DEI(Diversity, Equity & Inclusion)

DEIとは、多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包摂性(Inclusion)という3要素から構成され、属性の異なる人材が公平な機会と処遇のもとで組織に参画し、能力を発揮できる状態を目指す考え方である。

なぜ今、多様な人材を活かす経営が改めて問われているのか。日本国内では少子高齢化に伴う労働力人口の減少が続き、女性・高齢者・外国人材・障がい者など多様な人材の活躍なくして企業の持続的成長は描きにくい状況にある。

一方、米国では2025年以降、DEIをめぐる政策や企業方針が大きく揺れ動き、同じ「DEI」という言葉であっても国や地域によって捉え方が分かれつつある。

こうした背景から、DEIの構造と実務上の使い方を正確に理解しておくことは、経営戦略の立案とキャリア形成の双方において重要性を増している。

DEIとは

DEIという略称は、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)の頭文字を組み合わせたものである。

多様性は性別・年齢・国籍・障がいの有無・性的指向・価値観など、属性や背景の違いそのものを指す。

公平性は結果の平等ではなく、構造的な不利を踏まえ、出発点の違いに応じて必要な支援や機会配分を調整する枠組みを指す。

包摂性は、多様な人材が単に組織に在籍するだけでなく、意思決定や意見表明の場に実質的に関与し、安心して能力を発揮できている状態を指す(近年は、この安心感を個別に「ビロンギング(Belonging)」として区別し、DEIBという呼称で語られる場合もある)。

DEIの歴史的背景には、米国における公民権運動や雇用機会均等をめぐる制度整備など、複数の流れが存在する。

代表的なものとして、1961年に米国のケネディ大統領(当時)が連邦政府の請負業者向けに発出した大統領令があり、人種・宗教・出身国などにかかわらず応募者を平等に扱うことを求める「アファーマティブ・アクション(affirmative action:積極的格差是正措置)」という考え方の土台となった。

1965年には後継の大統領令により、雇用機会均等の義務が政府請負企業に拡大されている。

その後、1990年前後には、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載された論文をはじめ、アファーマティブ・アクションから一歩進んだ「ダイバーシティ・マネジメント」という経営概念が米国のビジネス誌等で紹介され、多様性を経営成果に結びつける発想が企業に浸透していった。

Equity(公平性)とInclusion(包摂性)の要素が明示的に加わり、「DEI」という三位一体の呼称が一般化したのは比較的近年であり、2020年代に入り、社会情勢の変化を契機として、DEI推進体制や関連職位を新設・拡充する企業が増加した経緯がある。

一方で、2023年の米連邦最高裁による大学入試でのアファーマティブ・アクションを違憲とする判断を境に、DEI推進に批判的な動き(いわゆる「反DEI」)が強まった。

2025年以降、米国ではDEIに関する大統領令や行政運用の見直しが相次ぎ、企業の対応方針にも変化が見られている。

DEIは法令上で統一的に定義された概念ではなく、企業や組織によって運用の幅がある点には留意が必要である。

日本国内では、経済産業省が「ダイバーシティ経営」を政策的に推進してきた経緯があり、DEIは国や地域、時期によって前提となる制度や社会的受容度が異なる概念であることを踏まえて理解する必要がある。

なお、DEIに関連してDEIA(diversity, equity, inclusion, and accessibility:多様性・公平性・包摂性・アクセシビリティ)という表記が用いられる場合もあり、障がいの有無にかかわらず情報や機会へアクセスできる状態を明示的に含める意図で使われることがある。

用語の派生形が複数存在する点も、実務資料を読み解く際には押さえておきたい。

構成要素 意味 目的 主な施策例
Diversity(多様性) 性別・年齢・国籍・障がいの有無等、属性・背景の違い 組織構成の多様化 採用チャネルの多様化、女性管理職比率の目標設定
Equity(公平性) 構造的な不利を踏まえ、出発点の違いに応じて支援・機会配分を調整すること 機会格差の是正 育児・介護と両立可能な評価制度、育成機会の再配分
Inclusion(包摂性) 多様な人材が意思決定・意見表明に実質的に関与でき、安心して能力を発揮できる状態 組織文化への実装 従業員リソースグループ(ERG。社内ネットワークやビジネス・リソース・グループ〈BRG〉とも呼ばれる)運営、心理的安全性の醸成

具体例/ミニケース

日本国内では、経済産業省が「ダイバーシティ経営」を政策的に後押ししてきた。

同省は令和6年度に「企業経営におけるDEI(ダイバーシティ&エクイティ&インクルージョン)の浸透や多様な人材の活躍に向けた調査事業」を実施しており、多様な人材を活かす経営が企業価値の向上にどうつながるかを検証している。

かつて実施されていた「新・ダイバーシティ経営企業100選」も、多様な人材の活用を経営成果に結びつけた企業の先進事例を広く発信する取り組みであった。

一方、米国では2025年以降、一部の大手小売業・IT企業でDEI関連の数値目標や専門部署の縮小・表現変更が進んだ。

背景には、連邦政府と取引する企業に対する大統領令上の要件変化や、実力主義を重視する世論の高まりがある。

他方で、株主等からの見直し圧力に対し、従来の方針を堅持する立場を示す企業も一定数存在する。

同じ「DEI」という言葉であっても、地域や時期によって推進の度合いや制度上の扱いが大きく異なる点は、実務上おさえておくべきミニケースといえる。

グローバル企業の中には、米国内では施策を縮小しつつ、日本国内では従来の方針を維持するなど、地域ごとに対応を分けている例も見られる。

こうした対応の違いは、経営層のDEIに対するコミットメントの度合いだけでなく、各国の労働法制や政府調達要件との整合性を踏まえた合理的な経営判断としても説明できる。

転職・キャリア支援の観点では、応募先企業がDEIをどのような文脈・粒度で語っているか(数値目標を掲げているか、文言を言い換えているか等)を確認することが、企業文化や意思決定の透明性を見極める材料のひとつになり得る。

DEIと隣接概念の使い分け

DEIは、CSR(企業の社会的責任)やESGのS(社会)要素、あるいは「ダイバーシティ経営」といった隣接概念としばしば混同されるが、それぞれ焦点と射程が異なる。

概念 焦点 DEIとの関係 主な使用場面
ダイバーシティ経営 多様な人材の活用を経営成果に結びつける経営手法 日本で普及した呼称で、DEIの実装形態のひとつ 人事戦略、経営戦略策定
CSR(企業の社会的責任) 社会・環境への責任ある行動全般 DEIはCSR活動の一部として位置づけられる場合がある 社会貢献活動、企業広報
ESGのS(社会) 投資家に向けた社会的側面の情報開示 DEI関連指標がESG開示項目として扱われることがある 統合報告書、投資家向け開示
インクルーシブ・リーダーシップ 管理職個人が多様なメンバーを活かす行動様式 DEIのInclusion要素を個人レベルで体現する概念 管理職研修、リーダー育成

コンサルティング業務での位置づけ

論点設計(イシュー出し)

DEI関連プロジェクトの論点設計では、まず「どの属性・階層で機会格差が生じているか」を仮説として構造化することが起点となる。

採用・評価・昇進・退職という人材フローの各段階を切り口に、定量データと定性ヒアリングの両面から論点を絞り込む。

現状分析(As-Is整理)

現状分析では、女性管理職比率、障がい者雇用率、従業員エンゲージメントスコアなどの定量指標に加え、従業員リソースグループ(ERG:共通の属性や関心を持つ従業員による社内コミュニティ。日本企業では「社内ネットワーク」、海外では「ビジネス・リソース・グループ(BRG)」と呼ばれることもある)の活動状況といった定性情報を組み合わせ、ギャップの所在を可視化する。

属性別の採用・昇進・退職データを人材フローに沿って並べることで、どの段階でボトルネックが生じているかを特定しやすくなる点も、実務上の勘所である。

施策設計(To-Be)

施策設計では、採用チャネルの多様化、評価制度の透明化、メンター制度の導入など、Equity(公平性)とInclusion(包摂性)の双方を担保する打ち手をセットで検討する。

数値目標の設定にあたっては、対象国・地域の法規制動向を踏まえた実現可能性の検証が欠かせない。

資料作成(スライド構造)

資料作成では、現状の定量ギャップ、原因仮説、打ち手、期待効果を1枚のロジックで整理するピラミッド構造が用いられることが多い。

DEIは社会的な感度が高いテーマであるため、断定的な表現を避け、根拠となるデータの出所を明示した構成が求められる。

導入メリットと注意点

DEIを組織運営に取り込むメリットとしては、多様な視点による意思決定の質向上や、人材獲得力の強化、従業員エンゲージメントの向上などが挙げられる。経済産業省の関連調査でも、多様な人材の活躍を経営成果につなげている企業の存在が確認されている。

一方で注意点も存在する。数値目標の設定方法によっては、属性に基づく優遇と受け取られ、法的リスクや組織内の反発を招く可能性がある。

特に米国では、2025年以降の大統領令によって、連邦政府と取引する企業に対する規制が強化されており、施策設計の際には対象国・地域ごとの法規制を個別に確認する必要がある。

また、DEIに関する用語や指標の使い方を変更する企業も増えており、社内外への説明においては、施策の実質的な内容と、対外的な呼称・表現とを切り分けて整理する視点も欠かせない。

コンサル採用面接で問われる理由

DEIという用語そのものを面接官が直接説明させる場面は多くない。

むしろ、ケース面接において組織課題や人材戦略に関する論点が出た際、多様性・公平性・包摂性という3つの視点を自然に織り込めるかどうかが、思考の幅として表れやすい。

例えば、人材関連のケースで「なぜ離職率が高いのか」という論点を検討する場面では、属性別のデータに着目する発想があると、原因分析の解像度が上がる。この構造を内面化した思考はケース解答の質を高める。

DEIという言葉自体を暗記する必要性は高くないが、背景にある考え方を理解しておくと、論理展開に説得力が生まれる。

用語の詳細よりも、多様な人材が力を発揮できる組織とは何かという問いに対する自分なりの視座を持っておくことが、面接全体を通じた一貫性につながりやすい。

FAQ

Q1. DEIとは何か、簡潔に説明するとどうなるか。

DEIとは、多様性・公平性・包摂性という3要素を通じて、属性の異なる人材が公平に力を発揮できる組織状態を目指す概念である。

Diversity(多様性)は属性の違いそのもの、Equity(公平性)は出発点の違いに応じた支援配分、Inclusion(包摂性)は意思決定への実質的な関与を意味する。

3要素は独立して機能するのではなく、多様な人材が存在し(D)、公平な機会が用意され(E)、実際に組織運営へ関与できて初めて(I)、DEIが実装された状態といえる。

Q2. DEIとダイバーシティ経営は何が違うのか。

ダイバーシティ経営は、DEIの枠組みを日本の企業経営の文脈で実装した呼称であり、多様な人材の活用を経営成果に結びつける手法を指す。

DEIが概念・思想的な枠組みであるのに対し、ダイバーシティ経営はより実務的・経営戦略的な色合いが強い。

経済産業省が政策的に用いてきた用語であり、日本国内の企業活動では「ダイバーシティ経営」という表現が使われる頻度が高い。

両者は対立概念ではなく、DEIという上位概念を日本企業向けに翻訳・実装したものがダイバーシティ経営である、という関係で整理できる。

Q3. DEIはどのように活用されるのか。フェーズ別にどのようなツールがあるのか。

DEIは採用・育成・評価・登用という人材フローの各フェーズで活用される。

採用フェーズでは、応募者の属性に偏りが出にくい選考基準の設計や多様なチャネルの活用が中心となる。

育成フェーズでは、メンター制度やスポンサーシップ制度が用いられる。

評価・登用フェーズでは、評価基準の透明化や、管理職候補プールの多様性を可視化するダッシュボードなどが活用される。経済産業省が提供する「ダイバーシティ・コンパス」のような自己診断ツールも、自社の現状把握に用いられる代表例である。

Q4. コンサルティング業務でDEIはどのように活用されるのか。

コンサルティング業務では、クライアント企業の人材戦略プロジェクトにおいて、DEIの視点が現状分析や施策設計の切り口として活用される。

具体的には、離職率や管理職比率といった指標の属性別分解、評価制度の公平性検証、ダイバーシティレポートの作成支援などが挙げられる。

近年は、DEI関連指標をESG開示の一部として整理する支援ニーズも増えており、投資家向け情報開示のプロジェクトとDEI関連プロジェクトが接続する場面も見られる。

Q5. DEIに関してよくある誤解は何か。

よくある誤解のひとつは、DEIを「特定の属性を優遇する制度」と捉えるものである。Equity(公平性)は結果の平等を保証する概念ではなく、出発点の違いに応じて機会配分を調整するという発想であり、属性そのものを優遇する仕組みとは異なる。

また、DEIは米国発の概念という印象が強いが、実際には各国・各地域で前提となる法規制や社会的受容度が異なり、一律の施策をそのまま他地域へ展開できるとは限らない点にも注意が必要である。

まとめ(実務整理)

DEIは、多様性・公平性・包摂性という3要素を通じて、属性の異なる人材が力を発揮できる組織状態を目指す枠組みであり、日本国内では「ダイバーシティ経営」という形で経営戦略に実装されてきた概念である。

米国では2025年以降、DEIをめぐる政策や企業方針が大きく変化しており、地域や時期によって前提が異なる点を踏まえて理解しておくと、実務やケース面接での論点整理に役立つ。

コンサルティング業務においては、人材戦略プロジェクトの現状分析や施策設計の切り口として参考になる概念であり、採用面接との関係では、用語の暗記よりも背景にある考え方の骨格をおさえておけば十分な知識基盤となる。

転職・キャリア形成の文脈では、応募先企業がDEIをどのように語り、どのような制度に落とし込んでいるかを確認することが、自身の価値観に合った組織を見極める手がかりのひとつになり得るだろう。

出典

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