チップレット技術
半導体の性能向上を、これまでのように微細化だけに頼り続けることは可能なのだろうか。先端プロセスの開発コストが高騰し、大規模なダイほど製造欠陥の影響を受けやすくなる中、業界が新たな解として注目しているのがチップレット技術(Chiplet Technology)である。
機能ごとに分割した小さなチップを組み合わせることで、開発期間の短縮やコスト最適化につながる可能性があるこの手法は、半導体の設計思想そのものを変えつつある。コンサルティング業界においても、半導体・電子部品クライアントの事業戦略や工程再編、投資判断を議論する際に頻出する重要用語となっている。
チップレット技術とは|モノリシックIC・後工程パッケージングとの関係で理解する定義
チップレット(Chiplet)という語は、Chip(チップ)にlet(小さなもの)という接尾辞を組み合わせた造語であり、「小さなチップ」を意味する。
従来の半導体設計では、CPUやGPUなどの機能をすべて1枚のシリコン基板(ダイ:Die、ウェハー上に形成された回路単位がダイシング工程で切り出され、個片化された半導体チップ本体)に集積するモノリシック(Monolithic:単一構造)方式が主流であった。
これに対しチップレット技術は、演算コア、入出力(I/O)、メモリコントローラーなどの機能ブロックを複数の小さなダイに分割して個別に製造し、それらを高度な後工程(前工程で形成した回路パターンを最終製品として組み立てる工程)のパッケージング技術によって1つのパッケージ内に統合する手法を指す。
この手法が成立するための条件は主に2つある。
第一に、ダイ同士を電気的に接続する高速インターコネクト(ダイ間の信号伝送を担う接続構造)が確保されていること。
第二に、複数のダイを機能単位で分割・設計し、相互に接続できるインターフェースが用意されていることである。
異なる企業・異なる製造プロセスのダイを組み合わせる場合には、UCIeのような標準化された接続規格が重要となる。なお、すべてのチップレット構成がUCIeに準拠しているわけではなく、AMDのようにInfinity Fabricなど自社独自のインターコネクト技術を用いる例も存在する。
こうしたマルチベンダーでのチップレット活用を後押しする代表的な業界規格が、2022年3月にIntel・AMD・Arm・TSMC・Samsung Electronics・Qualcomm・Google Cloud・Microsoft・Meta・ASE(Advanced Semiconductor Engineering:台湾の半導体後工程受託大手、OSATと呼ばれる後工程専門企業の一つ)の10社が発起人となって設立したUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express:チップレット間の相互接続を標準化するオープン規格)である。同年8月にはAlibabaとNVIDIAもボードメンバーとして参画している。
なお、複数のチップを1つのパッケージに収める実装自体は、MCP(Multi-Chip Package:マルチチップパッケージ)として30年以上前から存在する古い技術である。MCPは複数のチップを1つのパッケージに統合する広い実装概念であるのに対し、チップレット技術では、機能単位に分割したダイを組み合わせるモジュール型の設計思想が重視される。
特に、ダイ間を高帯域・低遅延で接続し、異なるプロセスやベンダーのダイを組み合わせる構成では、UCIeなどの標準規格が重要となる。単に複数のチップを1つの基板上に近接配置しただけの実装は、厳密な意味でのチップレットとは呼ばれない点に留意が必要である。
また、業界内では「チップレット」という語が、分割された個々の小さなチップそのものを指す場合と、それらを組み合わせる設計手法・アーキテクチャ全体を指す場合の両方で使われており、業界全体で完全に統一された定義があるわけではない点にも注意したい。厳密に手法を指す場合には、チップレット・アーキテクチャやチップレット・アプローチという表現が使われることもある。
チップレット技術を構成する主要要素(構造図表)
チップレット技術は単一の技術ではなく、複数の要素技術の組み合わせで成立している。主要な構成要素を整理すると、以下のとおりである。
| 構成要素 | 役割 | 代表技術・規格の例 |
|---|---|---|
| ダイ(チップレット) | 演算コア・I/O・メモリ制御など機能単位の個片 | AMDのCCD(コアダイ)・IOD(I/Oダイ)等 |
| インターポーザ | 複数のダイを高密度に接続する中継基板・中継層 | TSMC CoWoS、シリコンインターポーザ |
| インターコネクト技術・規格 | ダイ間の接続仕様(信号・配線密度)を定義 | UCIe(オープン規格)、AMD Infinity Fabric(AMD独自のインターコネクト・アーキテクチャ) |
| パッケージング方式 | ダイの実装形態(平面配置か積層か) | Intel Foveros(3次元実装)、EMIB(2.5次元実装) |
パッケージング方式には、複数のダイを平面的に高密度接続する2.5次元実装や、ダイを垂直方向に積層する3次元実装などがあり、TSV(Through-Silicon Via:シリコン貫通電極、ダイを貫通させて上下のダイを電気的に接続する技術)やハイブリッドボンディングなど複数の接続技術が用いられる。
複数の異なる機能・プロセス世代のダイを1つのパッケージに統合する取り組みは、異種集積(ヘテロジニアスインテグレーション)とも呼ばれ、チップレット技術の中核をなす考え方である。
チップレット技術の具体例
チップレット技術を語るうえで欠かせないのが、AMDが2019年に投入した第3世代Ryzen(開発コード名Matisse、Zen 2アーキテクチャ)である。
AMDはTSMCの7nmプロセスで製造した演算コア用ダイと、より成熟したプロセスで製造したI/Oダイを組み合わせるチップレット構成を採用し、同年8月には同アーキテクチャを用いたサーバー向けCPU「EPYC(開発コード名Rome)」も投入した。演算に必要な部分のみを最先端プロセスで製造し、性能要求の低いI/O部分は枯れた(信頼性の高い)旧プロセスで製造することで、コストと歩留まりの両立を図った代表例とされる。
一方Intelは、2021年に発表した「Ponte Vecchio」において、1つのパッケージに47個のタイル(tiles:Intelが自社製品で用いる呼称で、チップレットに近い概念だが同社は両者を区別して用いている)を統合したデータセンター向けGPUを発表し、Foveros(3次元積層パッケージング技術)やEMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge:ダイ間を橋渡しする埋め込み型配線技術)といった独自の後工程技術を組み合わせている。
コンサルティングの現場では、こうした技術動向を踏まえ、半導体製造装置メーカーや材料メーカーに対して「どの後工程技術領域に投資すべきか」「垂直統合型の自社生産体制と、水平分業でのチップレット外部調達のどちらを選ぶべきか」といった論点を検討することがある。
日本企業にとっても、チップレット技術の普及は事業機会と位置づけられている。前工程の微細化競争では上位ファウンドリへの集中が進んだ一方、チップレットを支える後工程・パッケージング分野では、実装材料や製造装置など、先端パッケージングに関連する領域で日本企業が技術基盤を持つ分野もある。
経済産業省は半導体戦略の中で、先端パッケージ技術への投資支援を重点施策の一つに位置づけており、後工程領域における国内企業の競争力強化が政策的にも後押しされている。こうした背景から、半導体商社や製造装置メーカーに対するコンサルティングでは、前工程だけでなく後工程・パッケージング領域への投資配分をどう見直すかが、実務上の重要な論点として扱われることが多い。
モノリシックIC・MCP・チップレット技術の違い(比較表)
「複数チップの統合」という点で混同されやすいモノリシックIC、MCP、チップレット技術の違いを整理する。
| 項目 | モノリシックIC | MCP(マルチチップパッケージ) | チップレット技術 |
|---|---|---|---|
| 定義 | 全機能を1枚のダイに集積 | 複数のチップ/ダイを1つのパッケージに統合 | 機能単位で分割・標準規格で再構成可能 |
| 歩留まり特性 | ダイが大きいほど欠陥の影響が大きい | チップ単位のため比較的良好 | 小面積ダイに分割することで、歩留まりを改善できる可能性がある |
| 製造プロセスの柔軟性 | 単一プロセスノードに限定 | プロセス混在は可能だが再利用性は低い | 機能ごとに最適なプロセスを選択可能 |
| 代表例 | 従来型SoC(System on Chip) | 1990年代以降の複合実装製品 | AMD Ryzen 3000、Intel Ponte Vecchio |
コンサルティング業務における位置づけ
論点設計(イシュー出し)
半導体・エレクトロニクス業界のプロジェクトでは、「自社はチップレット化にどこまで対応すべきか」「後工程を内製すべきか外部OSATに委託すべきか」といった論点が典型的に立ち上がる。チップレット技術の理解は、こうした論点をモノリシック設計との比較軸で構造化するための前提知識となる。
現状分析(As-Is整理)
現状分析フェーズでは、対象企業の製品ロードマップにおけるダイサイズ、歩留まり実績、後工程の外部委託比率などを整理し、モノリシック方式のまま設計を続けた場合のコスト・性能上の限界を可視化する。UCIeなど業界標準規格への対応状況も、競合比較の重要な評価軸となる。
施策設計(To-Be)
施策設計では、チップレット化によるコスト構造・開発リードタイムへの影響を定量的に試算し、パッケージング技術(2.5次元・3次元実装)への投資計画や、標準規格への準拠方針を提言する。異種集積を前提とした事業ポートフォリオの再編を提案するケースもある。
資料作成(スライド構造)
資料作成では、モノリシック方式とチップレット方式の比較表、後工程を含めたバリューチェーン図、投資対効果の試算グラフといったスライドを組み合わせ、経営層が意思決定しやすい構成に落とし込むことが求められる。
チップレット技術導入のメリットと注意点
- 小面積ダイの組み合わせにより、大規模ダイに比べて製造欠陥の影響を抑え、歩留まりを高めやすい。
- 機能ごとに最適な製造プロセスを選択できるため、開発コストと性能のバランスを最適化しやすい。
- 共通化したチップレットを複数製品で再利用できれば、開発期間の短縮につながる。
一方で、注意すべき点も存在する。
- ダイ間インターコネクトの設計・検証が新たな技術課題となり、後工程の複雑性が増す。
- 異なる製造元のダイを組み合わせる場合、UCIeのような標準規格への準拠状況を精査する必要がある。
- パッケージング工程の歩留まりや放熱設計など、モノリシック方式にはなかった新たな品質管理項目が発生する。
コンサル採用面接で問われる理由
半導体業界を志望するケースやポジションにおいて、面接官がチップレット技術という用語そのものを直接、ダイレクトに問うことは多くない。むしろ、この構造を内面化した思考はケース解答の質を高める、という位置づけで理解しておくとよい。
チップレット技術は、「大きな課題を機能単位に分解し、それぞれ最適な手段で解決したうえで統合する」という発想そのものが、ケース面接における問題分解のアプローチと重なる部分がある。
半導体クライアントのケースが出題された際、モノリシックとチップレットという対比構造を知っていると、論点整理や比較軸の提示に説得力が生まれやすい。
とはいえ、フレームワーク名や技術仕様を暗記して面接で口にする必要があるわけではない。概要と考え方の骨格をおさえておけば十分な知識基盤となる、という程度の位置づけで捉えておくことが望ましい。
FAQ
Q1. チップレット技術とはどのような技術か。
チップレット技術とは、機能ごとに分割した複数の小さな半導体ダイを、標準化された接続規格と先端パッケージング技術によって1つのパッケージ内で統合し、単一の大規模半導体として機能させる設計・実装手法である。
従来のモノリシック方式では全機能を1枚のダイに集積していたが、チップレット技術では演算・I/O・メモリ制御といった機能単位でダイを分割し、それぞれに適したプロセスノードで製造できる点が特徴である。半導体の微細化が物理的・経済的な限界に近づく中、性能とコストを両立させる代替アプローチとして注目されている。
Q2. チップレット技術とMCP(マルチチップパッケージ)はどう違うのか。
MCPは複数のチップを1つのパッケージに収める古くからある実装手法であり、必ずしも機能単位での分割や標準規格への準拠を前提としない。
これに対しチップレット技術は、機能単位に分割したダイをモジュールとして組み合わせる設計思想を重視する点が異なる。異なる製造プロセスや、場合によっては異なる企業が製造したダイを組み合わせやすくなる点も、チップレット技術の重要な特徴である。
Q3. チップレット技術はどのような手順・工程で活用されるのか。
チップレット技術の活用は、機能ブロックの分割設計、各ダイの製造プロセス選定、インターコネクト規格の選定、パッケージング方式(2.5次元・3次元実装)の決定、後工程での組立・検査という流れで進む。
関連する具体的な要素技術としては、ダイ間を中継するインターポーザ、シリコン貫通電極(TSV)を用いた積層技術、UCIeやAMD Infinity Fabricといった接続規格が挙げられる。工程が細分化される分、設計から実装までの各段階で異なる専門技術が必要になる点が特徴である。
Q4. コンサルティング業務においてチップレット技術はどのように活用されるのか。
コンサルティングの現場では、半導体メーカーや製造装置・材料メーカーに対する事業戦略立案の文脈でチップレット技術の理解が活用される。具体的には、後工程への投資判断、内製と外部OSAT委託の選択、UCIeなど標準規格への対応方針の検討、異種集積を前提とした製品ポートフォリオの再編提案などである。技術動向を踏まえたバリューチェーン全体の再設計を支援する際の前提知識として位置づけられている。
Q5. チップレット技術についてよくある誤解は何か。
よくある誤解の一つは、複数のチップを1つのパッケージに搭載していれば、それがすべてチップレット技術に該当するという理解である。実際には、機能単位での分割設計と、標準化された接続規格による相互運用性の確保が伴わなければ、単なるMCP(マルチチップパッケージ)にとどまる。
また、チップレット技術を導入すれば必ず開発コストが下がるという理解も誤解であり、インターコネクトの設計・検証や後工程の複雑化により、新たなコスト要因が発生する点にも留意する必要がある。
まとめ(実務整理)
チップレット技術は、機能ごとに分割した小さなダイを、必要に応じてUCIeなどの標準規格も活用しながら統合することで、モノリシック方式が抱える歩留まりやコストの課題に対応しうる設計・実装手法である。
AMDやIntelの製品事例、UCIeという業界標準の成立過程を理解しておくことは、半導体業界クライアントの事業戦略を議論するうえで参考になる知識と言える。
コンサルティング業務においては、論点設計から資料作成まで一貫してこの技術動向を踏まえた提言が求められる場面があり、理解しておくとよいテーマの一つである。
採用面接との関係についても、フレームワークとして丸暗記する必要はなく、ベーシックな知識として概要をおさえておけば十分な知識基盤となる。
出典
-
経済産業省「半導体・デジタル産業戦略の現状と今後」(資料3、令和6年5月31日)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/0011/handeji_reviesd.pdf -
UCIe Consortium公式サイト
https://www.uciexpress.org/ -
日経クロステック「半導体製造の新しい競争領域『チップレット』、日本企業に追い風」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/08624/
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