レグテック(RegTech)

レグテック(RegTech:Regulation×Technologyの造語)とは、AIやビッグデータなどの技術を活用し、複雑化する規制対応やコンプライアンス業務を効率化・高度化する取り組みの総称である。

金融規制が年々複雑化・高度化する中、企業はどのようにコンプライアンス対応のコストと質を両立させるべきか。この問いに対する一つの答えとして広がってきたのが、レグテック(RegTech)である。

英国の金融規制当局FCA(Financial Conduct Authority:金融行為監督機構)は2015年前半からRegTechに関する検討を進め、同年11月には関連する意見募集を実施した。その後、AI・ビッグデータ分析・APIなどのデジタル技術を活用して規制対応やリスク管理を効率化する取り組みとして各国に広がった。日本でも経済産業省や金融庁が2010年代後半からRegTech・SupTechの活用やエコシステムの構築について検討を進めてきており、金融機関のリスク管理・M&Aプロジェクトを扱うコンサルタントにとっても押さえておきたい概念である。

レグテックとは

「レグテック」という語は、Regulation(規制)とTechnology(技術)を組み合わせた造語であり、日本語ではそのまま「レグテック」と表記される。英国の金融規制当局FCAは2015年前半からRegTechに関する検討を進め、同年11月には関連する意見募集(Call for Input)を実施した。その後、2016年7月に公表したフィードバック文書(Feedback Statement FS16/4)において、レグテックを「FinTechの一領域であり、既存の機能よりも効率的・効果的に規制要件への対応を実現する技術に焦点を当てたもの」と定義している。

レグテックは、次の3つの特徴を備える取り組みとして整理できる。第一に、AI・機械学習、ビッグデータ分析、API連携など、さまざまなデジタル技術を活用し、既存の方法よりも効率的・効果的に規制要件へ対応することを目指すこと(活用する技術は特定のものに限定されない)。第二に、マネーロンダリング対策や本人確認(KYC:Know Your Customer)、市場監視など、複雑化・高度化する規制対応を主な適用領域とすること。第三に、規制対応のコスト削減や質の向上だけでなく、規制当局への報告プロセスの自動化・効率化にもつながること、である。

レグテックと類似する概念として、規制当局側が監督業務にテクノロジーを活用する「SupTech(Supervisory Technology:スプテック)」がある。レグテックが規制を受ける側(金融機関等)の取り組みであるのに対し、SupTechは規制する側(金融当局)の取り組みであるという違いがある。両者は、被規制事業者側と規制当局側という異なる主体によるテクノロジー活用として、あわせて論じられることが多い。

日本国内では、経済産業省が2018年度に「RegTech/SupTechに係る今後の在り方に関する検討会」を開催し、2019年3月にレグテック等の導入に向けたロードマップの基本枠組みを策定した。また金融庁は、平成30事務年度の金融行政方針において、金融機関と金融庁双方にメリットのある「いわゆるRegTechエコシステム」の将来的な構築を模索する方針を示した。日本でも、経済産業省や金融庁が2010年代後半からRegTech・SupTechの活用やエコシステムの構築について検討を進めてきた経緯がある。

レグテックの境界条件として、単にITシステムを導入すること自体がレグテックを意味するわけではない点が挙げられる。したがって、単に既存業務を電子化することと、レグテックとして語られる取り組みには一定の違いがある。ただし、レグテックかどうかは特定の技術を使っているかだけで決まるものではなく、規制要件への対応をどのように効率化・高度化するかという目的や機能面から捉えることが重要である。

レグテックの主な適用領域

領域 主な技術 目的
マネーロンダリング対策(AML) AI・機械学習によるパターン分析 疑わしい取引の検知精度向上と誤検知の削減
本人確認・顧客管理(KYC) 生体認証・OCR・AI・データ照合 顧客の本人確認や顧客情報の確認・管理の効率化
市場監視 AI・ビッグデータ分析 不公正取引の兆候の早期検知
規制報告 API連携・自動化ツール 当局への報告業務の自動化・迅速化
規制対応に関連するリスク管理 ビッグデータ分析・シミュレーション 信用リスク・市場リスクの可視化と管理の高度化

具体例・ミニケース

ある地方銀行が、マネーロンダリング対策の高度化を検討した架空のミニケースで考える。同行では、疑わしい取引の検知を担当者の目視確認とルールベースのシステムに依存しており、取引量の増加に伴って確認作業の負荷が増大し、誤検知(実際には問題のない取引を疑わしいと判定してしまうこと)も多く発生していた。

そこで同行は、AIを活用したレグテックサービスを導入し、過去の取引データを学習させることで、疑わしい取引のパターンをより精緻に検知できる体制を構築した。導入後、検証の結果、誤検知の件数が減少し、担当者は本当に確認が必要な取引の調査に注力できるようになった。あわせて、当局への報告業務についても、システムが自動的に必要な情報を整理する仕組みを導入し、報告作業にかかる時間を短縮した。

導入にあたっては、AIの判定結果をそのまま採用するのではなく、一定期間は従来の目視確認と並行稼働させ、AIの判定精度を検証する期間を設けた。また、当局からの照会があった際に判定根拠をさかのぼって説明できるよう、判定過程を確認できる仕組みも整備した。

このミニケースが示すとおり、レグテックの導入は、単なるコスト削減にとどまらず、規制対応の精度そのものを高め、担当者がより付加価値の高い業務に注力できる体制づくりにつながる可能性がある。

FinTech・SupTechとの違い

レグテックは、金融とテクノロジーを組み合わせたFinTech(Financial Technology:フィンテック)全般や、規制当局側の取り組みであるSupTechとも異なる特徴を持つ。いずれもテクノロジーを金融分野に応用する点は共通するが、目的や主体が異なる。

概念 主な担い手 主な目的
FinTech 金融機関・フィンテック企業 金融サービス・金融業務へのテクノロジー活用全般
レグテック(RegTech) 金融機関・規制対象企業 規制対応・コンプライアンスコストの削減、対応品質の向上
SupTech 金融規制当局 監督・検査業務の効率化・高度化

レグテックはFinTechの一領域として位置づけられることが多く、FCAもレグテックを「FinTechの一領域」と定義している。一方、SupTechはレグテックと表裏の関係にあり、規制される側がレグテックを、規制する側がSupTechを活用することで、双方にとって効率的な規制対応・監督の実現が目指されている。

コンサルティング業務における位置づけ

論点設計(イシュー出し)

金融機関のリスク管理態勢強化やコンプライアンス体制の見直しを支援するプロジェクトでは、既存の規制対応業務のうち、どの領域にレグテックを導入する余地があるかが論点として設定されることがある。あわせて、対象業務を自社開発するか外部ベンダーのサービスを活用するかも、初期の論点整理に含まれる。

現状分析(As-Is整理)

既存のコンプライアンス業務の人員配置や処理時間、誤検知率などを整理し、AI等の技術で効率化・高度化できる余地があるかを分析する。あわせて、国内外の同業他社におけるレグテック導入事例を確認することも、現状分析の一環となる。

施策設計(To-Be)

現状分析を踏まえ、導入対象とする業務領域の優先順位づけや、既存システムとの連携方法、ベンダー選定の方針を設計する。規制当局とのコミュニケーションや、導入後のモニタリング体制の整備も、設計上の論点となる。

資料作成(スライド構造)

経営層向けの提案資料では、既存の規制対応業務のフローと、レグテック導入後のフローを対比させ、削減できる工数や精度向上の効果を可視化する構成が用いられることがある。あわせて、導入候補となるツールの機能比較や、投資対効果の試算を整理したスライドも作成されることが多い。

レグテック導入のメリットと注意点

メリット

レグテックの導入により、規制対応にかかる人的リソースや時間のコストを削減できる可能性がある。また、AIによるデータ分析を活用することで、目視確認では見落としがちな異常なパターンを検知しやすくなり、規制対応の精度向上にもつながる面がある。

注意点

一方で、レグテックの導入には、既存システムとの連携や、AIの判定結果を検証する体制の構築など、一定の準備が必要である。また、AIを規制対応に活用する場合には、判定結果を検証できる体制や、必要に応じてその判断過程を説明できる仕組みを検討することも重要である。AIの判定基準がブラックボックス化すると、規制当局への説明責任を果たしにくくなる可能性もある。導入初期には、既存の人員による確認作業と並行稼働させ、精度を検証する期間を設けることも実務上のポイントとなる。

コンサル採用面接で問われる理由

面接官がレグテックという用語の定義そのものを厳密に問う場面は多くない。むしろ、金融機関のリスク管理やコンプライアンスを扱うケースにおいて、規制対応の効率化と精度向上をどう両立させるかという視点が、回答の厚みに影響する場面がある。

テクノロジーの活用が規制対応のコスト構造や品質にどう影響するかを理解しておくと、金融機関のケースでの論理展開に説得力が生まれる。用語そのものを厳密に説明できることが求められる場面は多くなく、規制対応を効率化と精度向上の両面から捉える考え方の骨格をおさえておけば十分な知識基盤となる。

FAQ

Q1. レグテックとは何か。

レグテックとは、Regulation(規制)とTechnology(技術)を組み合わせた造語であり、AIやビッグデータ分析などの技術を活用して、複雑化する規制対応やコンプライアンス業務を効率化・高度化する取り組みを指す。

英国の金融規制当局FCA(Financial Conduct Authority)は、レグテックを「FinTechの一領域であり、既存の機能よりも効率的・効果的に規制要件への対応を実現する技術に焦点を当てたもの」と定義している。マネーロンダリング対策や本人確認、市場監視、規制報告など、金融分野を中心に活用が広がっている。

Q2. FinTechやSupTechとの違いは何か。

最大の違いは、目的と主体にある。FinTechは、金融サービスの革新や利便性向上を目的として、金融機関やフィンテック企業が主体となって取り組む概念である。レグテックは、そのFinTechの一領域として位置づけられ、規制対象となる金融機関等が、規制対応・コンプライアンスコストの削減や対応品質の向上を目的として取り組むものである。

これに対しSupTechは、規制当局が監督・検査業務の効率化のために活用する技術を指し、規制される側のレグテックとは主体が異なる。両者は表裏の関係にあり、あわせて論じられることが多い。

Q3. レグテックはどのように活用されるのか。

レグテックは、マネーロンダリング対策、本人確認(KYC)、市場監視、規制報告、リスク管理といった複数の領域で活用される。

マネーロンダリング対策では、AI・機械学習を用いて取引データのパターンを分析し、疑わしい取引の検知精度を高めるツールが用いられる。本人確認では、生体認証やOCR、AIによるデータ照合を活用し、顧客の本人確認や顧客情報の管理を効率化する。規制報告では、API連携や自動化ツールを用いて、当局への報告業務を迅速化する取り組みが進められている。

Q4. コンサルティング業務ではどのように活用されるのか。

金融機関のリスク管理態勢強化やコンプライアンス体制の見直しを支援するコンサルティングファームは、既存業務の現状分析からレグテックツールの選定支援、導入後の効果検証まで、一連のプロセスに関わることがある。

具体的には、業務フローの可視化、導入対象領域の優先順位づけ、ベンダー選定の支援、規制当局とのコミュニケーション支援などが挙げられる。金融規制が継続的に見直される中、レグテックの活用は、コンプライアンス関連プロジェクトの一領域として扱われる場面が増えている。

Q5. レグテックについてよくある誤解は何か。

代表的な誤解は、レグテックを導入すればコンプライアンス業務を完全に自動化でき、人による確認が不要になると考えるものである。実際には、AIの判定結果を人が検証する体制や、判定根拠を規制当局に説明できる仕組みが必要であり、完全な自動化を意味するものではない。

また、レグテックをFinTechと同一視する誤解も見られるが、FinTechが金融サービスの革新を目的とするのに対し、レグテックは規制対応・コンプライアンスに焦点を当てた取り組みである点で異なる。

さらに、レグテックを金融機関だけの取り組みと捉える誤解もあるが、規制対応が必要な業種であれば、金融以外の分野でも同様の考え方が応用され得る。

まとめ(実務整理)

レグテックは、AIやビッグデータなどの技術を活用し、複雑化する規制対応やコンプライアンス業務を効率化・高度化する取り組みの総称である。英国のFCAが2015年前半から検討を進めてきた概念であり、FinTechの一領域として位置づけられる一方、規制当局側の取り組みであるSupTechとは主体が異なる点を理解しておくと、実務の参考になる。レグテックかどうかは特定の技術を使っているかだけで決まるものではなく、既存の方法より規制要件への対応を効率化・高度化できるかという目的・機能面から捉える点も、あわせておさえておきたいポイントである。

コンサルティング業務との関わりでいえば、金融機関のリスク管理やコンプライアンス体制の見直しを扱うプロジェクトにおいて、業務フローの分析からツール選定まで、複数の局面でレグテックの考え方が登場する場面があることを理解しておくとよい。

採用面接との関係でいえば、用語そのものを厳密に説明できることが求められる場面は多くなく、規制対応を効率化と精度向上の両面から捉える考え方の骨格をおさえておけば十分な知識基盤となる。

出典

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