ディープテック

ディープテックとは、飛躍的な科学的発見または工学的な技術革新を土台として、社会に大きなインパクトをもたらし得る事業に取り組むスタートアップ企業、またはその技術群を指す言葉である。

アプリやウェブサービスの改良だけでは、もはや世界の大きな課題は解決できないのではないか。核融合、量子コンピューティング、合成生物学――こうした分野に挑む起業家が近年目立って増えているのは、この問いへの一つの答えなのかもしれない。

ディープテック(Deep Tech)と呼ばれるこの潮流は、ソフトウェアを中心に急成長してきたこれまでのスタートアップ像とは一線を画す。研究開発に長い年月と巨額の資金を要し、事業化までの道のりも不確実性に満ちている。それでも投資家や政府が資金を投じ続けるのは、成功した際のインパクトが桁違いに大きいからにほかならない。

日本でも経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が1000億円規模の支援基金を設けるなど、国を挙げた後押しが本格化している。

新規事業開発やスタートアップ投資に関わるコンサルティング業務では、この言葉が指す範囲と、他のスタートアップ類型との違いを正確に押さえておきたい。

ディープテックとは

「ディープテック」という言葉を現在広く知られる意味で紹介したのは、米国でエンジェル投資プラットフォームを運営するPropel(x)の共同創業者兼CEOであるスワティ・チャトゥルベディ(Swati Chaturvedi)氏だとされる。2014年、同氏は「飛躍的な科学または工学に基づく企業(companies based on breakthrough science or engineering)」という説明を示し、これが現在も広く引用される定義として定着した。

特定の産業分野を指す言葉ではなく、あくまで技術系スタートアップの一つの類型を表す呼称として生まれた点に、まず注意しておきたい。言葉が広まるにつれ、定義には各機関・論者によって幅が出てきたが、おおむね共通して挙げられる特徴は次の三つに整理できる。

第一に、専門性の高い先端的な科学・工学知見に立脚していること。第二に、研究開発から事業化までに長い時間と多額の資金を要すること。第三に、不確実性は高いものの、実現すれば社会に及ぼす影響が大きいことである。

AI(生成AIを含む)、量子コンピューティング、核融合をはじめとする新エネルギー、宇宙関連技術、合成生物学等が、現時点で代表的な領域として挙げられることが多い。ただし、どこまでをディープテックに含めるかについて、確立した統一見解が存在するわけではない。

日本国内では、経済産業省が令和4年度第2次補正予算等により約1000億円規模の基金をNEDOに造成し、「ディープテック・スタートアップ支援事業」を展開している。

この事業は、研究開発に長期間と多額の資金を要するというディープテックの特性を踏まえ、実用化研究開発から量産化実証に至る複数の支援フェーズを組み合わせることで、公募区分に応じて最大6年間・30億円規模の補助(補助率最大3分の2以内)を行う枠組みである。

あわせてNEDOは、「ディープテック分野での人材発掘・起業家育成事業(NEP:NEDO Entrepreneurs Program)」を通じて、研究シーズを持つ人材の発掘・育成という、より上流の段階からの支援も行っている。

ディープテックの実務を語るうえで避けて通れないのが、TRL(Technology Readiness Level:技術成熟度レベル)という考え方である。

これは、基礎原理の確認段階から実用化・商用化までの技術の成熟度を段階的に評価する尺度であり、NASA(米国航空宇宙局)が宇宙開発分野で導入したことを起点に、その後さまざまな産業分野に広がった。

ディープテック企業は、TRLが低い段階、すなわち技術的な不確実性が最も高い時期から事業化に取り組む点で、既に実証済みの技術を組み合わせる一般的なスタートアップとは投資判断の難しさが根本的に異なる。

特徴 内容
技術的土台 飛躍的な科学的発見または工学的な技術革新に立脚している
開発期間・資金 事業化までに長期間かつ多額の研究開発資金を要する
不確実性とインパクト 技術的な実現可能性の不確実性は高いが、成功時の社会的影響は大きい

具体例/ミニケース

大学発の研究シーズを事業化しようとしているC社を例に見てみよう。C社は、特殊な触媒技術を応用し、従来よりも低コストで水素を製造するプロセスの研究開発を進めていた。

技術の原理検証(プルーフ・オブ・コンセプト)は大学の研究室で完了していたものの、実際に量産設備で再現し、コスト競争力のある形で市場投入するまでには、さらに数年の実証実験と巨額の設備投資が見込まれた。

一般的なベンチャーキャピタルの多くは、投資回収までの期間が長く技術的な不確実性も高いこの段階での出資に慎重だった。そこでC社は、NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業に応募し、量産化実証段階での補助金を獲得した。

公的資金による下支えを得たことで、C社は民間投資家に対しても「技術リスクの一部が国の審査を経て一定程度検証されている」という説得材料を持てるようになり、その後の資金調達を円滑に進めることができた。

この事例が示すのは、ディープテックの事業化には、民間資金だけでなく公的支援を組み合わせた資金調達戦略が実務上重要な役割を果たすという点である。

スタートアップ・ベンチャー企業との違い

ディープテックは、起業や新規事業に関わる他の呼称としばしば同じ意味で使われてしまう。しかし「事業を新しく興す」という共通点はあっても、事業の性質は大きく異なる。

類型 事業の起点 事業化までの期間・資金
ディープテック 飛躍的な科学的発見・工学的技術革新 長期間・多額(研究開発フェーズが長い)
一般的なITスタートアップ 既存技術を組み合わせたビジネスモデルの革新 比較的短期間・少額から開始しやすい
大学発ベンチャー 大学等の研究成果 ディープテックと重なる場合が多いが、必ずしも先端科学に限らない

コンサルティング業務での位置づけ

論点設計(イシュー出し)

スタートアップ支援や新規事業開発のプロジェクトでは、対象となる技術シーズがディープテックに該当するのか、それとも既存技術の応用にとどまるのかという切り分けが、そもそもの論点整理の出発点になる。コンサルタントは、技術的な独自性と事業化までの時間軸を踏まえ、必要となる資金調達戦略の方向性を見極める役割を担う。

現状分析(As-Is整理)

現状分析のフェーズでは、対象技術の研究開発の進捗段階(基礎研究、原理検証、実証実験、量産化のいずれの段階にあるか)を整理し、既に活用可能な公的支援制度や、競合技術の開発状況を棚卸しする。特許や論文等の知的財産の状況を確認する作業もあわせて行われる。

施策設計(To-Be)

施策設計の段階では、公的補助金の活用可否、事業会社との共同研究の可能性、段階に応じた資金調達手段(エクイティ、デット、補助金の組み合わせ)を整理し、事業化までのロードマップを描く。研究開発リスクをどう分散させるかという論点も、この段階で扱われることが多い。

資料作成(スライド構造)

経営層や投資委員会向け資料では、技術の優位性を示す説明と、事業化までの各段階(TRL:Technology Readiness Level、技術成熟度レベル)を示すロードマップをセットで提示する構成が定番である。技術面と事業面の両方の進捗を一枚で確認できる構造にすることで、投資判断がしやすくなる。

導入メリットと注意点

ディープテックに取り組むことの魅力は、成功した場合に既存産業の構造そのものを塗り替えるほどのインパクトを持ちうる点にある。既存の枠組みでは解決が難しかった社会課題に対し、根本的な技術的ブレークスルーによって答えを出せる可能性を秘めている。

一方で、注意すべき点も多い。研究開発から収益化までの期間が長期にわたるため、一般的なベンチャーキャピタルの投資回収サイクルとは相性が悪い場合がある。技術的な実現可能性自体が不確実であり、想定通りに開発が進まないリスクも小さくない。

さらに、量産化や規制対応など、研究段階では見えにくかった課題が事業化の過程で新たに浮上することも珍しくない。こうした事情を踏まえ、実務では、公的支援制度の活用や、事業会社との連携によってリスクとコストを分散させながら、段階を追って進める姿勢が重視されている。

コンサル採用面接で問われる理由

コンサルティングファームの採用面接で、ディープテックという言葉そのものがそのまま問われることは少ない。ただし、テクノロジー産業や政府の産業政策をテーマにしたケース面接では、技術的な不確実性と事業性をどう両立させるかという論点が扱われることがあり、その際に「研究開発の時間軸と資金調達の設計は不可分である」という発想を持っているかどうかが、回答の説得力を左右する。

単に「先端技術を使っている」という表面的な理解ではなく、事業化までの時間軸やリスク構造まで踏み込んで語れると、議論に厚みが生まれる。こうした視点を持っておくことは、ケース解答の質を底上げする一助になる。ディープテックに含まれる個別技術分野の詳細まで暗記しておく必要はなく、研究開発の不確実性とインパクトの大きさをどう天秤にかけるかという考え方を押さえておけば、面接の際も活用できる。

よくある質問(FAQ)

Q1. ディープテックとは、どのような意味の言葉か。

ディープテックとは、飛躍的な科学的発見または工学的な技術革新を土台として、社会に大きなインパクトをもたらし得る事業に取り組むスタートアップ企業、またはその技術群を指す言葉である。

英語表記はDeep Techであり、2014年に米国のエンジェル投資プラットフォームPropel(x)の共同創業者兼CEOであるスワティ・チャトゥルベディ氏が「飛躍的な科学または工学に基づく企業」として紹介し、現在も広く引用される定義となっている。日本では経済産業省とNEDOが約1000億円規模の支援基金を設け、国を挙げた育成が進められている。

Q2. ディープテックと一般的なITスタートアップとは、何が違うのか。

最も大きな違いは、事業の起点と事業化までにかかる時間・資金の規模にある。一般的なITスタートアップは、既存技術を組み合わせたビジネスモデルの革新によって比較的短期間・少額から事業を立ち上げやすい。

これに対しディープテックは、飛躍的な科学的発見や工学的な技術革新そのものが事業の起点であり、研究開発から事業化に至るまでに長い年月と多額の資金を要する。大学発ベンチャーはディープテックと重なる場合が多いが、必ずしも先端科学に立脚するとは限らない点で区別される。

Q3. ディープテック企業は、どのような手順で事業化を進めるのか。

実務における一般的な流れは、まず大学や研究機関での基礎研究や原理検証(プルーフ・オブ・コンセプト)から始まる。次に、実証実験を通じて技術の再現性や量産可能性を検証し、必要に応じて公的な補助金制度や事業会社との共同研究を活用しながら、量産化に向けた設備投資等を進める。研究開発の各段階に応じて、エクイティ・デット・補助金といった複数の資金調達手段を組み合わせていくのが一般的である。

Q4. コンサルティングプロジェクトでは、ディープテックはどのように扱われているのか。

コンサルティングの現場では、ディープテック・スタートアップの資金調達戦略の立案や、公的支援制度の活用可能性の整理を支援する場面でこの領域が扱われる。

また、事業会社側の立場からは、社外の技術シーズとの提携やオープンイノベーションを検討する際に、対象技術の事業化フェーズや技術リスクを評価する役割を担うこともある。

Q5. ディープテックについて、どのような誤解が生じやすいのか。

よくある誤解の一つは、最先端の技術さえ使っていればディープテックに該当すると考えてしまうことである。実際には、単なる既存技術の応用ではなく、飛躍的な科学的発見や工学的な技術革新に立脚しているかどうかが判断の軸となる。

もう一つの誤解は、ディープテックは大企業や研究機関だけが手掛けるものだと考えてしまうことであり、実際には大学発の少人数のチームが、公的支援制度を活用しながら事業化に挑む例も少なくない。

Q6. ディープテックへの投資は、今後どのように広がっていく可能性があるのか。

経済産業省とNEDOによる支援事業は、公募を通じて継続的にディープテック・スタートアップへの補助を行っており、採択実績も積み上がってきている。研究開発の不確実性という壁がある以上、民間投資だけに依存しない資金供給の枠組みは今後も重要性を増すと見込まれる。

あわせて、事業会社によるオープンイノベーションや、海外の研究開発・イノベーション支援機関との連携を通じた国際共同研究の動きも広がっており、資金調達の手段自体が多様化していく方向にあると考えられる。

まとめ(実務整理)

ディープテックは、飛躍的な科学的発見または工学的な技術革新を土台として、社会に大きなインパクトをもたらし得る事業に取り組むスタートアップ企業、またはその技術群を指す言葉である。

2014年にスワティ・チャトゥルベディ氏が提唱して以降、量子コンピューティングや核融合、合成生物学等の分野を中心に世界的な広がりを見せ、日本でも経済産業省とNEDOによる大規模な支援基金が整備されている。一般的なITスタートアップとは、事業の起点や事業化までの時間軸という点で性質が異なる。

コンサルティング業務との関係でいえば、研究開発の時間軸とリスク構造を踏まえた資金調達戦略の設計という視点が、テクノロジー関連プロジェクトにおいて参考になる。

採用面接との関係でいえば、個別技術分野の詳細を暗記する必要はなく、不確実性とインパクトの大きさをどう天秤にかけるかという考え方を理解しておけば、十分な知識基盤となる。

出典

用語集一覧へ戻る 【転職無料相談】キャリア設計や転職にご関心をお持ちの方は、
こちらよりお問い合わせください
求人を探す
Job Search
  • 条件から探す
  • カテゴリから探す
業界・職種
条件
ポジション
英語力
年収
こだわり条件