フードテック
食料需要の増加や環境負荷、人手不足といった課題に直面する食品産業は、なぜ今、技術革新を必要としているのか。世界的な人口増加や気候変動により、従来型の食料生産・供給の仕組みだけでは、将来にわたる食料安全保障を確保することが難しくなりつつある。
こうした課題に対し、AIやロボット、代替タンパク質等の新技術を掛け合わせて食のあり方そのものを刷新しようとする動きがフードテックであり、農林水産省が官民協議会を設置して推進するなど、国家戦略としても位置づけられている。
AIの活用は工場等の製造現場にとどまらず、需要予測によるフードロス削減や、レシピ生成、配送最適化、食品ECといった、消費者に近い領域でも広がりつつある。食品業界の再編や新規事業開発が活発化する中で、コンサルティング業界でも成長領域として関心が高まっているテーマである。
フードテックとは
フードテックという用語に統一的な法令上の定義はないが、農林水産省は「生産から加工、流通、消費等へとつながる食分野の新しい技術及びその技術を活用したビジネスモデル」と説明しており、経済産業省は「サイエンスとエンジニアリングによる食のアップグレード」と定義づけている。両者の表現は異なるものの、実務では、食に関わる技術革新とその事業化を幅広く含む概念として扱われることが多い。
フードテックが対象とする条件としては、単なる新食材の開発にとどまらず、AI・ロボット等のデジタル技術による生産性向上や、代替タンパク質(動物由来の食肉を代替する、植物・微生物・昆虫・培養等に由来するタンパク質源)による資源循環型の食料供給まで、幅広い技術領域を含む点が挙げられる。
日本国内では、農林水産省が事務局となり、2020年10月に産学官連携による「フードテック官民協議会」を設立した。同協議会には、食品企業やスタートアップ、研究機関、関係省庁等が参加しており、会員数は1,000名を超える規模となっている。
2023年2月21日には、同協議会が「フードテック推進ビジョン」を策定し、持続可能な食料供給、生産性向上、健康な食生活という3つの重点領域を掲げ、日本発のフードテックビジネスの育成を通じた食料・環境問題の解決と新産業創出を目指す方針を示している。
なお、フードテックという言葉自体は特定の企業や団体が商標として独占しているものではなく、複数の省庁や業界団体がそれぞれの立場から定義を示している点も、正確に理解しておきたい境界条件である。
海外でも、米国が2020年2月に「農業イノベーションアジェンダ」を、EUが同年5月に持続可能な食品システムへの移行を掲げる「Farm to Fork戦略」を公表しており、後者はその一環として代替タンパク質分野の技術開発も後押ししている。
各国政府がそれぞれの形で同様の政策を進めている。
| 重点領域 | 主な技術例 | 目的 |
|---|---|---|
| 持続可能な食料供給 | 代替タンパク質、培養肉、精密発酵(微生物の発酵作用を制御し、目的の栄養成分を生産する技術) | 資源循環型の食料供給システムの構築 |
| 生産性向上 | AI・ロボットによる調理・配膳自動化、スマート農業 | 人手不足・過重労働の解消 |
| 健康な食生活 | パーソナライズ栄養、機能性食品 | 高い食のQOL(生活の質)の実現 |
フードテックの具体例
ある食品メーカーV社が、原材料価格の高騰と労働力不足を背景に、フードテックの導入に踏み切るケースで考えてみる。V社ではこれまで、熟練職人の勘や経験に依存した製造工程が多く、若手人材への技術継承が課題となっていたほか、主要原料である畜産由来のタンパク質価格の上昇にも直面していた。
そこでV社は、製造ラインの一部にAI画像認識による品質検査ロボットを導入し、検品工程の自動化と品質の安定化を図った。あわせて、植物由来の代替タンパク質を用いた新商品ラインを立ち上げ、原料調達リスクの分散と、健康志向の消費者層への訴求を同時に狙った。
新商品の開発にあたっては、社内の研究開発部門だけでなく、代替タンパク質を専門とするスタートアップとの技術提携も行い、自社単独では確立が難しかった製造ノウハウを補った。このケースが示すように、フードテックは、単一の技術導入にとどまらず、生産性向上と新市場開拓を同時に実現する経営課題への対応として活用されている。
フードテックとアグリテック・スマート農業の違い
フードテックは、対象範囲の近さから、アグリテック(AgriTech:農業分野に特化した技術革新、Agriculture+Technologyの造語)やスマート農業としばしば混同される。アグリテック・スマート農業が、主に農業生産の現場(栽培・収穫等)における技術革新を指すのに対し、フードテックは、生産から加工・流通・消費に至る食のバリューチェーン全体を対象とする、より広い概念である点が異なる。したがって、アグリテックはフードテックが対象とする技術領域の一部として位置づけられる関係にある。
| 概念・手法 | 対象範囲 | フードテックとの関係 | 主な技術例 |
|---|---|---|---|
| フードテック | 生産・加工・流通・消費まで食の全バリューチェーン | 上位概念 | 代替タンパク質、フードロス削減技術等 |
| アグリテック | 農業生産の現場(栽培・収穫等) | フードテックを構成する一領域 | 精密農業、農業用ドローン等 |
| スマート農業 | 農業生産のICT・ロボット化 | アグリテックとほぼ同義で使われることが多い | 自動運転農機、環境制御システム等 |
コンサルティング業務における位置づけ
コンサルティングプロジェクトにおいてフードテックは、クライアント企業の新規事業戦略やサプライチェーン改革の検討対象として登場することが多い。以下の4つの実務観点で位置づけを整理する。
論点設計(イシュー出し)
クライアント企業の経営課題が、原料調達リスクの分散、生産性向上、新市場開拓のいずれに近いかという論点設計から着手する。フードテックが対象とする技術領域は幅広いため、自社の経営資源との親和性をMECE(漏れなく重複なく情報を整理する考え方)の観点で切り分けることが重要な論点となる。
現状分析(As-Is整理)
既存の製造・物流工程におけるデジタル技術の活用状況や、業界内での代替タンパク質・自動化技術等の導入事例を棚卸しする。フードテック官民協議会等の業界動向を踏まえ、自社が置かれている技術的な立ち位置を把握する作業も、この段階で行う。
施策設計(To-Be)
自社の経営課題に適した技術(生産性向上を狙う自動化技術か、新市場開拓を狙う代替タンパク質等の新素材か)を選定し、段階的な事業化ロードマップを設計する。自社単独での技術開発が難しい場合は、スタートアップとの協業や出資といった連携形態の検討も、この段階での重要な論点である。
資料作成(スライド構造)
経営層向け資料では、技術導入による生産性向上効果や新市場での売上見込みと、投資額を対応させたロードマップを一枚で示す構成が定番である。あわせて、消費者の受容性や規制動向等の不確実性を併記することで、投資判断がしやすい資料設計が求められる。
フードテック活用のメリットと注意点
フードテックの最大のメリットは、AIやロボットによる自動化で人手不足や過重労働を解消しつつ、代替タンパク質等の新技術によって資源制約に左右されにくい持続可能な食料供給を実現できる可能性にある。
農林水産省もフードテック推進ビジョンの中で、日本発のフードテックビジネスを育成し、食料・環境問題の解決と新産業創出を目指す方針を掲げており、政策面での後押しも大きい。
一方で、注意すべき点も多い。第一に、培養肉や昆虫食等の新しい食材は、消費者の受容性が確立されておらず、技術的に実用化できても市場に受け入れられるとは限らない。
第二に、代替タンパク質等の新規食品については、食品表示や安全性評価に関するルール整備が発展途上の領域もあり、事業化にあたっては規制動向を継続的に確認する必要がある。
第三に、AI・ロボット等の設備投資には相応の初期費用がかかるため、投資回収の見通しを事前に精緻化しておかなければ、期待した効果が得られない可能性がある。
導入コストの面では、技術そのものの資格取得費用等は発生しないが、設備投資や研究開発、消費者調査等に相応の投資が必要となる点を見込んでおく必要がある。
実際に、代替タンパク質分野では量産体制の確立に至らず撤退する事業者も見られ、技術の実証段階から量産段階への移行が、多くのプレイヤーにとって共通の壁となっている。
コンサル採用面接で問われる理由
フードテックの個別技術そのものを面接官が詳細に問う場面は多くない。ただし、消費財・食品業界や新規事業戦略をテーマにしたケース面接では、人手不足や資源制約にどう向き合うべきかという論点が扱われることがあり、その際に「食のバリューチェーン全体から課題を捉え直す」という発想を持っているかどうかが、回答の説得力を左右する。
単に「新技術を導入すべき」と述べるだけでなく、消費者の受容性や規制動向まで踏み込んで語れると、議論に厚みが生まれる。こうした視点を備えておくことは、ケース解答の質を底上げする一助になる。
個別の技術仕様を暗記しておく必要はなく、食の課題をバリューチェーン全体で捉える発想の骨格を理解しておけば、面接の議論の中で自然に応用できるといえる。
FAQ
Q1. フードテックとは、どのような領域か。
フードテックとは、生産から加工、流通、消費に至る食分野全体を対象に、新しい技術とそれを活用したビジネスモデルによって食の課題を解決しようとする領域である。
農林水産省は「生産から加工、流通、消費等へとつながる食分野の新しい技術及びその技術を活用したビジネスモデル」と説明しており、経済産業省は「サイエンスとエンジニアリングによる食のアップグレード」と定義している。
新食材の開発からAI・ロボットの活用まで対象範囲が広い点が特徴である。
Q2. フードテックとアグリテック・スマート農業は、何が違うのか。
最も大きな違いは、対象とする範囲にある。アグリテック・スマート農業は、主に農業生産の現場における技術革新を指す言葉である。これに対しフードテックは、生産から加工・流通・消費までを含む、より広い食のバリューチェーン全体を対象とする点で異なる。そのためアグリテックは、フードテックを構成する一領域として位置づけられる。
Q3. フードテックは、どのように導入・活用が進められているのか。
実務における一般的な進め方は、まず自社の経営課題が生産性向上と新市場開拓のどちらに近いかを見極めることから始まる。
次に、AI画像認識による検品自動化や、代替タンパク質を用いた新商品開発等、課題に適した技術を選定し、限定的な範囲で実証を行う。
活用を支えるツールとしては、AI・ロボット等のデジタル技術のほか、フードテック官民協議会が公表する推進ビジョンやロードマップ等の政策動向資料があり、自社の事業領域に応じて参照することが実務上のポイントとなる。
Q4. コンサルティングの現場では、フードテックはどのように扱われているのか。
コンサルティングプロジェクトでは、クライアント企業の新規事業戦略や、原料調達リスクの分散を目的としたサプライチェーン改革を支援する場面で、フードテックの動向調査や技術選定が扱われることが多い。
消費財・食品コンサルティング領域では、実証実験の設計から、投資対効果(ROI)の試算、経営層への報告資料の作成までを一体で支援する役割を担う。代替タンパク質等の新素材開発という文脈では、規制動向の調査や消費者受容性の検証という形で扱われることもある。
Q5. フードテックについて、よくある誤解は何か。
よくある誤解の一つは、フードテックを培養肉や代替タンパク質等の新食材開発のみを指す言葉だと考えてしまうことである。実際には、AI・ロボットによる生産性向上や、流通・小売のデジタル化まで含む幅広い概念であり、新食材はその一部にすぎない。
もう一つの誤解は、新技術さえ開発すればすぐに事業化できるというものであるが、実際には消費者の受容性や規制動向の確認が事業化の前提であり、技術面だけでなく市場面の検証も欠かせない点に注意が必要である。
まとめ(実務整理)
フードテックは、生産から加工、流通、消費に至る食分野全体を対象に、新しい技術とビジネスモデルで食の課題を解決しようとする領域である。
農林水産省・経済産業省それぞれの定義や、2020年のフードテック官民協議会設立から2023年のフードテック推進ビジョン策定に至る経緯を理解しておくと、アグリテックやスマート農業との違いも整理しやすくなる。
政策的な後押しとも重なりながら、食品業界の新規事業開発や生産性向上の手段として関心が高まってきた点に実務上の意義がある。
コンサルティング業務との関係でいえば、食のバリューチェーン全体から経営課題を捉え直す視点が、消費財・食品関連プロジェクトにおいて参考になる。
採用面接との関係についても、個別技術の細部を暗記する必要はなく、食の課題をバリューチェーン全体で捉える発想の骨格を押さえておけば、十分な知識基盤となるだろう。
出典
- 農林水産省「新事業創出(フードテック等)」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sosyutu/index.html - フードテック官民協議会「フードテック官民協議会について」(農林水産省)
https://food-tech.maff.go.jp/about/
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