ESG

ESGとは、企業や投資家が意思決定を行う際に、財務情報だけでなく環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)という3つの非財務要素を統合的に考慮する考え方である。

企業の持続的な成長力を測るうえで、財務情報だけでは見えてこないリスクや機会をどのように把握すればよいのか。この問いに対する国際的な共通言語として広がってきたのがESGである。

気候変動や人権問題、コーポレートガバナンスの巧拙は、いずれも中長期的な企業価値やサステナビリティ(sustainability:持続可能性)に直結する要素であり、投資家・規制当局・消費者のすべてがこれらの非財務情報に注目するようになった。

戦略コンサルティングの現場でも、ESGはM&A評価や中期経営計画策定における前提条件として扱われる場面が増えている。

ESGとは

ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字を組み合わせた略語であり、企業の非財務情報を評価する際の3つの観点を指す。

Environment(環境)は気候変動対応・資源循環・生物多様性への配慮などを、Social(社会)は労働環境・人権・地域社会との関係などを、Governance(ガバナンス)は取締役会の実効性・内部統制・コンプライアンス体制などを含む概念である。

ESGという語が国際的に定着した契機は、2004年に国連グローバル・コンパクト(UNGC:United Nations Global Compact、企業の自主的な行動原則を推進する国連主導のイニシアチブ)が公表した報告書「Who Cares Wins」である。

この報告書は、世界9カ国・18の金融機関の協力のもとで作成され、資産運用や証券分析の実務にE・S・Gの3要素を組み込むことを提言した。

その後、2006年に国連が提唱した責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment、機関投資家がESGを投資プロセスに組み込むことを求める国際的な行動原則)が世界的な普及の転機となった。

日本では、世界最大級の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF:Government Pension Investment Fund、150兆円規模の公的年金積立金を運用する機関)が2015年にPRIへ署名したことが、日本国内におけるESG投資の普及を後押しした大きな契機となった。

GPIFはその後、2017年度からESG指数を用いた株式運用を開始し、さらにサステナビリティ投資方針を策定するなど、ESGを長期的なリスク・リターン改善の手段として位置づけている。

また、環境省は2019年に「ESG金融ハイレベル・パネル」を設置し、金融・投資分野の各業界トップと連携しながら、日本国内におけるESG金融の主流化を後押ししてきた。

ESGは法律で定義された用語ではなく、業界横断的に用いられる評価の枠組みである点に留意する必要がある。

評価機関や開示基準によって評価項目や算定方法は異なり、統一された単一の算定方法が存在するわけではない。

したがって、ある評価機関でスコアが高い企業が、別の評価機関では中位に位置づけられるといった事態も珍しくなく、単一の指標だけに依拠せず複数の情報源を照らし合わせる視点が実務上求められる。

要素 英語表記 主な評価項目 関連する開示・制度
E(環境) Environment 温室効果ガス排出量、資源循環、生物多様性 ISSB基準(IFRS S1・S2)、SSBJ基準
S(社会) Social 労働環境、人的資本開示、人権デューデリジェンス 責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン
G(ガバナンス) Governance 取締役会の独立性、内部統制、情報開示体制 コーポレートガバナンス・コード、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示

具体例で見るESGの実践

たとえば製造業A社が、生産工程における温室効果ガス排出量の削減目標を統合報告書(統合報告書:財務情報と非財務情報を一体的に開示する報告書)で公表したケースを考える。

この場合、環境(E)の取り組みが投資家の評価対象となるだけでなく、サプライチェーン全体の労働環境改善(S)や、目標達成の進捗を監督する取締役会の関与体制(G)まで一体で説明できて初めて、ESG評価機関から高い評価を受けやすくなる。

単発の環境施策ではなく、E・S・Gが相互に関連し合う形で経営に組み込まれている状態こそがESG経営の実践例である。

一方で、ガバナンス(G)の課題が先行して顕在化するケースも実務上多く見られる。

例えば小売業B社が、環境面での取り組みを積極的に開示していたにもかかわらず、取締役会の独立性の低さや内部通報制度の形骸化が投資家との対話の中で指摘され、ESG評価が伸び悩んだという事例が典型である。

この場合、環境施策の水準にかかわらず、ガバナンス体制の実効性が担保されていなければ総合評価は上がらないという、ESG特有の相互依存関係が浮き彫りになる。

SDGs・CSR・SRIとの違い

ESGとしばしば混同される概念に、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)、SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)がある。

SDGsは2015年の国連サミットで採択された2030年までの国際目標であり、ESGが投資家目線の評価軸であるのに対し、SDGsは社会全体が目指すゴールである点が異なる。

CSRは企業の自主的な社会貢献活動を指す概念であり、収益への結びつきを必ずしも前提としない。

一方でESGは、非財務要素を財務パフォーマンスやリスク管理と結びつける投資分析の枠組みという性格が強い。

なお、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という概念も、ESGと隣接する文脈で語られることがある。

CSVは企業の事業活動そのものを通じて社会的課題の解決と経済的価値の創出を同時に実現しようとする経営戦略の考え方であり、ESGが評価・開示の枠組みであるのに対し、CSVは戦略立案の発想法という違いがある。

両者は矛盾するものではなく、CSVを通じて創出された価値がESG評価における社会(S)の指標として表れる、という補完的な関係にある。

概念 主体 目的 ESGとの関係
ESG 投資家・企業 非財務要素を考慮した投資判断・経営評価 評価枠組みそのもの
SDGs 国・社会全体 2030年までの持続可能な社会の実現 ESG課題と目標領域が重なる
CSR 企業 社会的責任を果たす自主的な取り組み ESGの一部と重なるが評価指標を伴わない
SRI 投資家 倫理観・宗教観に基づく銘柄選別投資 ESG投資の源流にあたる考え方

コンサルティング業務における位置づけ

論点設計(イシュー出し)

ESG関連プロジェクトにおける論点設計では、「どのESG課題が事業のマテリアリティ(materiality:重要課題)に該当するか」を最初に切り分けることが出発点となる。気候変動対応と人的資本経営では投資家が重視する時間軸や指標が異なるため、クライアント企業の業種特性を踏まえた論点の絞り込みが求められる。

例えば、製造業であれば温室効果ガス排出量やサプライチェーン管理が優先課題になりやすく、サービス業であれば人的資本や労働環境が中心的な論点になりやすいなど、業種ごとにマテリアリティの重心が異なる点も論点設計上の重要な視点である。

現状分析(As-Is整理)

現状分析では、既存の統合報告書やサステナビリティレポートの開示レベルを競合他社と比較し、MSCI ESG Ratings、FTSE Russellなど外部評価機関のスコアギャップを可視化する。

定性的な取り組みだけでなく、温室効果ガス排出量やダイバーシティ指標など定量データの整備状況を確認する工程が中心となる。

あわせて、投資家向けのアンケートやエンゲージメント(対話)の議事録を確認し、投資家が実際にどの論点を重視しているかを一次情報から把握することも、精度の高い現状分析には欠かせない。

施策設計(To-Be)

施策設計フェーズでは、優先課題ごとにロードマップを策定し、開示強化・体制構築・実行施策を段階的に整理する。

気候関連開示の枠組みとしてTCFDが構築した4本柱(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)は、2023年にIFRS財団傘下のISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定したIFRS S1・S2基準へと引き継がれており、日本国内ではSSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準への準拠可否もこの段階で検討される。

加えて、開示対応だけでなく、削減目標達成に向けた投資計画や体制整備といった実行面の設計まで踏み込むことが、施策設計の実効性を左右する。

資料作成(スライド構造)

資料作成では、経営層向けにE・S・Gの優先課題をピラミッドストラクチャー(結論を頂点に、根拠を階層的に整理する構成手法)で提示し、投資家向けには開示済み指標と目標値を対比させたスライド構成が一般的である。

投資家向け資料では、単年度の実績だけでなく、中期的な目標値の推移をグラフで示すことで、進捗の説得力を高める構成が採用されることが多い。

ESG導入のメリットと注意点

ESGへの取り組みを経営に組み込む最大のメリットは、中長期的な投資家からの評価向上と、気候変動や人権リスクなど将来的な規制強化への備えができる点にある。

サステナブルファイナンス(sustainable finance:環境・社会課題の解決に資金を振り向ける金融活動)の拡大に伴い、ESG評価の高い企業ほど資金調達コストの面で優位に立ちやすいという指摘もある。

また、採用市場においても、ESGへの取り組み姿勢が企業のブランドイメージや人材獲得力に影響を与える場面が増えている。

一方で注意点として、開示のための開示、いわゆるESGウォッシュ(ESGへの取り組みを実態以上に良く見せること)に陥るリスクが挙げられる。

環境面に限定した誇張表現はグリーンウォッシュと呼ばれるが、これはESGウォッシュの一類型として位置づけられる。定量的な裏付けのないまま良好な取り組みを標榜すると、投資家やメディアからの信頼を損なう恐れがある。

また、評価機関ごとにスコアリング手法が異なるため、単一の評価結果だけに依拠した意思決定は避けるべきである。

さらに、人権・環境デューデリジェンスの法制化が国際的に進みつつあり、任意の取り組みにとどまらず、将来的な法規制の強化を見据えた対応が重要になっている。

コンサル採用面接で問われる理由

コンサルティングファームの採用面接において、ESGという用語そのものの定義を直接問われる場面は多くない。

ただし、サステナビリティやガバナンスに関するケース面接では、E・S・Gという3つの視点を漏れなく検討できる思考の枠組みを持っていると、論点整理の説得力が増しやすい。

例えば「ある企業の中期経営計画を評価せよ」というケースにおいて、財務指標だけでなく環境・社会・ガバナンスの観点を自然に織り込んで解答を構成できれば、多面的な視点を備えた候補者として評価されやすくなる。

ESGを丸暗記するというよりも、非財務要素が企業価値にどう影響するかという背景にある考え方を理解しておくことが、面接全体を通じた思考の土台として役立つ。

近年はサステナビリティ関連のケースが出題される機会自体も増えているため、E・S・Gという切り口を思考の引き出しの一つとして持っておくと、初見の論点にも落ち着いて対応しやすくなるだろう。

FAQ

Q1. ESGとは何か、簡潔に教えてほしい。

ESGとは、環境・社会・ガバナンスという3つの非財務要素を統合的に評価する考え方である。財務諸表だけでは把握しきれない企業の持続可能性やリスク耐性を測る観点として、投資家や規制当局に広く用いられている。

2004年の国連報告書「Who Cares Wins」で概念が整理され、2006年のPRI提唱を経て世界的に普及した。

日本ではGPIFのPRI署名を契機に、機関投資家の間でESGを考慮した投資が拡大した経緯を持つ。

法律上の定義を持たない概念である点も、あわせて押さえておきたいポイントである。

Q2. ESGとSDGsは何が違うのか?

ESGは投資家・企業が非財務要素を評価するための枠組みであり、SDGsは国際社会全体が目指す2030年までの開発目標である点が根本的に異なる。

ESGは主に企業単位の評価・分析ツールとして機能するのに対し、SDGsは国・自治体・企業を含む社会全体の共通目標として位置づけられる。

もっとも、気候変動対応や人権配慮などESG課題の多くはSDGsの各ゴールと重なっており、企業がESGに取り組むことが結果的にSDGs達成へ貢献する関係にある。

実務上は、SDGsを企業理念や広報のメッセージング、ESGを投資家対話や開示の具体的な指標として使い分ける企業が多い。

Q3. ESGを実務でどう使うのか?

ESGを実務で活用する際は、まず自社にとって重要度の高い課題(マテリアリティ)を特定し、次に開示基準に沿った情報整備、最後に投資家対話という三段階のフローで進めるのが一般的である。

マテリアリティ特定では、業界特性と自社の事業モデルを踏まえて優先課題を絞り込む。整備段階では既存の統合報告書やサステナビリティレポートとのギャップを確認し、開示体制を強化する流れとなる。

投資家対話の段階では、開示した指標の進捗状況を定期的に説明し、エンゲージメントを通じて評価の改善につなげていくことが求められる。

Q4. ESGはどのようなツールや指標で評価されるのか?

ESGの評価では、MSCI ESG RatingsやFTSE Russell、CDP(気候変動・水・森林に関する企業情報開示プラットフォーム)といった外部評価機関の指標がよく用いられる。

開示基準としては、TCFD提言を引き継ぐ形でISSBが策定したIFRS S1・S2基準、および日本国内向けのSSBJ基準が代表的である。

これらのツールは評価軸や算定方法が異なるため、複数の指標を横並びで確認し、自社の強み・弱みを多面的に把握することが実務上重要になる。

Q5. コンサルティング業務でESGはどのように活用されるか。

コンサルティングの現場では、ESGはM&Aにおけるデューデリジェンス項目の一つとして、また中期経営計画策定時の前提条件として活用されることが多い。

具体的には、投資先企業のガバナンス体制のリスク評価や、サステナビリティ関連の開示ギャップ分析などの支援が代表的な業務となる。

ESG関連のプロジェクトは、環境コンサルティングファームだけでなく、戦略系・総合系コンサルティングファームでも需要が拡大している領域であり、開示支援だけでなく実行支援まで一気通貫で担う案件も増えている。

Q6. ESGについてよくある誤解は何か?

ESGに関するよくある誤解は、「環境活動さえ行えばESGに取り組んでいることになる」という誤解である。実際にはE・S・Gの3要素はいずれも独立した評価軸であり、環境施策が充実していても、ガバナンス体制に不備があれば総合的なESG評価は高まらない。

また、ESGを慈善活動や社会貢献活動と同一視する誤解もあるが、ESGは本来、リスク管理と投資リターンの両面を意識した経営・投資分析の枠組みである点に留意する必要がある。

まとめ(実務整理)

ESGは、環境・社会・ガバナンスという3つの非財務要素を統合的に評価する国際的な枠組みとして定着してきた概念である。

企業にとっては中長期的な企業価値向上とリスク管理の両面で参考になる考え方であり、コンサルティング業務においても中期経営計画やM&A支援の前提条件として活用の幅が広がっている。

開示基準や評価機関の枠組みは今後も継続的にアップデートされていくため、常に最新動向を確認しながら実務に反映していく姿勢が求められる領域である。

採用面接との関係では、ESGという用語そのものを暗記するというよりも、非財務要素が企業価値に与える影響という背景の考え方を理解しておけば、十分な知識基盤になると言える。

E・S・Gそれぞれの視点を漏れなく検討する姿勢は、ケース面接における論理展開の土台としても参考になるだろう。

出典

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