エンゲージメントサーベイ
給与や待遇に不満がない職場であれば、従業員は自然と組織に貢献してくれるのか。この問いに、必ずしも「イエス」とは言い切れない現実を突きつけたのが、日本におけるエンゲージメントを巡る一連の調査結果である。
2017年、米国の調査会社ギャラップ社が発表した世界各国の従業員エンゲージメント調査で、日本の「熱意あふれる社員」の割合はわずか6%、調査対象139カ国中132位という結果が報じられ、日本企業の職場が抱える課題として広く知られるようになった。
この調査結果は、働き方改革や生産性改革、人的資本経営への関心の高まりとあわせて、厚生労働省、経済産業省、経団連等が「エンゲージメント」という言葉を用いるようになる一因となり、その状態を定量的に把握する手段として、エンゲージメントサーベイへの関心が高まっていった。
人的資本経営の推進やHR領域のコンサルティングに携わる業務において、エンゲージメントサーベイの位置づけと実務上の使い分けを理解しておくことは意義を持つ。
エンゲージメントサーベイとは
人事領域における「エンゲージメント」という言葉には、複数の定義が存在する。
経済産業省が2020年9月に公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(通称:人材版伊藤レポート)では、WTWの前身にあたるタワーズペリン社の定義を引用し、エンゲージメントを「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」と説明している。
一方、同省が2022年5月に公表した「未来人材ビジョン」では、エンゲージメントを「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」と表現しており、こちらは従業員から組織への貢献だけでなく、組織から従業員への貢献も含めた、双方向の関係性を強調する定義となっている。
両者の表現は異なるものの、実務では、従業員が組織への共感や貢献意欲を持っている状態を含む、比較的広い概念として扱われることが多い。
エンゲージメントサーベイは、こうしたエンゲージメントの状態を、アンケート調査という形で定量的に把握しようとする調査手法である。
日本でエンゲージメントという言葉が広く知られるきっかけとなったのは、2017年にギャラップ社が発表した調査結果であった。
この結果が新聞等で報じられたことを機に、厚生労働省は2018年に公表した「平成30年版労働経済の分析」の中で、ワーク・エンゲイジメントが労働者の健康や仕事のパフォーマンスに与える影響について整理し、日本経済団体連合会(経団連)も2019年に、エンゲージメントの向上が日本経済にとって重要であるとの見解を示した。
こうした動きを受け、経済産業省の未来人材ビジョンでも、日本企業の従業員エンゲージメントが国際的に見て低水準にとどまっていることが、人材政策上の課題として取り上げられている。
エンゲージメントサーベイの境界条件として押さえておきたいのが、調査の頻度や規模に応じた類型の違いである。
年に1回程度、全従業員を対象に実施する大規模な調査は「センサスサーベイ」と呼ばれ、設問数も多く、組織全体の傾向や中長期的な変化を把握するのに適している。
これに対し、月次や四半期ごとなど短い間隔で繰り返し実施し、設問数を絞って従業員の「今」の状態を機動的に把握する調査は「パルスサーベイ」と呼ばれる。
近年の実務では、センサスサーベイで組織全体の傾向をつかみつつ、パルスサーベイで現場の変化に迅速に対応するという、両者を組み合わせた運用が広がりつつある。
エンゲージメントという概念は、国際的な人的資本開示の枠組みとも関わりを持つ。国際標準化機構(ISO)が2018年に発表した人的資本情報開示の国際規格ISO30414は、人的資本に関する事項を11の領域に整理し、具体的な指標を示す中に、エンゲージメントに関する指標も含まれている(指標の総数や数え方には情報源によって幅がある)。
日本では法令上ISO30414への準拠が義務付けられているわけではないが、有価証券報告書における人的資本情報の開示が制度化される中で、エンゲージメントに関する指標を対外的に開示する企業も増えつつある。
| 種類 | 実施頻度 | 特徴 |
|---|---|---|
| センサスサーベイ | 年1回程度 | 全従業員対象の大規模調査。組織全体の傾向を把握 |
| パルスサーベイ | 月次・四半期等 | 簡易な設問で頻繁に実施。現場の変化を機動的に把握 |
具体例/ミニケース
サービス業H社が、離職率の高さを受けてエンゲージメントサーベイの導入に踏み切るケースで考えてみる。H社はこれまで、年1回の従業員満足度調査は実施していたものの、給与や福利厚生に対する満足度は決して低くないにもかかわらず、離職率が高止まりしているという矛盾を抱えていた。
そこでH社は、既存の満足度調査に加えて、組織のビジョンへの共感度や、上司との関係性、成長実感等を問う設問を含むエンゲージメントサーベイを、年1回のセンサスサーベイとして新たに導入した。
調査の結果、給与等の待遇面への満足度は高いものの、「自分の仕事が会社の方向性にどうつながっているか実感できない」と回答する従業員の割合が高いことが判明した。
H社はこの結果を受け、四半期ごとの簡易なパルスサーベイを追加導入し、部門ごとの変化を継続的にモニタリングする体制を整えるとともに、経営陣が事業方針を現場に伝える機会を増やす施策に着手した。半年後、パルスサーベイの結果から、対象部門におけるエンゲージメントスコアの改善傾向を確認することができた。
このケースが示すのは、エンゲージメントサーベイが、従来型の満足度調査だけでは見えにくかった、組織と個人の関係性の課題を可視化する役割を果たすという点である。
従業員満足度(ES)調査・モチベーション調査との違い
エンゲージメントサーベイは、従業員に関する他の調査手法としばしば同一視される。共通点は「従業員の状態を把握する」という目的だが、測定する対象の性質は異なっている。特にモチベーションとの違いは見落とされやすい。
モチベーションは、業務への意欲ややる気といった、個人の内面に生じる一時的な心理状態を指すのに対し、エンゲージメントは、従業員と組織との関係性そのもの、すなわち組織の方向性への共感や貢献意欲の持続的な度合いを指す点で異なる。
| 調査手法 | 測定する対象 | 性質 |
|---|---|---|
| エンゲージメントサーベイ | 組織の方向性への共感と貢献意欲、双方向の関係性 | 組織と個人のつながりの強さを可視化 |
| 従業員満足度(ES)調査 | 給与、福利厚生、職場環境等への満足度 | 特定項目に対する評価を把握 |
| モチベーション調査 | 業務への意欲・やる気の水準 | 個人の心理状態そのものに焦点 |
コンサルティング業務での位置づけ
論点設計(イシュー出し)
人的資本経営や組織開発関連のプロジェクトでは、クライアント企業の課題が、既存の満足度調査で対応可能なものか、それとも組織と個人の関係性そのものを問い直すエンゲージメントサーベイの導入が必要かという見極めが、初期段階の重要な論点となる。コンサルタントは、離職率や生産性等の経営課題を踏まえ、調査手法の選定を支援する役割を担う。
現状分析(As-Is整理)
現状分析のフェーズでは、既存の調査体制(実施の有無、頻度、設問内容)を棚卸しし、経営が把握したい課題との対応関係を整理する。あわせて、業界水準や他社事例と比較しながら、自社のエンゲージメント水準の位置づけを確認する作業が中心となる。
施策設計(To-Be)
施策設計の段階では、センサスサーベイとパルスサーベイの組み合わせ方や、調査結果を経営戦略・人材戦略にどう反映させるかを検討する。調査を実施するだけで終わらせず、結果に基づく具体的な改善アクションまでを一体で設計することが重視される。
資料作成(スライド構造)
経営層向け資料では、部門別・階層別のエンゲージメントスコアを示すダッシュボードと、スコアの低い領域に対する改善施策の一覧をセットで示す構成が定番である。組織全体の傾向と重点対応領域を一枚で確認できる構造にすることで、経営層が投資判断をしやすくなる。
導入メリットと注意点
エンゲージメントサーベイを導入する利点は、従来型の満足度調査だけでは見えにくかった、組織と個人の関係性の課題を可視化できる点にある。定量的なスコアとして経年変化を追跡できるため、施策の効果検証にも活用しやすい。
一方で、留意すべき点も多い。第一に、調査を実施すること自体が目的化してしまい、結果を具体的な改善施策に結びつけられなければ、従業員の間に「回答しても何も変わらない」という不信感を生みかねない。
第二に、設問数や実施頻度の設計を誤ると、回答者の負担が大きくなり、回答率や回答の質が低下するおそれがある。
第三に、スコアという定量的な指標だけに注目すると、数値の背後にある個別の事情や文脈を見落としてしまう場合がある。
これらを踏まえ、実務では、調査結果を現場へのヒアリング等の定性的な情報と組み合わせながら、具体的な改善アクションへとつなげていく姿勢が重視されている。
コンサル採用面接で問われる理由
コンサルティングファームの採用面接で、エンゲージメントサーベイという用語そのものがそのまま問われることは多くない。ただし、人的資本経営や組織開発をテーマにしたケース面接では、従業員の定着や生産性向上をどう実現するかという論点が扱われることがあり、その際に「満足度と貢献意欲は別物である」という発想を持っているかどうかが、回答の説得力を左右する。
単に「働きやすい職場をつくる」という発想にとどまらず、組織の方向性への共感という視点まで語れると、議論に厚みが生まれる。
こうした視点を備えておくことは、ケース解答の質を底上げする一助になる。個別の調査手法や設問設計の細部を暗記しておく必要はなく、満足度と組織への貢献意欲は異なる指標であるという考え方の骨格を理解しておけば、面接の議論の中で自然に応用できるといえる。
FAQ
Q1. エンゲージメントサーベイとは、どのような調査手法か。
エンゲージメントサーベイとは、従業員が組織の掲げる方向性にどれだけ共感し、その実現に自発的に貢献しようとしているかを定量的に測定し、組織の現状と課題を可視化する調査手法である。
日本では、2017年のギャラップ社による国際調査で日本企業のエンゲージメントの低さが報じられたことを契機に関心が高まり、経済産業省の人材版伊藤レポートや未来人材ビジョンでもエンゲージメントの重要性が取り上げられている。
Q2. エンゲージメントサーベイと従業員満足度(ES)調査とは、何が違うのか。
最も大きな違いは、測定する対象の性質にある。従業員満足度(ES)調査は、給与や福利厚生、職場環境といった特定項目への満足度を測定するものである。
これに対しエンゲージメントサーベイは、組織の方向性への共感度や、自発的に貢献しようとする意識、組織と個人の双方向の関係性を測定する点で異なる。給与等の待遇面への満足度が高くても、エンゲージメントが低い場合があり、両者は必ずしも連動しない点に留意が必要である。
Q3. エンゲージメントサーベイは、どのような手順で導入するのか。
実務における一般的な手順は、まず経営が把握したい課題(離職率、生産性等)を明確にし、既存の調査体制とのギャップを整理することから始まる。
次に、年1回程度の大規模なセンサスサーベイと、月次・四半期等の簡易なパルスサーベイのいずれを、あるいは両方をどう組み合わせて実施するかを設計する。調査実施後は、結果を部門別・階層別に分析し、スコアの低い領域に対する具体的な改善施策を検討・実行していく。
Q4. コンサルティングプロジェクトでは、エンゲージメントサーベイはどのように扱われているのか。
コンサルティングの現場では、クライアント企業の離職率改善や組織開発を目的としたプロジェクトにおいて、調査設計や結果分析、改善施策の立案を支援する場面でこの手法が扱われる。
また、人的資本経営の実践に向けて、エンゲージメントスコアを人材戦略の指標として位置づけ、経営戦略との結びつきを整理する役割としても活用される。
Q5. エンゲージメントサーベイについて、どのような誤解が生じやすいのか。
よくある誤解の一つは、エンゲージメントサーベイは従業員満足度調査と同じものだと考えてしまうことである。実際には、両者は測定する対象が異なり、満足度が高くてもエンゲージメントが低い組織は存在し得る。
もう一つの誤解は、調査を実施すること自体が目的になってしまうことであり、実際には、調査結果を踏まえた具体的な改善アクションを伴わなければ、従業員の不信感を招きかねない点に留意する必要がある。
Q6. エンゲージメントサーベイは、今後どのように活用が広がっていく可能性があるのか。
人的資本経営への関心の高まりを背景に、エンゲージメントに関する指標は、有価証券報告書等における人的資本情報開示の一項目としても位置づけられるようになっている。
企業規模を問わず、離職率改善や生産性向上を目的とした人事施策の一環として、エンゲージメントサーベイを導入する動きは今後も広がっていくと見込まれる。あわせて、専用のクラウドツールやAIによる分析支援を活用し、調査から分析、施策立案までを一体的に運用する事例も増えつつある。
まとめ(実務整理)
エンゲージメントサーベイは、従業員が組織の掲げる方向性にどれだけ共感し、その実現に自発的に貢献しようとしているかを定量的に測定し、組織の現状と課題を可視化する調査手法である。
2017年のギャラップ社の調査結果を契機に日本国内での関心が高まり、経済産業省の一連の政策的な議論とも軌を一にしながら、人的資本経営を実践するための具体的な手段として定着してきた点に実務上の意義がある。
従業員満足度(ES)調査やモチベーション調査とは、測定する対象の性質が異なる点を理解しておくと、人材マネジメントに関する議論の見取り図がつかみやすくなる。給与や待遇への満足度だけを追いかけていては見えてこない組織課題があるという認識は、今後さらに広がっていくと見込まれる。
コンサルティング業務との関係でいえば、満足度と貢献意欲を切り分けて捉える視点が、組織開発関連プロジェクトにおいて参考になる。採用面接との関係でいえば、調査手法の細部を暗記する必要はなく、満足度と組織への貢献意欲は異なる指標であるという考え方の骨格を押さえておけば、十分な知識基盤となる。
出典
- 経済産業省「産業人材」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/index.html - 経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」(人材版伊藤レポート掲載ページ)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html
こちらよりお問い合わせください
- 条件から探す
- カテゴリから探す