである。実際には、採用だけでなく、育成、再配置、外部人材の活用等、複数の選択肢を組み合わせて対応する、より包括的な計画である。
もう一つの誤解は、一度計画を策定すれば完了すると考えてしまうことであり、実際には、事業環境の変化に応じて前提を見直し続ける、継続的なプロセスとして運用する必要がある点に留意が必要である。
Q6. ワークフォースプランニングは、どのような場面で活用が広がっているのか。
デジタル化や事業構造の急速な変化を背景に、必要とされるスキルセットが短期間で変わる業界を中心に、ワークフォースプランニングへの関心が高まっている。
人的資本経営への関心の高まりとともに、人材戦略を経営戦略と連動させる取組みの一環として、業種や企業規模を問わず活用が広がりつつある。
まとめ(実務整理)
ワークフォースプランニングは、中長期の事業戦略を踏まえて将来必要となる人材の質・量を予測し、現状とのギャップを埋めるための採用・育成・再配置等の計画を策定するプロセスである。
2002年のトーマス・P・ベシェ氏の著書を通じて手法が体系化され、日本でも人材版伊藤レポート2.0が示す「動的な人材ポートフォリオ計画」という考え方と重なりながら、実務での関心が高まってきた点に意義がある。
従来型の要員計画やタレントマネジメントとは、扱う時間軸や対象範囲という点で異なる概念である点を理解しておくと、人材マネジメントに関する議論の見取り図がつかみやすくなる。
コンサルティング業務との関係でいえば、事業戦略から逆算して人材ニーズを描く視点が、人的資本経営関連プロジェクトにおいて参考になる。
採用面接との関係でいえば、分析手法の細部を暗記する必要はなく、人員計画は将来から逆算して設計するものだという考え方の骨格を押さえておけば、十分な知識基盤となる。
出典
- 経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」(人材版伊藤レポート2.0掲載ページ)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html - Google Books「Strategic Staffing: A Comprehensive System for Effective Workforce Planning」(Thomas P. Bechet著、書誌情報ページ)
https://books.google.com/books/about/Strategic_Staffing.html?id=Ylpr4z35XoIC - SHRM(米国人材マネジメント協会)「Strategic Workforce Planning: Navigating the Future of HR」
https://www.shrm.org/labs/resources/strategic-workforce-planning-navigating-the-future-of-hr
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