代替タンパク質
世界人口の増加が続く中、なぜ従来型の畜産だけに頼らないタンパク質源の確保が急がれているのか。畜産業は温室効果ガスの排出や広大な飼料用農地の確保といった環境負荷が大きく、将来の食料需要の増加に対して、供給を持続的に拡大し続けることが難しくなりつつある。
こうした課題への一つの解として、動物以外の原料からタンパク質を生み出す技術群である代替タンパク質が、フードテック(食分野における新技術とビジネスモデルの総称)の中核領域として世界的に注目されている。
日本でも農林水産省が政策として研究開発を後押ししており、コンサルティング業界でも消費財・食品分野の成長領域として関心が高まっているテーマである。
代替タンパク質とは
代替タンパク質という用語に統一的な法令上の定義はないが、植物・微生物・昆虫・培養細胞等を活用し、従来の畜産由来タンパク質を代替するという考え方に基づく点は共通している。
代替タンパク質が成立する条件としては、原料や製法の違いにより複数の技術類型に分かれる点が挙げられ、主な類型として、大豆等の植物由来タンパク質、微生物の発酵作用を利用してタンパク質を生産する精密発酵(微生物に目的の栄養成分を生産させるよう遺伝子技術等で制御する発酵技術)、昆虫由来タンパク質、動物の細胞を体外で培養してつくる培養肉、菌類を発酵させてつくる菌糸体タンパク質(マイコプロテイン:Quorn等に用いられる、真菌の一種を発酵培養して得る繊維状のタンパク質素材)、藻類由来タンパク質が挙げられる。
培養肉の起源としては、2013年8月にオランダ・マーストリヒト大学のマーク・ポスト教授が、ロンドンで世界初となる培養肉バーガーの試食会を開催した事例が知られており、この時の製造コストは研究費込みで約33万ドル(当時のレートで約3500万円)にのぼった。
その後、2020年12月にシンガポールが、米国のスタートアップであるイートジャスト社の培養鶏肉「GOOD Meat」の販売を世界で初めて承認し、2023年6月には米国もアップサイド・フーズ社とグッド・ミート社の培養鶏肉の生産・販売を承認している。
2013年の試食会から2020年の商業承認、2023年の米国承認へと、実験室レベルの技術が各国で段階的に市場実装へと移行してきた流れを押さえておくと、現在の培養肉が置かれている発展段階を理解しやすくなる。
日本国内では、農林水産省が2020年4月に「フードテック研究会」を設立し、同年7月の中間とりまとめで代替肉・培養肉を重要分野と位置づけたほか、2021年5月12日に策定した「みどりの食料システム戦略」の中でも、産学官連携による代替タンパク質の研究開発推進が盛り込まれている。
なお、代替タンパク質という言葉が指す範囲は、必ずしも「動物性食品を完全に置き換えるもの」に限定されない点も、定義解説として補足しておきたい。
完全な置き換えだけでなく、既存の畜産由来タンパク質の一部を代替タンパク質に置き換えるブレンド(ハイブリッド)型の活用も、近年の実務では重要な位置を占めている。
実務では、既存の畜産由来タンパク質と組み合わせて使用するハイブリッド製品や、栄養補助的な位置づけで代替タンパク質を活用する事例も見られ、対象の粒度は文脈に応じて幅がある。
| 類型 | 原料・製法 | 代表例 |
|---|---|---|
| 植物由来タンパク質 | 大豆・えんどう豆等の植物性原料を加工 | 植物肉、豆乳等 |
| 精密発酵由来タンパク質 | 微生物の発酵作用を制御して生産 | 乳・卵タンパク質の代替品等 |
| 昆虫由来タンパク質 | 昆虫の飼育・加工 | コオロギ粉末等 |
| 培養肉 | 動物の細胞を体外で培養 | 培養鶏肉、培養牛肉等 |
| 菌糸体タンパク質(マイコプロテイン) | 真菌の一種を発酵培養 | Quorn等の菌糸体由来食品 |
| 藻類由来タンパク質 | スピルリナ等の藻類を加工 | 藻類パウダー、代替シーフード等 |
代替タンパク質の具体例
ある食品メーカーU社が、主要原料である畜産由来タンパク質の価格高騰を受けて、代替タンパク質の活用に踏み切るケースで考えてみる。U社ではこれまで、食肉加工品の原料を輸入畜産物に依存しており、為替や国際情勢による価格変動リスクを抱えていた。
そこでU社は、大豆由来の植物性タンパク質を用いた新商品ラインを立ち上げ、既存の食肉加工品と並行して展開することにした。開発にあたっては、食感や風味を本物の食肉に近づけるための技術を持つスタートアップと提携し、自社単独では確立が難しかった加工ノウハウを補った。
あわせて、既存の食肉加工品と植物性タンパク質を組み合わせたハイブリッド商品も試作し、価格や食感への抵抗感が大きい消費者層にも受け入れられやすい選択肢を用意した。
このケースが示すように、代替タンパク質の活用は、環境負荷の低減という側面だけでなく、原料調達リスクの分散という経営上の観点からも進められている。
あわせて、畜産由来原料からの切り替えは、サプライチェーン上の温室効果ガス排出(Scope3:自社の直接排出だけでなく、原材料調達や製品使用等、サプライチェーン全体で生じる間接排出)の削減にもつながるため、ESG投資家からの評価向上を意識した経営判断としても位置づけられつつある。
代替タンパク質と植物肉・培養肉の違い
代替タンパク質は、しばしば「植物肉」や「培養肉」といった個別の用語と同一視されるが、両者は代替タンパク質という大きな概念を構成する一部の類型にすぎない。
植物肉は、大豆等の植物由来タンパク質を加工した食品を指す言葉であり、食肉に近い食感や風味を追求した商品だけでなく、豆腐ハンバーグのように従来から親しまれてきた植物性食品も含む、幅の広い概念である。植物肉は、代替タンパク質の中でも最も市場が先行して形成されてきた類型である。
培養肉は、動物の細胞を体外で培養して食肉をつくる技術であり、植物肉とは原料も製法も異なるが、いずれも代替タンパク質という上位概念に含まれる関係にある。
| 概念・手法 | 対象範囲 | 代替タンパク質との関係 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 代替タンパク質 | 植物・微生物・昆虫・培養細胞等に由来するタンパク質源全般 | 上位概念 | 食料安全保障、環境負荷低減等 |
| 植物肉(代替肉) | 植物由来タンパク質を加工した食品 | 代替タンパク質を構成する一領域 | ハンバーグ、ソーセージ等の代替 |
| 培養肉 | 動物細胞の体外培養による食肉 | 代替タンパク質を構成する一領域 | 従来の畜肉に近い食感の再現 |
コンサルティング業務における位置づけ
コンサルティングプロジェクトにおいて代替タンパク質は、クライアント企業の新規事業戦略や原料調達戦略の検討対象として登場することが多い。以下の4つの実務観点で位置づけを整理する。
論点設計(イシュー出し)
クライアント企業の経営課題が、原料調達リスクの分散、環境負荷の低減、新市場開拓のいずれに近いかという論点設計から着手する。
代替タンパク質には複数の技術類型が存在するため、自社の経営資源との親和性をMECE(漏れなく重複なく情報を整理する考え方)の観点で切り分けることが重要な論点となる。
現状分析(As-Is整理)
各技術類型の開発・商用化の進捗状況や、国内外における食品表示・安全性評価等の規制動向を棚卸しする。自社の既存原料調達網や製造設備が、代替タンパク質の事業機会にどう転用できるかを把握する作業も、この段階で行う。
施策設計(To-Be)
自社の経営課題に適した技術類型(原料調達リスクの分散を狙う植物由来か、新市場開拓を狙う培養肉等の先端技術か)を選定し、段階的な事業化ロードマップを設計する。自社単独での技術開発が難しい場合は、スタートアップとの協業や出資といった連携形態の検討も、この段階での重要な論点である。
資料作成(スライド構造)
経営層向け資料では、技術類型ごとの実用化時期の見通しと、自社の投資タイミングを対応させたロードマップを一枚で示す構成が定番である。あわせて、投資額に対して期待される事業機会と、消費者の受容性や規制動向等の不確実性を併記することで、投資判断がしやすい資料設計が求められる。
代替タンパク質活用のメリットと注意点
代替タンパク質の最大のメリットは、畜産に伴う環境負荷や飼料用農地の制約に左右されにくい形で、将来の食料需要の増加に対応できる可能性にある。
原料調達の面でも、畜産由来原料の価格変動リスクを分散できる点は、食品メーカーにとって経営上のメリットとなる。
需要側の要因としては、健康志向の高まりも市場拡大を後押ししており、低脂質・高たんぱくといった特性を訴求できる植物由来タンパク質等は、環境配慮とは別の軸で消費者に受け入れられている。
一方で、注意すべき点も多い。第一に、培養肉や昆虫食等の新しい技術類型は、消費者の受容性が確立されておらず、技術的に実用化できても市場に受け入れられるとは限らない。
第二に、培養肉等の新規食品については、日本国内も含め食品表示や安全性評価に関するルール整備が発展途上の領域もあり、事業化にあたっては規制動向を継続的に確認する必要がある。
第三に、培養肉は量産化に伴うコスト低減が大きな課題であり、実証段階の技術を採算の取れる事業規模まで引き上げられるかどうかが、多くのプレイヤーにとって共通の壁となっている。
実際に、2013年の試食会当時は1個あたり数十万ドル規模だった培養肉のコストは、技術革新により大きく下がってきているものの、一般的な食肉と同等の価格帯に達するにはなお時間を要するとされている。
導入コストの面では、技術そのものの資格取得費用等は発生しないが、研究開発や設備投資、消費者調査等に相応の投資が必要となる点を見込んでおく必要がある。
特に培養肉分野では、量産体制の確立に至らず事業を縮小・撤退する企業も見られ、実証段階から量産段階への移行が業界共通の課題となっている。
コンサル採用面接で問われる理由
代替タンパク質の個別技術そのものを面接官が詳細に問う場面は多くない。
ただし、消費財・食品業界や新規事業戦略をテーマにしたケース面接では、資源制約の中で食料供給をどう持続させるべきかという論点が扱われることがあり、その際に「技術類型ごとに実用化の段階が異なる」という発想を持っているかどうかが、回答の説得力を左右する。
単に「代替タンパク質に投資すべき」と述べるだけでなく、消費者の受容性や規制動向まで踏み込んで語れると、議論に厚みが生まれる。こうした視点を備えておくことは、ケース解答の質を底上げする一助になる。
個別の技術仕様を暗記しておく必要はなく、資源制約の中で食の持続可能性を考える発想の骨格を理解しておけば、面接の議論の中で自然に応用できるといえる。
FAQ
Q1. 代替タンパク質とは、どのような技術か。
代替タンパク質とは、植物・微生物・昆虫・培養細胞等を活用し、従来の畜産由来タンパク質を代替するタンパク質源の総称である。
植物由来、精密発酵由来、昆虫由来、培養肉、菌糸体(マイコプロテイン)由来、藻類由来という複数の技術類型を含む幅広い概念である。2013年にオランダで世界初の培養肉バーガーが試食されたことを一つの契機に、国際的な開発競争が進んできた分野である。
Q2. 代替タンパク質と植物肉・培養肉は、何が違うのか。
最も大きな違いは、対象とする範囲にある。植物肉や培養肉は、それぞれ植物由来・動物細胞由来という特定の原料・製法を指す個別の用語である。これに対し代替タンパク質は、こうした個別の技術類型を包含する、より広い上位概念である点で異なる。そのため植物肉・培養肉は、代替タンパク質を構成する一領域として位置づけられる。
Q3. 代替タンパク質は、どのように事業化が進められているのか。
実務における一般的な進め方は、まず自社の経営課題が原料調達リスクの分散と新市場開拓のどちらに近いかを見極めることから始まる。
次に、技術類型ごとの実用化状況を踏まえ、比較的市場が確立している植物由来から着手するか、先端技術である培養肉等に挑戦するかを選定する。
事業化を支える手段としては、自社研究開発のほか、代替タンパク質を専門とするスタートアップとの技術提携や出資があり、自社の技術基盤に応じて手段を選ぶことが実務上のポイントとなる。
Q4. コンサルティングの現場では、代替タンパク質はどのように扱われているのか。
コンサルティングプロジェクトでは、クライアント企業の新規事業戦略や、原料調達リスクの分散を目的としたサプライチェーン改革を支援する場面で、代替タンパク質の動向調査や技術選定が扱われることが多い。
消費財・食品コンサルティング領域では、実証実験の設計から、投資対効果(ROI)の試算、経営層への報告資料の作成までを一体で支援する役割を担う。海外市場への展開という文脈では、進出先国の規制動向や消費者受容性の調査という形で扱われることもある。
Q5. 代替タンパク質について、よくある誤解は何か。
よくある誤解の一つは、代替タンパク質を植物肉や培養肉等、特定の一つの技術だけを指す言葉だと考えてしまうことである。実際には、原料や製法の異なる複数の技術類型を含む幅広い概念であり、個別の商品名や技術名と同一視すべきではない。
もう一つの誤解は、技術さえ確立すればすぐに市場が広がるというものであるが、実際には消費者の受容性や規制動向の確認が事業化の前提であり、技術面だけでなく市場面の検証も欠かせない点に注意が必要である。
まとめ(実務整理)
代替タンパク質は、動物由来のタンパク質を、植物・微生物・昆虫・培養細胞等の技術で代替するタンパク質源の総称であり、複数の技術類型を含む幅広い概念である。
2013年の世界初の培養肉試食から、2020年のシンガポールでの商用承認、日本国内での政策的な後押しに至る経緯を理解しておくと、植物肉や培養肉との関係も整理しやすくなる。
農林水産省の政策動向とも重なりながら、食品業界の新規事業開発や原料調達戦略の手段として関心が高まってきた点に実務上の意義がある。
コンサルティング業務との関係でいえば、技術類型ごとに実用化の段階が異なるという視点が、消費財・食品関連プロジェクトにおいて参考になる。
採用面接との関係についても、個別技術の細部を暗記する必要はなく、資源制約の中で食の持続可能性を考える発想の骨格を押さえておけば、十分な知識基盤となるだろう。
出典
- 農林水産省「みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/team1.html - フードテック官民協議会「フードテック官民協議会について」(農林水産省)
https://food-tech.maff.go.jp/about/
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