サステナブルサプライチェーン
環境に配慮した部品を使っていても、その製造過程で労働問題が生じていたら、その製品は本当に「サステナブル」と言えるのか。この問いに関わる概念が、サステナブルサプライチェーン(Sustainable Supply Chain)である。
従来、企業のサプライチェーンに関する取組みは、環境負荷の低減を目的とするグリーン調達や、コスト・品質・納期の管理が中心であった。しかし近年は、気候変動対応や人権尊重への社会的要請が強まる中で、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)というESGの3要素を、サプライチェーン全体で統合的に管理する発想が広がっている。
サステナビリティ経営やサプライチェーン戦略に関わるコンサルティング業務において、サステナブルサプライチェーンの正確な定義と、関連する諸概念との違いを理解しておくことは実務上の意義を持つ。
サステナブルサプライチェーンとは
サステナブルサプライチェーンという概念は、環境負荷の低減を目的とするグリーン調達(Green Procurement)や、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibilityの略)の観点から取引先を選定するCSR調達を包含・発展させた概念として用いられることが多い。
日本では、平成12年(2000年)5月31日、循環型社会形成推進基本法の個別法として「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(通称:グリーン購入法)が制定され、翌2001年4月1日に施行された。
同法は、国等の公的機関が環境負荷の少ない製品・サービス(環境物品等)を優先的に調達することを義務付けたものであり、民間企業に直接の調達義務を課すものではないが、取引先である公的機関の調達基準を通じて、民間企業のグリーン調達の取組みにも一定の影響を与えてきた。
グリーン調達が環境面(Environment)のみに焦点を当てるのに対し、サステナブルサプライチェーンは、環境に加えて、労働環境・人権(Social)、贈収賄防止やコンプライアンス、内部統制・調達ガバナンス(Governance)といった、ESGの3要素を包括的に対象に含める点が境界条件となる。
日本では2022年9月、日本政府の「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進連絡会議」において「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定されており、環境面を対象とするグリーン購入法と、社会面を対象とする人権尊重ガイドラインの両方が、サステナブルサプライチェーンを検討するうえでの実務上の重要な指針となっている。
なお、同ガイドラインには法的拘束力はなく、企業に一律の対応を義務付けるものではない点には留意が必要である。サステナブルサプライチェーンの実務では、自社の直接の取引先(一次サプライヤー)だけでなく、間接的な取引関係にある二次・三次サプライヤーまで対象を広げる場合が多い。これは、原材料調達段階における労働問題や環境汚染が、直接の取引関係がなくても、最終製品を扱う企業の評判や事業継続に影響を及ぼし得るためである。
また、環境面では、自社の直接排出(Scope1)や購入電力等に伴う間接排出(Scope2)だけでなく、サプライチェーン全体の排出(Scope3)まで対象に含めて管理する企業が、近年増えている。さらに、環境面の取組みとしては、資源の投入量を抑えつつ廃棄物を減らし、使用済み製品や資材を再び資源として活用するサーキュラーエコノミー(循環経済)の考え方も、サステナブルサプライチェーンに関連する考え方のひとつである。
日本では、グリーン購入法のほかにも、資源の有効利用を求める資源有効利用促進法や、2022年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法など、循環型社会形成推進基本法の理念に基づく個別法が複数整備されており、これらもサーキュラーエコノミーの観点からサプライチェーンを検討するうえで参照される。
従来の「調達・生産・消費・廃棄」という一方向の流れを前提とした調達管理に対し、サーキュラーエコノミーの視点を取り入れることで、資源の再利用や製品の長寿命化まで見据えたサプライチェーン設計が可能になる。
| 概念 | 対象とする観点 | 主な関連制度・基準 |
|---|---|---|
| グリーン調達 | 環境(E)のみ | グリーン購入法、ISO14001等 |
| CSR調達 | 環境・社会(E・S)中心 | 各社CSR調達ガイドライン等 |
| サステナブルサプライチェーン | 環境・社会・ガバナンス(E・S・G)を統合 | グリーン購入法、人権尊重ガイドライン、GHGプロトコル等 |
具体例/ミニケース
電機メーカーQ社が、サステナブルサプライチェーン戦略を策定するケースを考える。Q社はまず、既存のグリーン調達基準(含有化学物質規制への対応等)に加えて、CSR調達アンケートを通じて取引先の労働環境や人権への配慮状況を調査した。
あわせて、自社の温室効果ガス排出量について、Scope1・2の算定にとどまらず、部品調達や物流を含むScope3排出量の算定にも着手し、排出量の大部分がサプライチェーン上流に存在することを把握した。
Q社は、これらの調査結果を踏まえ、環境・社会双方の観点からリスクの高い取引先を優先的に特定し、改善に向けた対話を行う体制を整備した。
特に、Scope3排出量の削減については、自社単独では実現が難しいため、主要サプライヤーに対して排出量削減目標の共有や、再生可能エネルギー導入の働きかけを行った。
このケースが示すように、サステナブルサプライチェーンへの対応は、環境・社会それぞれの観点を個別に管理するのではなく、双方を統合した形で取引先との関係を見直す取組みとして進められる点に特徴がある。
グリーン調達・CSR調達との違い
サステナブルサプライチェーンは、サプライチェーン管理に関わる他の概念としばしば混同される。共通点は「取引先を通じて一定の基準を達成しようとする」という点だが、対象とする観点の広さが異なる。
| 用語 | 対象とする観点 | 主眼 |
|---|---|---|
| グリーン調達 | 環境負荷の低減 | 製品・部材単位の環境性能 |
| CSR調達 | 環境・法令順守・人権等の社会的責任 | 取引先選定における社会的責任の考慮 |
| サステナブルサプライチェーン | 環境・社会・ガバナンスを統合 | サプライチェーン全体を通じた持続可能性の実現 |
コンサルティング業務での位置づけ
論点設計(イシュー出し)
サステナビリティ関連のプロジェクトでは、クライアント企業が対象とするサプライチェーンの範囲(一次サプライヤーのみか、二次・三次まで含めるか)や、環境・社会いずれの観点を優先して着手すべきかという論点整理が初期段階で発生する。コンサルタントは、業種特性や既存の取組み状況を踏まえ、優先課題を洗い出す役割を担う。
現状分析(As-Is整理)
現状分析のフェーズでは、既存のグリーン調達・CSR調達の取組みが、環境・社会・ガバナンスのどの観点をどの程度カバーできているかを棚卸しする。
Scope3排出量の算定状況や、人権デューデリジェンスの実施状況を、外部の基準・ガイドラインと突き合わせてギャップを可視化する作業が中心となる。
施策設計(To-Be)
施策設計の段階では、取引先へのアンケートや監査の実施方法、排出量削減目標の共有方法、リスクの高い取引先への対応方針等を整理し、実行体制やコストとのバランスを踏まえた優先順位を提案する。
資料作成(スライド構造)
経営層向け資料では、サプライチェーン全体を環境・社会・ガバナンスの3軸で評価したマトリクスと、優先対応すべき領域・取引先への具体的なアクションプランをセットで示す構成が定番である。複数の観点を一枚で確認できる構造にすることで、経営層が投資判断をしやすくなる。
導入メリットと注意点
サステナブルサプライチェーンへの取組みを導入する最大のメリットは、環境・社会の両面のリスクを未然に把握し、取引停止や不買運動、規制当局からの指摘といった深刻な事態を防げる点にある。投資家や取引先からの信頼獲得、優秀な人材の確保といった副次的な効果も指摘されている。
一方で注意点も多い。第一に、環境と社会の両方の観点を同時に扱うため、単一の観点のみを扱うグリーン調達等と比較して、評価項目やデータ収集の負荷が大きくなりやすい。
第二に、サプライチェーンが多段階かつ広範囲に及ぶ場合、全ての取引先を同水準で管理することは現実的ではなく、リスクの高低に応じた優先順位付けが不可欠となる。
第三に、取引先の協力が得られない場合、実効性のある情報収集が難しく、書面調査のみでは実態把握に限界がある。
これらの点を踏まえ、実務では、環境・社会の双方を統合した評価基準を設計したうえで、継続的なモニタリングと対話のプロセスとして運用することが重要とされている。
コンサル採用面接で問われる理由
コンサルティングファームの採用面接において、サステナブルサプライチェーンという用語そのものが直接問われる場面は多くない。
しかし、サステナビリティ経営やサプライチェーン戦略をテーマにしたケース面接では、環境と社会のリスクをどう統合的に管理するかという論点が問われることがあり、その際に「環境か社会かではなく、両方を統合して考える」という発想を持っているかどうかが、回答の説得力に影響する。
単に温室効果ガス排出量の削減という表面的な理解にとどまらず、労働環境や人権への配慮まで踏み込んで考えられると、サステナビリティ関連の議論に厚みを持たせやすくなる。
この構造を内面化した思考は、ケース解答における論理展開の質を高める。グリーン購入法や人権尊重ガイドラインの条文を暗記して面接で披露する必要があるわけではなく、環境・社会・ガバナンスを統合して捉えるという考え方の骨格をおさえておけば、面接官との議論の中で自然に応用できる知識基盤となるといえる。
FAQ
Q1. サステナブルサプライチェーンとは、どのような概念か。
サステナブルサプライチェーンとは、原材料調達から製造、物流、販売、使用後の回収・再資源化までを含むサプライチェーン全体を通じて、環境・社会・ガバナンスへの配慮を組み込んだ管理・運営の考え方である。
英語表記はSustainable Supply Chainであり、環境負荷の低減を目的とするグリーン調達や、社会的責任を重視するCSR調達を包含・発展させた概念として用いられることが多い。
日本では、環境面で2000年制定のグリーン購入法、社会面で2022年策定の人権尊重ガイドラインが、実務上の重要な指針として機能している。
Q2. サステナブルサプライチェーンとグリーン調達・CSR調達とは、何が違うのか。
最も大きな違いは、対象とする観点の広さにある。グリーン調達は環境負荷の低減のみに焦点を当てる取組みであり、CSR調達は環境に加えて法令順守や人権等の社会的責任を考慮する取組みである。
これに対しサステナブルサプライチェーンは、環境・社会に加えてガバナンスの観点も含め、ESGの3要素をサプライチェーン全体で統合的に管理する、より包括的な概念として位置づけられる。
Q3. サステナブルサプライチェーンへの対応は、どのような手順で進めるのか。
実務における一般的な手順は、まず既存のグリーン調達・CSR調達の取組みを、環境・社会・ガバナンスの3つの観点から棚卸しすることから始まる。次に、Scope3排出量の算定や、取引先へのアンケート・監査を通じて、環境・社会双方のリスクを特定・評価する。
特定されたリスクについて、取引先との対話を通じた改善を働きかけ、進捗を継続的にモニタリングしながら、取組み内容を対外的に開示する。
Q4. コンサルティングプロジェクトでは、サステナブルサプライチェーンはどのように扱われているのか。
コンサルティングの現場では、クライアント企業のグリーン調達・CSR調達の取組みを統合し、ESGの観点から包括的なサプライチェーン戦略を策定する場面でこの概念が参照される。また、Scope3排出量の算定体制の構築や、環境・社会双方のリスクを踏まえたサプライヤー評価基準の設計を支援する役割を担うこともある。
Q5. サステナブルサプライチェーンについて、どのような誤解が生じやすいのか。
よくある誤解のひとつは、環境面の取組みさえ進めればサステナブルサプライチェーンを実現したことになると考えてしまうことである。実際には、環境面のみに焦点を当てた取組みはグリーン調達にとどまり、労働環境や人権といった社会面の対応が欠けている場合、サステナブルサプライチェーンとしては不十分とみなされる。
もうひとつの誤解は、サプライチェーン全体を一度の調査で完全に把握できると考えてしまうことである。実際には、二次・三次サプライヤーまで含めた把握には時間を要し、継続的な取組みとして位置づける必要がある点に留意する必要がある。
Q6. サステナブルサプライチェーンの取組みは、どのように評価されるのか。
評価の観点としては、環境面ではScope1・2・3の温室効果ガス排出量削減の進捗、社会面では人権デューデリジェンスの実施状況や労働環境の改善状況、ガバナンス面では取引先管理体制の整備状況等が用いられることが多い。
これらの取組み状況は、統合報告書やサステナビリティ報告書を通じて開示されるほか、投資家やNGOによる第三者評価の対象となる場合もあり、開示内容の客観性や検証可能性を確保しておくことが実務上重要となる点にも留意しておきたい。
まとめ(実務整理)
サステナブルサプライチェーンは、原材料調達から製造、物流、販売、使用後の回収・再資源化までを含むサプライチェーン全体を通じて、環境・社会・ガバナンスへの配慮を組み込んだ管理・運営の考え方である。
環境面のみに焦点を当てるグリーン調達や、環境・社会を中心とするCSR調達を包含・発展させた概念として用いられ、ESGの3要素を統合的に管理する点に特徴がある。日本では、環境面のグリーン購入法と社会面の人権尊重ガイドラインが、それぞれの分野の実務上の重要な指針として機能している。
コンサルティング業務との関係でいえば、環境と社会のリスクを個別にではなく統合して捉える視点が、サプライチェーン関連プロジェクトにおいて参考になる。
採用面接との関係でいえば、制度の細部を暗記する必要はなく、環境・社会・ガバナンスを統合して捉えるという考え方の骨格をおさえておけば、十分な知識基盤となる。
出典
- 環境省「グリーン購入法について」
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/g-law/ - 環境省「グリーン購入法 国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」解説資料
https://www.env.go.jp/content/000067259.pdf - 経済産業省「日本政府は『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』を策定しました」
https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003.html
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