気候テック(Climate Tech)

気候テック(Climate Tech:クライメートテック)とは、温室効果ガスの排出削減(緩和)と気候変動による影響への対応(適応)に資する技術・サービスの総称である。

なぜ今、気候テックという言葉が急速に存在感を増しているのか。2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定以降、各国は温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas、地表から放射される赤外線を吸収・再放射し、大気を温める性質を持つ気体の総称)の削減目標を国際公約として提出するようになり、脱炭素は経営課題として不可避のテーマとなった。

従来の「エコ×IT」的な発想を超え、エネルギー・モビリティ・食料・金融・建築など産業横断で技術革新が進む中、気候テックは投資家・事業会社・政府それぞれにとって成長領域と位置づけられている。

コンサルティング業界においても、気候テック関連のプロジェクトは拡大しており、用語の正確な理解は実務の前提条件になりつつある。

気候テックとは

気候テックはClimate(気候)とTechnology(技術)を組み合わせた複合語であり、気候変動問題に対処するための技術・ビジネスモデル全般を指す。

用語の使われ方には広義と狭義があり、広義では再生可能エネルギーやバイオ燃料などハード技術も含む一方、狭義ではIT・データ解析を活用した気候リスク分析やGHG排出量の可視化サービスに限定して用いられることもある。

気候テックがカバーする対策は大きく2種類に分類される。

ひとつはGHGの排出量そのものを減らす「緩和(Mitigation)」であり、再生可能エネルギーへの転換や省エネルギー化が該当する。

もうひとつは、既に生じている、あるいは将来予測される気候変動の悪影響に備える「適応(Adaptation)」であり、気象データを用いたリスク予測や耐候性農業などが該当する。

対象範囲の境界条件としては、一般的なリサイクル技術は、気候変動対策との直接的な関連性が高い場合を除き、サーキュラーエコノミー(資源循環型経済)領域として扱われることが多い。

環境省が2024年に公表した資料では、気候テックに関連する海外動向として、気候特化型ファンドの相次ぐ設立や、各国の脱炭素目標(日本は2050年カーボンニュートラル、2030年度に2013年度比46%削減)が背景にあることが整理されている。

用語としての気候テックが投資分野を中心に広く使われ始めたのは2010年代後半以降であり、それ以前の2000年代後半から2010年代前半にかけては「クリーンテック」という呼称が主流であった。

クリーンテックが太陽光発電や燃料電池、バイオ燃料などエネルギー関連技術を中心とした呼称であったのに対し、気候テックはエネルギーに加えて金融、農業、建築など、より幅広い分野を対象とする概念として用いられている。

気候テックは、従来クリーンテックと呼ばれていた領域を含みつつ、気候変動対策により焦点を当てた概念として用いられることが多く、両者は明確に区分された別概念というより、対象範囲が重なりつつ時代とともに呼称が変化してきたものと捉えるのが実務上は無難である。

気候テックの構造:PwCによる8分野の整理

PwCコンサルティング合同会社は、気候テックを「エネルギー」「モビリティ・輸送」「気候変動管理と報告」「金融サービス」「温室効果ガスの回収・除去・貯留」「食品・農業・土地利用」「工業・製造業・資源管理」「建築環境」の8分野に分類し、それぞれの技術トレンドや投資動向を分析している。

分野横断で技術革新が進んでいる点が、気候テックを単一の技術カテゴリーではなく「分野群」として捉えるべき理由である。

分野 概要 主な技術・サービス例
エネルギー 発電・送電の脱炭素化 太陽光・風力発電、グリーン水素
モビリティ・輸送 輸送部門のGHG削減 EV(電気自動車)、EV急速充電網
気候変動管理と報告 排出量の可視化・開示支援 GHG算定クラウド、気候リスク分析
金融サービス 気候リスクの金融商品化 サステナブルファイナンス、気候リスク保険
GHGの回収・除去・貯留 排出済みCO2の処理 CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CO2の回収・利用・貯留技術)
食品・農業・土地利用 農業・食品分野の脱炭素 代替タンパク、垂直農法
工業・製造業・資源管理 生産プロセスの脱炭素 環境配慮型コンクリート、素材リサイクル
建築環境 建物のエネルギー効率化 ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)

具体例・ミニケース

実務理解を深めるため、国内外の具体例を確認する。気象情報会社のウェザーニューズは、2100年までの気候リスクをピンポイントで算出する気候変動リスク分析サービスを提供しており、企業の気候リスク評価や農作物収量予測に活用されている。

また、ゼロボードは温室効果ガス排出量の算定・可視化を支援するクラウドサービスを展開し、Scope1(自社の直接排出)・Scope2(購入エネルギー由来の間接排出)・Scope3(サプライチェーン全体の間接排出)の算定ニーズに応えている。

海外では、米国のスタートアップであるElectric Hydrogen社が産業用途向けグリーン水素の製造技術を開発し、三菱重工業などから大型資金調達を行った事例がある。

建設分野では、鹿島建設がCO2を吸収するコンクリート技術を実用化するなど、工業・製造業分野における気候テックの社会実装も進んでいる。

GHGの回収・除去・貯留分野では、スイスのスタートアップであるClimeworksが大気中のCO2を直接回収する技術(DAC:Direct Air Capture)を実用化しており、マイクロソフトと10年間のCO2除去契約を締結するなど、大手企業による炭素除去クレジットの調達先としても採用が進んでいる。

これらの事例は、気候テックが単なる環境技術ではなく、資金調達・事業化・サプライチェーン変革を伴う経営アジェンダであることを示している。

特に、投資家がGHG削減インパクトと財務リターンの両立を求める傾向が強まっており、コンサルティングファームには技術評価だけでなく、事業性評価や資金調達戦略の立案まで一気通貫で支援する役割が求められている。

グリーンテック・クリーンテック・GXとの違い

気候テックは、隣接する概念であるクリーンテック、グリーンテック、GX(グリーントランスフォーメーション:化石燃料中心の産業構造・社会構造を再生可能エネルギー中心へ転換し、温室効果ガスの排出削減と経済成長〈産業競争力の向上〉の同時実現を目指す国全体の取り組み)と混同されやすい。それぞれの射程の違いを整理する。

概念 対象範囲 気候テックとの関係 主な使用場面
クリーンテック 環境負荷低減技術全般(水・大気・資源含む) 対象範囲が重なる概念。時代による呼称の違いという側面が強い 環境技術全般の議論
グリーンテック クリーンテックとほぼ同義で使用 気候テックより広い環境文脈で使用 サステナビリティ全般の議論
GX(グリーントランスフォーメーション) 国・産業構造レベルの政策的転換 気候テックはGXを実現する技術的手段の一つ 国家戦略・産業政策の議論
ESG(Environment・Social・Governance) 投資家の非財務評価軸 気候テックはESGのE(環境)を支える技術基盤 投資判断・企業評価の議論

気候テックはこれらの概念と重なりを持ちながらも、「気候変動」という課題領域に技術的焦点を絞っている点で独自性を持つ。

特にクリーンテックとの関係については、明確な上下関係というより、従来クリーンテックと呼ばれていた領域を含みつつ、気候変動対策により焦点を当てた呼称として使われることが多いという、対象範囲が重なる関係として理解するのが実務上は無難である。

ESGやGXが評価軸・政策枠組みであるのに対し、気候テックはそれらを実現する具体的な技術・サービス群を指す点が明確な相違点である。

コンサルティング業務での位置づけ

気候テック関連プロジェクトは、脱炭素経営支援やGX戦略策定支援といった形でコンサルティングファームの主要テーマの一つとなっている。実務における位置づけを4つの観点から整理する。

論点設計(イシュー出し)

気候テック案件における論点設計では、「どの範囲のGHG削減を対象とするか(Scope1〜3のいずれまでか)」「緩和と適応のどちらを優先課題とするか」「自社開発か外部連携(M&Aやアライアンス)かの選択肢」といった論点を初期段階で明確化することが求められる。

論点が曖昧なまま調査に入ると、後工程での手戻りが発生しやすい領域である。

特に気候テックは技術分野が多岐にわたるため、対象範囲を絞り込まないまま調査を進めると、論点が拡散し意思決定に資するアウトプットにたどり着きにくくなる点がこの領域特有の難所である。

現状分析(As-Is整理)

現状分析では、対象企業のGHG排出量の実態把握、既存の気候テックベンダーとの取引状況、業界内の脱炭素目標達成度の比較(ベンチマーキング)を行う。

排出量データの粒度や算定方法の妥当性を検証するプロセスも、この段階の重要な作業である。

国内企業の場合、Scope3(サプライチェーン全体の間接排出)の算定精度に課題を抱えるケースが多く、算定範囲の妥当性を確認する作業自体が現状分析の重要な論点となることも少なくない。

施策設計(To-Be)

施策設計では、特定した論点に基づき、再生可能エネルギー調達、GHG可視化ツールの導入、カーボンクレジット活用などの選択肢を比較検討し、投資対効果(ROI)とリスクの両面から優先順位付けを行う。

気候テックスタートアップとの協業スキーム設計も、この段階で扱われることが多い。

施策の実現可能性を判断する際は、技術の成熟度(実証段階か商用化段階か)とコスト低減余地を切り分けて評価することが、実務上有効なアプローチとなる。

資料作成(スライド構造)

資料作成においては、現状の排出量ポジション、業界内での相対的な立ち位置、施策ごとの削減インパクトとコストを1枚のスライドで対比できるよう構成することが基本となる。

定量データと定性的なストーリーラインを組み合わせ、経営層が意思決定しやすい構造に落とし込む工夫が求められる。削減インパクトとコストをマトリクス形式で整理し、優先度の高い施策を視覚的に強調する構成は、気候テック関連の提案資料で頻繁に用いられる型である。

コンサル採用面接で問われる理由

気候テックという用語そのものが、面接官から直接・ダイレクトに定義を問われる場面は多くない。

むしろ、ケース面接において脱炭素・サステナビリティをテーマとした課題が出題された際、気候テックという枠組みを理解していることが、業界構造や技術トレンドを踏まえた論点整理の質を高める材料になる。

例えば「ある製造業のCO2排出量削減戦略を提案せよ」というケースでは、気候テックの8分野的な視点を持っていると、施策の抜け漏れを防ぎやすくなる。この構造を内面化した思考は、ケース解答における論理展開に説得力を与える。

フレームワーク名や分野名を逐一暗記する必要はなく、緩和と適応という基本的な考え方の骨格をおさえておけば、十分な知識基盤として機能する。

また、サステナビリティ関連のプロジェクト経験を語る場面においても、気候テックという枠組みを背景知識として持っていると、自らの経験を業界全体の潮流の中に位置づけて説明しやすくなる。

用語の暗記そのものよりも、脱炭素をめぐる産業構造の変化を大づかみに理解しておく姿勢の方が、面接における評価につながりやすいといえる。

FAQ

Q1. 気候テックとは何か?

気候テックとは、温室効果ガスの排出削減(緩和)と気候変動影響への対応(適応)に資する技術・サービスの総称である。

エネルギー、モビリティ、金融、建築など幅広い産業にまたがる概念であり、単一の技術分野を指すものではない。

2015年のパリ協定採択以降、国際的な脱炭素目標の設定を背景に注目度が高まった。

IT・データ解析を用いたGHG可視化サービスに限定して狭義に使われることもあり、文脈に応じて範囲が変動する点に注意が必要である。

Q2. 気候テックとグリーンテック・GXは何が違うのか?

気候テックは「気候変動」という課題に技術的焦点を絞った概念であるのに対し、グリーンテック・クリーンテックは水質や大気汚染対策なども含む環境技術全般を指す、より広い上位概念である。

一方GXは、国や産業構造全体を再生可能エネルギー中心へ転換する政策的な取り組みであり、気候テックはそのGXを実現するための技術的手段の一つと位置づけられる。

ESGは投資家の評価軸であり、気候テックはESGのE(環境)領域を支える技術基盤という関係にある。

Q3. 気候テックはどのように活用され、どのようなツールが使われるのか?

活用の基本フローは、GHG排出量の現状把握、削減目標の設定、施策の選定と実行、効果検証というサイクルで構成される。

現状把握の段階では、ゼロボードなどのGHG算定クラウドサービスが用いられ、Scope1〜3(Scope1:自社の直接排出、Scope2:購入エネルギー由来の間接排出、Scope3:サプライチェーン全体の間接排出)の排出量を可視化する。

施策実行の段階では、再生可能エネルギー調達契約や、ウェザーニューズの気候リスク分析サービスのような気候リスク予測ツールが活用される。

フェーズごとに求められるツールの性質が異なる点が実務上のポイントである。

Q4. コンサルティングの現場では気候テックはどのように活用されるのか?

コンサルティングの現場では、クライアント企業のGX戦略策定支援、脱炭素ロードマップの策定、気候テックスタートアップとの協業先選定支援といった形で活用されている。

プロジェクトでは、GHG排出量データの精緻化とROI可視化を組み合わせ、投資判断に資する定量的な根拠を提示することが求められる。

また、気候関連財務情報開示(気候変動が企業財務に与える影響を投資家に開示する国際的な枠組み)への対応支援など、開示制度と連動した支援ニーズも拡大している領域である。

Q5. 気候テックに関するよくある誤解は何か?

よくある誤解の一つは、気候テックを「再生可能エネルギー技術」に限定して捉えてしまうことである。実際には金融、農業、建築など幅広い分野を含む概念であり、エネルギー分野はその一部に過ぎない。

また、気候テックへの投資が常に高い収益性を伴うと誤解されがちだが、水素関連技術のように従来技術と比較してコスト面の課題が残る領域も多い。導入検討にあたっては、技術の成熟度とコスト構造を個別に見極める姿勢が求められる。

まとめ(実務整理)

気候テックは、緩和と適応という2つの軸を通じて気候変動対策を技術面から支える、産業横断的な概念である。

エネルギーからモビリティ、金融、建築に至るまで対象領域が広く、GX・ESG・クリーンテックといった隣接概念との関係を整理して理解しておくことが、実務における論点整理の精度を高める一助となる。

コンサルティング業務においては、脱炭素戦略支援やGX関連プロジェクトの拡大に伴い、気候テックの知識は参考になる基礎知識として位置づけられる。

論点設計から資料作成に至るまで一連のプロセスの中で、GHG排出量データの扱いや施策の優先順位付けに関する理解が求められる場面は今後も増えていくと考えられる。

採用面接との関係では、用語そのものを暗記することよりも、緩和・適応という基本構造を理解しておく程度で十分な知識基盤となる。

出典

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