SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)

SXとは、企業のサステナビリティ(稼ぐ力の持続性)と社会のサステナビリティ(将来的な社会の持続可能性)を同期化させ、それを実現するために行う経営・事業変革を指す概念である。

なぜ今、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション、英: Sustainability Transformation)という言葉が経営戦略やコンサルティングの現場で頻繁に語られるようになったのか。

背景には、気候変動・人権問題・地政学リスクなど不確実性の高まりにより、企業が短期的な収益最大化だけでは投資家からの評価や資金調達において不利になり得るという構造変化がある。

サステナビリティへの対応はもはやリスク管理の一項目ではなく、経営戦略そのものの根幹をなす要素になりつつある。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)がデジタル技術を起点とした企業変革であるのに対し、SXはサステナビリティを起点として社会価値と企業価値を同期させる経営変革である点に特徴があり、ESG・サステナビリティ関連部門やコンサルティングファームでの需要が拡大している領域である。

SXとは

SXは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティという2つの概念の同期化を意味する言葉として整理されている。

社会のサステナビリティとは、気候変動や人権問題など将来的な社会の持続可能性に関わる課題への対応を指し、企業のサステナビリティとは、社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を通じて、自社の長期的かつ持続的な成長原資を生み出す力、いわゆる「稼ぐ力」の向上を意味する。

SXはSustainability Transformationの略称であり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などと同様にTransformationを「X」と表記している。

日本においてSXという概念が広く普及した契機は、経済産業省が2019年11月に立ち上げた「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」が、2020年8月の中間取りまとめでSXを提唱したことである。

その後、SXの取組を具体化させるため、2021年5月に新たに「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」が立ち上げられ、2022年8月、報告書として「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」を公表した。

伊藤レポートとは、2014年に経済産業省が公表した「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書に端を発するシリーズであり、座長を務めた一橋大学名誉教授・伊藤邦雄氏の名前に由来する。

2014年版(初代)、2017年版(伊藤レポート2.0)に続き、2022年に公表された3.0版でSXの重要性が中心的なテーマとして位置づけられた。

SXが成立するための条件は、単に企業が自社の持続可能性を高めるだけでは満たされない。

社会の持続可能性への貢献と、自社の稼ぐ力の向上という2つの軸が同時に、かつ相互補完的に進行している状態が求められる。

一方のみを追求する活動(例えば社会貢献活動のみで収益性を伴わない取り組みや、逆に短期的収益のみを追求し社会的価値を生まない活動)は、SXの定義上は不完全な状態にとどまる。

構成要素 内容 関連するSXの実現要素
社会のサステナビリティ 気候変動・人権・経済安全保障など、将来的な社会の持続可能性に関わる課題 目指す姿の明確化
企業のサステナビリティ 長期的かつ持続的な成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上 長期価値創造戦略の構築
同期化(トランスフォーメーション) 両者を結びつけるための経営・事業変革そのもの KPI・ガバナンスの構築、投資家との対話

経済産業省と東京証券取引所は、SXを実践し企業価値創造を進める先進的企業を「SX銘柄」として選定・表彰する取り組みを2024年から開始している。

これは「伊藤レポート3.0」や「価値協創ガイダンス2.0」で示された考え方を、実際に経営に落とし込んでいる企業を可視化する施策であり、SXが理念にとどまらず実務上の評価基準として定着しつつあることを示している。

SXの具体例とミニケース

ミニケースとして、ある製造業の中期経営計画策定支援を想定する。

従来の中計は売上高・営業利益率といった財務指標が中心であったが、SXの考え方を取り入れる場合、まず「目指す社会の姿」を将来シナリオとして描き、そこから逆算して自社が担うべき役割(例:脱炭素関連の新素材開発、サプライチェーン全体での人権デューデリジェンス強化)を特定する。

次に、その役割を果たすことが長期的にどのような財務的価値(コスト削減、新規収益機会、資本コストの低減)に結びつくかをストーリーとして構築し、投資家との対話を通じて磨き上げていく。このプロセス自体がSXの実践にあたる。

類似概念との違い

SXはDX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(グリーン・トランスフォーメーション)、SDGs(持続可能な開発目標)としばしば並べて語られるが、それぞれ目的と射程が異なる。

概念 目的 変革の起点 SXとの関係
DX(デジタル・トランスフォーメーション) データとデジタル技術を活用した製品・サービス・ビジネスモデル・組織文化の変革と競争優位の確立 デジタル技術 SXを推進する手段の一つ。データ収集・分析基盤としてSXを下支えする
GX(グリーン・トランスフォーメーション) 脱炭素社会の実現に向けたエネルギー・産業構造の転換 脱炭素・エネルギー SXの一部領域(環境分野)に特化した取り組み
SDGs(持続可能な開発目標) 2030年までの世界全体の持続可能な発展目標(17目標・169ターゲット) 国際的な社会目標 社会全体の目標体系。SXは企業がこれにどう貢献し稼ぐ力に変えるかという経営手法

DXはデジタル技術を起点とした経営・事業変革を主眼とする活動である一方、SXはサステナビリティを起点として社会価値と企業価値を同期させる経営変革である点で性質が異なる。

GXはエネルギー・脱炭素分野に特化した変革であり、SXが扱う社会課題(人権、経済安全保障、生物多様性等)の一領域と位置づけられる。

SDGsは国連が定めた世界共通の目標体系であるのに対し、SXはその目標に企業がどう貢献し、それを自社の稼ぐ力にどう結びつけるかという経営上のアプローチを示す点で性質が異なる。

コンサルティング業務における位置づけ

論点設計(イシュー出し)

SX関連プロジェクトの論点設計においては、「社会のサステナビリティ課題のうち自社が対応すべき優先領域は何か」「現在の経営戦略・事業ポートフォリオは長期的な稼ぐ力の維持に資するか」といった問いを起点に、財務軸と非財務軸を統合したイシューツリーを構築することが多い。

現状分析(As-Is整理)

現状分析では、自社のサステナビリティ関連開示(統合報告書、有価証券報告書のサステナビリティ情報等)と財務実績を突き合わせ、ROEやROAといった資本収益性指標と、ESGに関する取り組みとの整合性を確認する。

「価値協創ガイダンス2.0」が示す開示項目(経営理念、ビジネスモデル、戦略、ガバナンス等)に沿ってギャップを洗い出す手法が用いられる。

施策設計(To-Be)

施策設計では、将来的な社会の姿から逆算した戦略的な事業ポートフォリオの組み換えや、無形資産投資(人的資本、研究開発、ブランド等)の強化策を具体化する。

KPI設計にあたっては、財務指標だけでなく、サステナビリティ関連の非財務指標を組み合わせたバランスの取れた指標体系を構築することが求められる。

資料作成(スライド構造)

資料作成においては、「目指す姿」「現状とのギャップ」「長期価値創造戦略」「KPI・ガバナンス」という「伊藤レポート3.0」が示す論理構成に沿ってストーリーラインを設計することで、投資家対話や経営会議における説得力が高まる。

1スライド1メッセージの原則のもと、財務と非財務の接続関係を図示することが実務上重視される。

SX推進における課題と適用上の限界

SXの推進は理念として広く支持されている一方、実務上はいくつかの構造的な課題に直面しやすい。

第一に、企業の「稼ぐ力」と社会のサステナビリティへの貢献を、どのように定量的に結びつけて評価するかという測定上の難しさがある。非財務指標と財務指標の因果関係を明確に証明することは容易ではなく、投資家に対する説明責任を果たすうえでの障壁となりやすい。

第二に、SXを実践するための土台となる「企業変革力」、すなわち環境変化に応じて経営資源を組み替える能力が不足している企業も少なくない。特に中堅・中小企業においては、サステナビリティへの取り組み自体に経営資源を割く余力が乏しく、DXへの対応も含めて変革が進みにくいという課題が指摘されている。

第三に、SXは中長期的な視点を前提とする概念であるため、四半期決算など短期的な業績評価の枠組みと両立させることが難しい場面がある。長期投資家やESG投資、スチュワードシップ・コードへの対応が進む一方で、一部の市場参加者には短期志向(ショートターミズム)も依然として残っており、長期的な価値創造ストーリーが必ずしも正当に評価されない場面も指摘されている。

これらの課題を踏まえ、企業と投資家双方が長期的な視点での対話を積み重ねていくことが、SXの実効性を高める鍵となる。

ハイクラス転職市場におけるSX関連人材の動向

SXの普及に伴い、コンサルティングファームや事業会社のサステナビリティ推進部門において、ESG・非財務情報開示・統合報告書策定の知見を持つ人材へのニーズが拡大している。

特に、経済産業省や東京証券取引所が選定する「SX銘柄」のような制度的な後押しもあり、上場企業を中心に専門人材の採用需要が高まっている領域である。

求められる人材像としては、財務分析の素養に加え、ESG関連の開示基準(TCFD、ISSB等)や投資家対話の実務経験を持つことが評価されやすい。

コンサルティングファームにおいては、サステナビリティ関連の専門チームが組成されるケースも増えており、戦略コンサルティングのバックグラウンドを持つ人材がSX関連プロジェクトへキャリアチェンジする動きも見られる。

コンサル採用面接で問われる理由

ケース面接において、SXという用語そのものが直接問われる場面は多くない。

ただし、長期的な企業価値創造や非財務情報と財務情報の接続といったテーマを扱うケースでは、SXの背景にある「短期的収益と長期的持続可能性をどう両立させるか」という思考の枠組みが、解答の構造化に役立つ場面がある。

特に、ESGやサステナビリティ経営に関連する業界・クライアントを志望する場合、社会課題と企業の稼ぐ力を同時に検討する視点を持っていると、論理展開に厚みが生まれやすい。

とはいえ、伊藤レポートの発行年や条文を暗記するような知識が求められるわけではなく、概要と考え方の骨格をおさえておけば十分な知識基盤として機能する。

面接対策としては、SXという言葉を軸に、自分なりに「企業価値とは何か」という問いを考えておく姿勢の方が、用語そのものの暗記よりも評価につながりやすい。

FAQ

Q1. SXとは簡単に言うと何か?

SXとは、企業が社会の持続可能性に貢献しながら、自社の長期的な稼ぐ力も同時に高めていく経営のあり方である。

経済産業省が2020年以降の検討会を通じて整理した概念であり、2022年公表の「伊藤レポート3.0」において体系化された。短期的な利益追求と社会貢献を二者択一で捉えるのではなく、両者を同期化させる点に本質がある。

投資家との長期的な対話を通じて価値創造ストーリーを磨き上げていくプロセス全体を指す言葉として用いられる。

Q2. SXとDX・GXの違いは何か?

SXとDX・GXは変革の起点となる要素が異なる概念である。

DXはデータとデジタル技術を活用して製品・サービス・ビジネスモデルや組織・企業文化を変革し、競争上の優位性を確立する経営変革であり、GXは脱炭素社会の実現というエネルギー・環境分野を起点とした変革である。

一方でSXは、サステナビリティを起点として社会全体の持続可能性と企業の稼ぐ力を同期させる経営アプローチであり、DXやGXとは独立した、それらを内包しうるより広い概念として位置づけられる。

実務上は、DXによるデータ基盤整備やGXによる脱炭素対応が、SXを実現するための個別の手段として機能することが多い。

Q3. SXを推進する際の具体的な手順・進め方は何か?

SXの推進手順は、「伊藤レポート3.0」が示す3つの取り組みに沿って整理できる。

第一に、社会のサステナビリティを踏まえた自社の「目指す姿」を明確化する。

第二に、その目指す姿に基づいて長期的な価値創造を実現するための事業戦略・ポートフォリオを構築する。

第三に、戦略を実効的に推進するためのKPIとガバナンス体制を整備し、投資家等との対話を通じて継続的にストーリーを磨き上げる。

これら3段階を一度きりで完結させるのではなく、対話を通じた反復的な改善プロセスとして捉える点が特徴である。

Q4. SXの実践に使われる具体的なフレームワークやツールは何か?

SXの実践において中核的な役割を果たすのが、経済産業省が公表した「価値協創ガイダンス2.0」である。

これは企業が投資家に伝えるべき情報を、経営理念・ビジネスモデル・戦略・ガバナンスといった項目に体系的に整理するためのフレームワークであり、企業と投資家の「共通言語」として機能する。

加えて、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が定める開示基準など、国際的な非財務情報開示の枠組みと組み合わせて活用されることも多い。

これらのツールはSXの理念を具体的な開示・対話の実務に落とし込むための手段として位置づけられる。

Q5.コンサルティングファームはSX関連プロジェクトでどのような支援を行うか?

コンサルティングファームは、企業のSX推進において、統合報告書や有価証券報告書における非財務情報開示の高度化支援、中期経営計画への長期価値創造ストーリーの組み込み、投資家対話に向けたIR資料の構築支援などを担うことが多い。

また、ESG関連のデューデリジェンスや、サステナビリティ関連KPIの設計、ガバナンス体制の構築支援も主要な支援領域である。SX銘柄選定のような制度面の動向を踏まえ、業界横断でのベンチマーク分析を行うことも実務上の特徴である。

Q6. SXに関してよくある誤解は何か?

SXに関する誤解として多いのが、「SDGsやCSR活動を行えばSXを実現したことになる」という認識である。SXはあくまで社会のサステナビリティと企業の稼ぐ力の同期化を指す概念であり、社会貢献活動のみを行い財務的な価値創出につながっていない場合は、SXの定義を満たしているとは言えない。

また、「SXは大企業や上場企業だけが取り組むテーマである」という誤解も見られるが、価値創造ストーリーの構築という考え方自体は、非上場企業や中堅・中小企業の経営においても応用可能な汎用的な思考枠組みである。

まとめ(実務整理)

SXとは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化させる経営のあり方であり、経済産業省が2022年に公表した伊藤レポート3.0を通じて体系化された概念である。

短期的な収益性と長期的な持続可能性を対立軸として捉えるのではなく、両者を結びつける価値創造ストーリーをいかに構築するかが実務上の焦点となる。

コンサルティング業務においては、論点設計から現状分析、施策設計、資料作成に至る一連のプロセスにSXの考え方を組み込むことで、クライアント企業の長期的な企業価値向上を支援する場面が増えている。

採用面接においてSXという用語そのものが直接的な知識として問われる機会は限定的だが、長期的な企業価値創造というテーマに触れる際、背景にある考え方を理解しておくと、論理展開の説得力を高める一助となる。

出典

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