リスキリング(Reskilling)

リスキリング(Reskilling)とは、技術革新や事業構造の変化に対応するために、労働者が新しい職務・役割で必要となるスキルを、主に就業を継続しながら獲得する人材戦略上の取り組みである。

なぜ今、多くの企業が既存人材のスキルセットを入れ替えようとしているのか。デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation、データとデジタル技術を活用して事業モデルや業務プロセスを変革する取り組み)の進展により、既存業務の一部は自動化される一方、これまで存在しなかった職種や業務が生まれつつある。

リスキリングは、こうした構造変化のなかで人材を「解雇」ではなく「再配置」によって活かす発想であり、経済産業省や厚生労働省が助成制度を整備するなど、日本でも国策として推進されている。ハイクラス転職やコンサルティング業界においても、人的資本経営の文脈で頻出する重要概念である。

リスキリングとは

リスキリングは英語の再教育・再訓練を意味する「Reskilling」に由来し、「Re(再び)」と「Skill(技能)」を組み合わせた語である。

経済産業省が「デジタル時代の人材政策に関する検討会」で示した資料によれば、リスキリングとは、新しい職業に就くため、あるいは現在の職業で必要とされるスキルが大きく変化した際にそれへ適応するために、必要な技能を獲得する、またはさせる取り組みとして整理されている。

この定義が成立するための条件は主に3点である。

第一に、学習の主体が「働きながら」スキルを獲得する点であり、就業を継続しながら学ぶ場合も含む生涯学習全般としてのリカレント教育とは、学習の目的や位置づけの点で異なる。

第二に、獲得するスキルが「新しい職務・役割」に対応するものである点で、既存職務の延長線上でスキルを深めるアップスキリング(Upskilling)とは目的が異なる。

第三に、経営戦略・事業ポートフォリオの転換と結びついた取り組みである点である。

企業実務においては経営主導で計画的に実施されることが多いが、単発の資格取得推奨や社内研修とは、この戦略的な位置づけの有無で区別される。

歴史的には、2020年1月の世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum、ダボス会議)年次総会において、WEFが立ち上げた「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」のもと、2030年までに世界で10億人にリスキリングの機会を提供するという目標が掲げられたことが、国際的な普及の契機となった。

この時期のWEFの分析では、第4次産業革命の進行により既存業務の一部が消失する一方、それを上回る規模の新しい業務が生まれるとの見通しも示されており、単なるスキル向上策ではなく雇用の受け皿そのものを組み替える社会的な取り組みとして位置づけられている点が特徴である。

日本では2020年11月に経団連がリスキリング推進を提唱し、経済産業省が2021年2月から「デジタル時代の人材政策に関する検討会」を開催、2022年には当時の岸田総理大臣が「新しい資本主義」の実現に向けて個人へのリスキリング支援の必要性を表明した。

これを受け、経済産業省は2023年度に「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を開始し、厚生労働省も人材開発支援助成金に「事業展開等リスキリング支援コース」を新設するなど、両省が連携して政策を進めている点は正確に押さえておきたい史実である。

政府は「人への投資」として5年間で1兆円規模の予算を投じる方針を示しており、企業がリスキリング施策を組む際に公的資金を活用しやすい環境が整いつつある。

なお、リスキリングという発想自体は、政府主導の政策として広まった2020年代に生まれたわけではない。

後述するAT&Tの事例のように、2013年の時点で既に大手企業が自社の経営判断として大規模な再教育投資を行っており、企業実務における起点は政府による普及施策より前に遡る点にも留意しておきたい。

リスキリングの実践プロセス

フェーズ 内容 主な実施主体
①スキルギャップ分析 経営戦略から逆算し、将来必要となるスキルと現有スキルの差分を可視化する 人事部門・経営企画
②学習プログラム設計 eラーニングや外部研修、OJTを組み合わせた学習カリキュラムを設計する 人材開発部門・外部教育機関
③実践・配置転換 習得したスキルを活かせる新しい職務・プロジェクトへ配置する 事業部門・現場管理職
④効果測定・再設計 スキル定着度や事業成果を測定し、プログラムを継続的に改善する 人事部門・経営層

具体例|企業のリスキリング事例に見る実務のポイント

リスキリングの代表事例として国際的に広く参照されるのが、米通信大手AT&Tが2013年に開始した「Workforce 2020」である。同社は約25万人の従業員のうち約半数が将来の事業に必要なスキルを持たず、約10万人分の職務が今後不要になる可能性のある業務に従事している実態を把握し、外部からの人材獲得ではなく既存人材の再教育を選択した。

10億ドル規模を投じ、Courseraなどの外部教育機関と連携したオンライン講座や社内キャリアセンターを整備し、クラウドやデータ分析など新領域への配置転換を進めた点が特徴である。

日本国内では、経済産業省と情報処理推進機構(IPA:Innovation Platform Agency, Japan)が策定した「デジタルスキル標準(DSS)」に準拠し、全社的なデジタル人材育成プログラムを導入する事例が大企業を中心に広がっている。

共通するのは、経営戦略とスキル要件を紐づけたうえで、学習だけで終わらせず配置転換まで一気通貫で設計している点である。

規模の大きい企業ほど、リスキリングは単発の研修投資ではなく、複数年にわたる予算配分と評価制度の見直しをセットで行う「経営アジェンダ」として扱われる傾向がある。

コンサルティング会社が支援に入る場合も、学習コンテンツの選定そのものよりも、スキルギャップの定量化と投資対効果の設計に主眼が置かれることが多い。

アップスキリング・リカレント教育との違い

リスキリングは類似概念と混同されやすい。以下に主要な違いを整理する。

概念 目的 学ぶ場・主体 リスキリングとの関係
リスキリング 新しい職務・役割への適応 就業継続中・企業戦略と結びつくことが多い 基準となる概念そのもの
アップスキリング 現職の専門性・生産性の向上 就業継続中・個人または企業主導 職務転換を伴わない点で範囲が異なる
リカレント教育 生涯にわたる学び直し全般 「働く→学ぶ→働く」のサイクル・就業しながらの学習も含む 職務転換を前提としない点でリスキリングと区別される
アンラーニング 過去の成功体験や価値観の棄却 個人の内省が中心 リスキリングを進める際の前提的なマインドセット

コンサルティング業務での位置づけ

論点設計(イシュー出し)

リスキリング関連の支援案件では、「どの職種でスキル陳腐化が進むか」「事業ポートフォリオ転換にどの人材配置転換が必要か」「社内で賄うべきか外部採用と併用すべきか」といった論点を、経営戦略・組織構造・労働市場動向の三方向から立てることが起点となる。

特に人員規模の大きい企業では、全社一律の施策とすべきか、事業部単位で優先度を分けるべきかという論点設計自体がプロジェクトの成否を左右する。

現状分析(As-Is整理)

現有人材のスキルインベントリを可視化し、経済産業省の「デジタルスキル標準」のような外部指標と照合してギャップを定量化する。

離職率や社外学習実施率といった労働市場データとの比較分析も併せて行い、自社の学習投資水準が業界平均や競合と比べて過不足のない水準かを確認する。

施策設計(To-Be)

スキルギャップを埋めるための学習プログラム、配置転換ルール、評価・報酬制度の見直しを一体で設計する。

人材開発支援助成金など公的支援制度の活用可否も、投資対効果の観点から検討対象となる。

学習を修了した従業員が実際に新しい役割へ異動できる受け皿を事前に用意しておくことも、施策設計段階での重要な論点である。

資料作成(スライド構造)

経営層向け提言資料では、「なぜ今か(外部環境変化)」「何が課題か(スキルギャップの定量データ)」「何をすべきか(施策ロードマップ)」の順で結論を先出しする構成が用いられることが多く、投資規模と回収期間を示すスライドが重視される。

加えて、施策の進捗を定量的に追えるKPI(重要業績評価指標)を一枚のダッシュボード形式で示すスライドも、実行フェーズへの移行を後押しする材料として好まれる。

導入メリットと注意点

導入メリットとしては、外部からの採用に頼らず人材不足を解消できる点、既存の企業文化や業務知識を保持したまま新領域へ人材をシフトできる点、離職コストや採用コストを抑制できる点が挙げられる。

特に専門人材の採用競争が激しい領域では、外部採用に伴う採用単価の高騰を回避できる点が経営上のメリットとして評価されやすい。

一方で注意点も存在する。学習機会を提供しても、習得したスキルを発揮できる配置転換先や役割が用意されていない場合、従業員の意欲低下や離職につながりやすいという指摘がある。

学習投資に見合うだけの活躍の場を用意できなければ、施策そのものが「学ばせて終わり」になってしまう点は、リスキリングにおける典型的な失敗パターンといえる。

また、経済産業省・厚生労働省の助成制度は対象要件や訓練時間数などが細かく定められており、要件を満たさない研修は助成対象外となる点にも留意が必要である。

人材開発支援助成金の一部コースは実施期限が定められた時限措置であるため、活用を検討する場合は制度の適用期間を事前に確認しておく必要がある。

効果測定の指標を設計段階から用意していない企業では、投資対効果を検証できず、施策が形骸化するリスクもある。

コンサル採用面接で問われる理由

リスキリングという用語そのものを面接官が直接掘り下げて問う場面は多くない。むしろ、人的資本経営やDX戦略に関するケース面接の議論のなかで、「既存人材を活かす選択肢」として自然に触れられることが多いテーマである。

背景にある「新規採用か、既存人材の再配置か」という論点の立て方を理解しておくと、組織・人材戦略に関するケース解答の論理展開に説得力が生まれる。

フレームワーク名や制度名を暗記する必要はなく、概要と考え方の骨格をおさえておけば十分な知識基盤となる。この構造を内面化した思考は、人材戦略や事業ポートフォリオ転換をテーマとするケース解答の質を高める一助になる。

FAQ

Q1. リスキリングとは何か?

リスキリングとは、技術革新や事業構造の変化に対応するため、労働者が新しい職務・役割に必要なスキルを、主に就業を継続しながら獲得する人材戦略上の取り組みである。

経済産業省の資料では、新しい職業に就くため、あるいは現在の職業で必要なスキルの大幅な変化に適応するために、必要な知識・技能を獲得する、または習得させることと整理されている。

単なる研修や自己啓発とは異なり、経営戦略と連動した取り組みである点が特徴であり、企業実務では経営主導で計画的に実施されることが多い。

学習後に実際の職務への配置転換まで含めて設計される点が、他の学び直し施策との大きな違いといえる。

Q2. リスキリングとアップスキリング、リカレント教育の違いは何か?

リスキリングは新しい職務・役割への適応を目的とする点で、現職の専門性向上を目的とするアップスキリングと区別される。

また、職務転換を前提とせず、就業しながらの学習も含む生涯にわたる学び直し全般を指すリカレント教育とも、目的や位置づけの点で異なる。

三者はいずれも学び直しに関する概念だが、学習の目的(転換か深化か、あるいは生涯にわたる学び全般か)・学ぶ場(職場内か職場外か)という軸で整理すると、実務上の混同を避けやすい。

Q3. リスキリングにはどのようなツールや進め方があるか?

実務上は、経済産業省・IPAが策定した「デジタルスキル標準」でスキル要件を定義し、経済産業省が運営する学習ポータル「マナビDX」で講座を選定するという流れが一般的である。

個人のIT基礎知識を測る「ITパスポート試験」の取得を入口とする企業も多い。

加えて、社内スキルの可視化には人事システムのスキルマップ機能や外部アセスメントツールが用いられ、学習進捗と配置転換の状況を一元管理する仕組みを構築する企業も増えている。

Q4. コンサルティング業界ではリスキリングをどのように活用するか?

コンサルティング業界では、クライアント企業のスキルギャップ分析、学習プログラムの設計支援、助成金活用を含む投資対効果の試算といった形でリスキリング関連プロジェクトに関与する。

厚生労働省の人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」は、要件を満たす研修について経費や訓練中の賃金の一部を助成する制度であり、投資対効果を高める選択肢として提案されることが多い。

ただし、助成対象となる訓練時間数や研修内容には細かな要件があるため、制度設計と併せて確認する実務が求められる。

Q5. リスキリングに関するよくある誤解は何か?

「リスキリング=資格取得やeラーニング受講」という誤解が多いが、これは手段の一部に過ぎない。

本質は、習得したスキルを新しい職務・役割で実際に発揮できるところまで含めた人材戦略である。

学習だけで終わり配置転換や評価制度の見直しが伴わない施策は、従業員の意欲低下や離職を招くこともあり、リスキリングの目的を十分に達成できていないケースが多い点に注意が必要である。

まとめ(実務整理)

リスキリングは、DXや事業構造の変化に対応するために既存人材のスキルを転換する人材戦略であり、単発の研修ではなく経営戦略と連動した継続的な取り組みである点に本質的な意義がある。

学習の提供だけでなく、習得したスキルを発揮できる配置転換先まで一体で設計されて初めて機能する取り組みである点は、実務上とりわけ重要なポイントといえる。

経済産業省・厚生労働省による支援策も整備が進んでおり、コンサルティング業務においても人的資本経営や組織戦略の論点整理に参考になる概念として理解しておくとよい。

スキルギャップの定量化や助成制度の活用可否を含めた投資対効果の試算は、コンサルタントとして関与する際の実務的な価値提供にもつながる。

採用面接との関係では、フレームワークとして丸暗記する必要はなく、既存人材を活かす選択肢としての考え方の骨格をベーシックな知識としておさえておく程度で十分な知識基盤となる。

出典

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