空飛ぶクルマ(eVTOL)

空飛ぶクルマとは、垂直に離着陸できる次世代の空の移動手段の通称であり、その主流となる機体方式がeVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft:電動垂直離着陸機)である。

滑走路を必要とする従来の航空機やヘリコプターに対し、なぜ「空飛ぶクルマ」という新しい移動手段が世界各国で開発競争を呼んでいるのか。都市部の渋滞や、離島・山間部における移動手段の不足、災害時の迅速な物資輸送といった社会課題に対し、垂直離着陸が可能で、電動化により運航・整備コストの低減が期待される次世代モビリティが解決策の一つとして期待されている。

日本でも経済産業省と国土交通省が官民協議会を設置して制度整備を進めており、2025年の大阪・関西万博でのデモ飛行を経て、コンサルティング業界でも次世代モビリティ関連の技術動向として関心が高まっているテーマである。

空飛ぶクルマとは

「空飛ぶクルマ」は、少人数で乗車でき、日常的に利用可能な空中を移動する次世代の乗り物を指す日本語の通称であり、法令上の正式な分類名ではない。

道路走行機能を必ずしも持つわけではなく、その主流となる機体方式が、電気モーターでローターを駆動し、滑走路を使わずに垂直に離着陸できるeVTOL(電動垂直離着陸機)である。

eVTOLが成立する条件としては、複数の電動ローターによる垂直離着陸能力に加え、飛行時に機体から排出ガスを出さない点や、ヘリコプターと比べて部品点数が少なく、整備コストの低減が期待される設計思想が挙げられる。

なお、機体からの排出ガスがない一方、使用する電力の発電方法によってはライフサイクル全体で二酸化炭素が発生しうる点には注意が必要である。

航続距離は数十〜数百km程度、飛行高度は数百m程度が想定されており、既存のヘリコプターや小型航空機を代替するというより、都市内・都市間の短距離移動を補完する位置づけである点が境界条件となる。

日本では、経済産業省と国土交通省が2018年8月に「空の移動革命に向けた官民協議会」を設置し、同年12月に「空の移動革命に向けたロードマップ」を取りまとめた(2022年3月に改訂)。

当初は2025年の大阪・関西万博での商用運航が期待されていたが、機体の開発や安全基準等のルール整備が遅れたことから、万博会期中は事実上デモ飛行にとどまり、2026年3月には経済産業省・国土交通省が2027〜28年頃の商用化を目標とする新たな工程表を提示している。

この目標時期は日本政府によるものであり、SkyDrive、Joby Aviation、Archer Aviation、Volocopter等、個々の機体メーカーが掲げる開発・商用化スケジュールとは必ずしも一致しない点にも留意したい。

運航開始当初は、操縦者が機体に乗り込んだ遊覧飛行等の限定的な利用から始まり、2030年代前半にかけて都市間輸送や空港アクセスへと用途を広げていく方針が示されている点も、実用化のスケジュール感を把握するうえで押さえておきたい。

時期 出来事 主体
2018年8月 「空の移動革命に向けた官民協議会」を設置 経済産業省・国土交通省
2018年12月 「空の移動革命に向けたロードマップ」を取りまとめ 官民協議会
2024年10月 eVTOLをヘリコプター以来の新たな民間航空機カテゴリーとして認定する規則を発表 米連邦航空局(FAA)
2025年 大阪・関西万博でeVTOLのデモ飛行を実施 SkyDrive、ANA(Joby)、JAL(Volocopter)、丸紅(Vertical Aerospace)等
2026年3月 2027〜28年頃の商用化を目標とする新たな工程表を提示 経済産業省・国土交通省

空飛ぶクルマの具体例

ある地方自治体W市が、離島と本土を結ぶ医療搬送手段としてeVTOLの実証実験に取り組むケースで考えてみる。W市ではこれまで、悪天候時にヘリコプターが運航できず、急患の搬送が遅れるという課題を抱えていた。

そこでW市は、機体メーカーと連携し、既存のヘリポートを活用したeVTOLの試験飛行を実施し、垂直離着陸のしやすさや、電動化による運航コストの低減効果を検証した。

実証実験の結果、限定的な気象条件下ではあるものの、飛行時間の短縮とあわせて、燃料補給が不要な分、運航準備にかかる時間も削減できることが確認された。

W市はこの結果を踏まえ、機体メーカーやヘリポート管理者と協定を結び、恒常的な運航に向けた安全基準の確認を段階的に進める方針を打ち出した。

このケースが示すように、空飛ぶクルマは、都市部の移動手段としてだけでなく、離島や山間部における医療・物流インフラを補完する手段としても実証が進められている段階にある。

空飛ぶクルマとヘリコプター・ドローンの違い

空飛ぶクルマは、垂直に離着陸できる乗り物という共通点から、ヘリコプターやドローンとしばしば混同される。ヘリコプターは、内燃機関でローターを駆動する有人航空機であり、整備・燃料コストが高く、騒音も大きい点が、電動化により運航・整備コストの低減が期待されるeVTOLとの違いである。

ドローン(無人航空機)は、多くの場合人を乗せない小型の無人機を指し、人を乗せて移動するeVTOLとは、機体規模や用途の面で異なる。

乗り物 動力・操縦 主な特徴 主な用途
eVTOL(空飛ぶクルマ) 電動・当初は有人操縦、将来的に自動化を志向 飛行時の排出ガスなし、整備コストの低減が期待される 都市内外の短距離移動、医療搬送等
ヘリコプター 内燃機関・有人操縦 実用実績は豊富だが整備・燃料コストが高い 救急搬送、報道、要人輸送等
ドローン(無人航空機) 電動・多くは無人 小型で人を乗せない 空撮、点検、小型貨物輸送等

コンサルティング業務における位置づけ

コンサルティングプロジェクトにおいて空飛ぶクルマは、クライアント企業の新規事業戦略やインフラ投資の判断材料として登場することが多い。以下の4つの実務観点で位置づけを整理する。

論点設計(イシュー出し)

クライアント企業が、機体開発、運航サービス、離着陸場(バーティポート)整備、周辺インフラのいずれの領域で参入すべきかという論点設計から着手する。

自社の既存事業とのシナジーや保有技術との親和性を、MECE(漏れなく重複なく情報を整理する考え方)の観点で整理することが重要な論点となる。

現状分析(As-Is整理)

国土交通省・経済産業省による制度整備の進捗や、国内外の主要プレイヤーの参入状況を棚卸しする。自社が保有する航空機・自動車関連技術やインフラ資産が、空飛ぶクルマの事業機会にどう転用できるかを把握する作業も、この段階で行う。

施策設計(To-Be)

機体メーカーや自治体との連携による実証実験の対象地域・ユースケースを選定し、段階的な事業化ロードマップを設計する。自社単独での機体開発は投資負担が大きいため、海外機体メーカーへの出資や運航パートナーシップといった連携形態の検討も、この段階での重要な論点である。

資料作成(スライド構造)

経営層向け資料では、制度整備・機体認証・商用化それぞれの時期の見通しと、自社の投資タイミングを対応させたロードマップを一枚で示す構成が定番である。

あわせて、投資額に対して期待される事業機会と、商用化の遅延リスクを併記することで、投資判断がしやすい資料設計が求められる。

空飛ぶクルマ活用のメリットと注意点

空飛ぶクルマの最大のメリットは、滑走路を必要とせず垂直離着陸できる点にあり、都市部の渋滞回避や、離島・山間部における移動手段の確保、災害時の迅速な物資・人員輸送等、幅広い社会課題の解決策として期待されている。電動化によりヘリコプターと比べて運航・整備コストの低減が期待される点も、都市部での受容性を高める要素とされている。

ただし、現時点では機体開発や運航体制がまだ確立段階にあり、運航コスト自体は既存の航空機と比べて必ずしも低い水準にあるわけではない点には留意が必要である。

一方で、注意すべき点も多い。第一に、機体の安全性を担保する型式証明等の認証制度や、離着陸場の整備、運航ルールの策定が各国で発展途上にあり、日本政府が当初想定していた大阪・関西万博での商用化目標が2027〜28年頃へと後ろ倒しになった経緯が示すとおり、制度整備の遅れが事業化の不確実性につながっている。

第二に、バッテリー技術の制約から航続距離や搭載重量に限界があり、既存のヘリコプターや航空機をすべて代替できる段階には至っていない。

第三に、機体開発には巨額の投資が必要であり、単独での事業化が難しいことから、海外機体メーカーへの出資や運航パートナーシップを通じた参入が現実的な選択肢となっている。

実際に、国内では自動車メーカーが海外の機体メーカーへ出資し、量産技術の提供や日本国内での認証取得・インフラ整備を分担する形で参入するなど、単独開発にこだわらない連携型の事業モデルが広がりつつある。

導入コストの面では、機体そのものの開発費用に加え、離着陸場(バーティポート)の整備や、操縦者の養成・認証取得にも相応の投資が必要となる点を見込んでおく必要がある。

コンサル採用面接で問われる理由

空飛ぶクルマの技術的な仕組みそのものを面接官が詳細に問う場面は多くない。

ただし、モビリティ産業や新規事業戦略をテーマにしたケース面接では、制度整備が発展途上の新市場にどう向き合うべきかという論点が扱われることがあり、その際に「規制や認証制度の動向を踏まえながら段階的に投資判断を行う」という発想を持っているかどうかが、回答の説得力を左右する。

単に「新しい移動手段に投資すべき」と述べるだけでなく、制度整備の進捗と事業化タイミングを結びつけて語れると、議論に厚みが生まれる。

こうした視点を備えておくことは、ケース解答の質を底上げする一助になる。個別の機体仕様を暗記しておく必要はなく、規制動向を踏まえた新市場への向き合い方という発想の骨格を理解しておけば、面接の議論の中で自然に応用できるといえる。

FAQ

Q1. 空飛ぶクルマとは、どのような乗り物か。

空飛ぶクルマとは、垂直に離着陸できる次世代の空の移動手段の通称であり、その主流となる機体方式がeVTOL(電動垂直離着陸機)である。法令上の正式な分類名ではなく、道路走行機能を必ずしも持つわけではない点に注意が必要である。

電気モーターでローターを駆動し、滑走路を使わずに垂直離着陸できる点や、飛行時に機体から排出ガスを出さない点が特徴とされている。

Q2. 空飛ぶクルマとヘリコプター・ドローンは、何が違うのか。

最も大きな違いは、動力源と機体規模にある。ヘリコプターは内燃機関で駆動する有人航空機であり、整備・燃料コストが高い点で、電動化による運航・整備コストの低減が期待されるeVTOLと異なる。

ドローンは多くの場合、人を乗せない小型の無人機を指し、人を乗せて移動するeVTOLとは用途が異なる。この違いを理解しておくと、報道等での用語の混同を避けやすくなる。

Q3. 空飛ぶクルマの実用化は、どのように進められているのか。

実務における一般的な進め方は、まず機体メーカーが型式証明等の安全性認証を取得することから始まる。次に、自治体や事業者との連携により、限定的な地域・用途での実証実験(デモ飛行等)を重ね、運航ルールや離着陸場の整備を進める。

日本国内では、経済産業省・国土交通省による官民協議会がロードマップを策定し、SkyDrive等の国内機体メーカーに加え、ANAホールディングス(Joby Aviation)、日本航空(Volocopter)、丸紅(Vertical Aerospace)等の企業が、海外機体メーカーとの連携を通じて実用化を進めている。

Q4. コンサルティングの現場では、空飛ぶクルマはどのように扱われているのか。

コンサルティングプロジェクトでは、クライアント企業の新規事業戦略や次世代モビリティ分野への参入検討を支援する場面で、空飛ぶクルマの動向調査や事業機会の評価が扱われることが多い。

モビリティ・インフラコンサルティング領域では、実証実験の設計から、投資対効果(ROI)の試算、経営層への報告資料の作成までを一体で支援する役割を担う。自治体向けには、離着陸場整備や地域交通への活用可能性の検討という文脈で扱われることもある。

Q5. 空飛ぶクルマについて、よくある誤解は何か。

よくある誤解の一つは、「空飛ぶクルマ」という名称から、道路も飛行もできる乗り物だと考えてしまうことである。実際には、主流となるeVTOLの多くは道路走行機能を持たず、空中移動に特化した機体である。

もう一つの誤解は、機体さえ完成すればすぐに商用運航が始まるというものであるが、実際には安全性認証や運航ルールの整備が事業化の前提であり、日本国内でも当初の想定より商用化の時期が後ろ倒しになっている点にも注意が必要である。

まとめ(実務整理)

空飛ぶクルマは、垂直離着陸が可能な次世代の空の移動手段の通称であり、その主流となる機体方式がeVTOLである。2018年の官民協議会設置から、大阪・関西万博でのデモ飛行を経て、日本政府が2027〜28年頃の商用化を目標としている現在に至る経緯を理解しておくと、ヘリコプターやドローンとの違いも整理しやすくなる。経済産業省・国土交通省の制度整備とも重なりながら、次世代モビリティへの関心が高まってきた点に実務上の意義がある。

コンサルティング業務との関係でいえば、制度整備の進捗を踏まえながら新市場への参入タイミングを評価する視点が、モビリティ関連プロジェクトにおいて参考になる。採用面接との関係についても、機体の細部を暗記する必要はなく、規制動向を踏まえた新市場への向き合い方という発想の骨格を押さえておけば、十分な知識基盤となるだろう。

出典

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