ISSB(アイエスエスビー)

ISSBとは、IFRS財団が2021年に設立した、企業のサステナビリティ関連財務情報の開示に関する国際的な基準を策定する審議会である。

企業のサステナビリティ情報開示は、なぜ長年にわたり国や機関ごとにばらばらの基準で語られてきたのか。この乱立状態に統一的な物差しを示そうとしているのが、ISSB(International Sustainability Standards Board、国際サステナビリティ基準審議会)である。

気候変動や人権等に関する企業の非財務情報は、投資家の関心が高まる一方で、開示の枠組みが複数の団体に分かれていたため、企業間の比較可能性が損なわれるという課題が指摘されてきた。ISSBは、こうした基準の乱立を解消し、投資家が真に必要とする情報を国際的に統一された形で開示させることを目的に設立された。

日本でも、ISSBが策定した基準を踏まえたサステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基準が公表され、上場企業を中心に適用が具体化しつつある。サステナビリティ開示やIR戦略に携わるコンサルティング業務において、ISSBの正確な位置づけを理解しておくことは実務上の意義を持つ。

ISSBとは

ISSBは、国際会計基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)を策定する非営利の民間組織であるIFRS財団が、2021年11月3日、英国グラスゴーで開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)において設立を発表した審議会である。

IFRS財団はそれまで財務会計基準の国際的な統一を担ってきたが、投資家からサステナビリティ情報についても国際的に比較可能な開示基準を求める声が強まったことを受け、ISSBを新設し、サステナビリティ開示基準の策定機能を持たせることとした。

ISSBの設立に伴い、それまで独自にサステナビリティ関連の開示基準やフレームワークを策定していた複数の団体が、2022年にかけてISSBへと統合された。

具体的には、気候関連の開示基準を策定していたCDSB(気候関連開示基準委員会)と、2021年にIIRC(国際統合報告評議会)とSASB(サステナビリティ会計基準審議会)が統合して発足したVRF(価値報告財団)が、いずれもISSBに統合された。

また、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)についても、企業の気候関連情報開示のモニタリング機能がISSBに引き継がれ、TCFD自体は2023年10月に解散している。

ISSBは、こうした既存の基準・フレームワークを土台として開発を進め、2023年6月26日、「IFRS S1号:サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」と「IFRS S2号:気候関連開示」を確定させた。これらは総称してIFRSサステナビリティ開示基準、または単にISSB基準とも呼ばれる。

両基準は、2024年1月以降に開始する事業年度から適用することが想定されており、TCFDが提言していたガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標という4つの柱を基本構造として引き継いでいる点が境界条件のひとつとなる。

ISSBの組織上の位置づけとして、IFRS財団の下には、従来から財務会計基準を策定してきたIASB(国際会計基準審議会)と、サステナビリティ開示基準を策定するISSBの2つの審議会が並立している。

両審議会は共通の評議員会の監督を受けつつ独立して基準開発を行っており、財務情報とサステナビリティ情報が、それぞれ専門性を持つ審議会によって整合的に開発される体制が採られている点も、ISSBの制度上の特徴のひとつである。

組織・基準 ISSBとの関係
CDSB(気候関連開示基準委員会) 2022年にISSBへ統合
VRF(価値報告財団。IIRCとSASBが2021年に統合して発足) 2022年にISSBへ統合
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース) モニタリング機能をISSBへ移管し、2023年10月に解散
IFRS S1号・S2号(ISSB基準) 2023年6月26日にISSBが確定・公表

具体例/ミニケース

日本の上場製造業A社が、ISSB基準への対応を検討するケースを考える。A社はまず、自社がすでに実施していたTCFD提言に基づく気候関連情報開示の内容を、IFRS S2号が求める要求事項と突き合わせ、シナリオ分析やスコープ1・2・3の温室効果ガス排出量開示等について、どの程度カバーできているかを確認した。

あわせて、IFRS S1号が求める、気候以外のサステナビリティ関連リスク・機会に関する全般的な開示要求事項についても、既存の統合報告書やサステナビリティ報告書の記載内容とのギャップを整理した。日本国内では、ISSB基準そのものではなく、これを踏まえて開発されたSSBJ基準への対応が実務上の焦点となる。

2026年1月に公表された金融審議会のワーキング・グループ報告では、グローバルな投資家との対話を志向するプライム市場上場企業を対象に、時価総額の大きい企業から段階的にSSBJ基準に準拠した開示を義務付ける方向性が示されている。A社のような企業にとっては、自社がどの段階で義務化の対象となるかを見極めながら、準備を計画的に進めることが求められる。

さらに、同報告では、開示義務化の翌年からサステナビリティ情報の第三者保証を義務付ける方向性も示されている。当初の保証範囲は限定的とされ、対象を段階的に広げていくことが想定されている。

A社にとっては、開示体制の整備と並行して、将来の第三者保証に耐え得るデータの信頼性確保やプロセスの文書化にも着手しておくことが、実務上の備えとして重要になる。

SSBJ・TCFDとの違い

ISSBは、サステナビリティ開示に関わる他の組織や基準としばしば混同される。共通点は「投資家向けのサステナビリティ情報開示の充実を目指す」という点だが、活動の主体や基準の性質、対象とする地域が異なる。

組織・基準 性質 対象範囲
ISSB IFRS財団が設置した国際的な基準策定審議会 国際的に統一されたサステナビリティ開示基準(IFRS S1・S2)を策定
SSBJ(サステナビリティ基準委員会) 財務会計基準機構(FASF)の下に設立された日本の基準設定主体 ISSB基準を踏まえ、機能的に整合するよう設計された日本国内向けの基準(SSBJ基準)を策定
TCFD 気候関連情報開示に関する提言を行っていたタスクフォース(2023年10月解散) 気候関連の開示提言のみを対象とし、モニタリング機能はISSBへ移管済み

コンサルティング業務での位置づけ

論点設計(イシュー出し)

サステナビリティ開示関連のプロジェクトでは、クライアント企業がISSB基準・SSBJ基準の適用対象となる時期はいつか、既存の開示(有価証券報告書、統合報告書等)とのギャップはどこにあるかという論点整理が初期段階で発生する。コンサルタントは、金融審議会のワーキング・グループが示す適用スケジュールを踏まえ、対応の優先順位を整理する役割を担う。

現状分析(As-Is整理)

現状分析のフェーズでは、既存のTCFD開示や統合報告書の記載内容を、IFRS S1号・S2号およびSSBJ基準が求める開示項目と突き合わせ、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標の4つの柱ごとに充足状況を確認する。特にスコープ1・2・3の温室効果ガス排出量算定の精度や、シナリオ分析の実施状況を重点的に棚卸しする。

施策設計(To-Be)

施策設計の段階では、開示項目のギャップを埋めるための情報収集体制の構築、算定手法の見直し、第三者保証への対応方針等を整理し、義務化のスケジュールに間に合うよう対応計画を提案する。あわせて、開示情報の信頼性を担保するための内部統制やデータガバナンスの整備も論点となる。

資料作成(スライド構造)

経営層向け資料では、ISSB・SSBJ基準の適用スケジュールを時系列で示すロードマップと、自社の現状の開示レベルを4つの柱ごとに評価したレーダーチャートをセットで示す構成が定番である。準備状況と残された課題を一枚で確認できる構造にすることで、経営層が投資判断をしやすくなる。

コンサル採用面接で問われる理由

コンサルティングファームの採用面接において、ISSBという組織名そのものが直接問われる場面は多くない。しかし、サステナビリティ開示やESG関連のケース面接では、乱立していた開示基準がなぜ統一に向かっているのかという背景を理解しているかどうかが、回答の説得力に影響する。

ISSBがTCFDやSASB等の既存の枠組みを土台として基準を策定したという経緯を理解していると、サステナビリティ開示に関する議論に厚みを持たせやすくなる。

この構造を内面化した思考は、ケース解答における論理展開の質を高める。IFRS S1号・S2号の条文を暗記して面接で披露する必要があるわけではなく、基準の統合という国際的な潮流の骨格をおさえておけば、面接官との議論の中で自然に応用できる知識基盤となる。

FAQ

Q1. ISSBとは、どのような組織か。

ISSBとは、IFRS財団が2021年に設立した、企業のサステナビリティ関連財務情報の開示に関する国際的な基準を策定する審議会である。

英語表記はInternational Sustainability Standards Boardであり、2021年11月3日のCOP26において設立が発表された。CDSBやVRF(IIRCとSASBの統合体)を統合し、TCFDのモニタリング機能も引き継いだうえで、2023年6月にIFRS S1号・S2号を確定・公表している。

Q2. ISSBとSSBJとは、何が違うのか。

最も大きな違いは、活動の主体と対象範囲にある。ISSBはIFRS財団が設置した国際的な審議会であり、世界共通のサステナビリティ開示基準(IFRS S1・S2)を策定する立場にある。

これに対しSSBJは、財務会計基準機構の下に設立された日本の基準設定主体であり、ISSB基準を踏まえつつ、これと機能的に整合するように設計された日本国内向けの基準(SSBJ基準)を策定している。ISSBが国際基準の策定主体、SSBJがその日本版を策定する主体という関係にある。

Q3. ISSB基準への対応は、どのような手順で進めるのか。

実務における一般的な手順は、まず自社の既存のサステナビリティ開示(TCFD開示、統合報告書等)の内容を、IFRS S1号・S2号およびSSBJ基準が求める開示項目と突き合わせることから始まる。

次に、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標の各項目についてギャップを洗い出し、温室効果ガス排出量の算定精度向上やシナリオ分析の実施等、不足する取組みを計画的に進める。

金融審議会が示す適用スケジュールを踏まえ、義務化の時期に合わせて開示体制を整備し、第三者保証への対応も見据えて準備を進める。

Q4. コンサルティングプロジェクトでは、ISSBはどのように扱われているのか。

コンサルティングの現場では、クライアント企業がSSBJ基準への対応体制を構築する際に、ISSB基準(IFRS S1・S2)との整合性検証や、開示項目のギャップ分析を支援する場面でこの考え方が参照される。

また、金融審議会のワーキング・グループが示す適用スケジュールを踏まえ、自社がいつの時点で義務化の対象となるかを見極め、対応計画を整理する役割を担うこともある。

Q5. ISSBについて、どのような誤解が生じやすいのか。

よくある誤解のひとつは、ISSB基準がそのまま日本国内で法的な開示義務として適用されると考えてしまうことである。実際には、ISSBは国際的な基準を策定する主体にとどまり、各国・地域がこれをどう国内制度に取り込むかは、それぞれの規制当局の判断に委ねられている。日本では、ISSB基準を踏まえて開発されたSSBJ基準が、金融審議会の議論を経て段階的に義務化される見込みである。

もうひとつの誤解は、TCFDはISSBの設立によって不要になったと考えてしまうことである。実際には、TCFDの提言内容はIFRS S2号の基本構造として引き継がれており、既存のTCFD対応の蓄積はISSB基準対応の土台として活用できる点に留意する必要がある。

まとめ(実務整理)

ISSBは、IFRS財団が2021年に設立した、企業のサステナビリティ関連財務情報の開示に関する国際的な基準を策定する審議会である。CDSBやVRF、TCFDといった既存の枠組みを統合・継承しながら、2023年にIFRS S1号・S2号を確定させ、乱立していたサステナビリティ開示基準の統一を進めている点に実務上の意義がある。

日本では、ISSB基準を踏まえたSSBJ基準が策定され、金融審議会の議論を経て段階的な義務化が進められている点を理解しておくと、サステナビリティ開示に関する議論の見取り図がつかみやすくなる。

ISSBそのものは基準を策定する国際的な主体であり、日本企業に直接開示義務を課す立場にはない。実際に日本企業へ義務を課すかどうか、どのようなスケジュールで課すかは、金融庁を中心とする国内の制度設計に委ねられている。

この二段階の構造を理解しておくことは、国際的な基準の動向と国内の制度化の議論を混同せずに整理するうえで役立つ。コンサルティング業務との関係でいえば、ISSB基準とSSBJ基準の対応関係を踏まえ、既存の開示とのギャップを整理する視点が、サステナビリティ開示プロジェクトにおいて参考になる。

採用面接との関係でいえば、基準の条文を暗記する必要はなく、基準統合という国際的な潮流の骨格をおさえておけば、十分な知識基盤となる。

出典

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