非化石証書

非化石証書とは、石炭・石油等の化石燃料を使わない非化石電源から発電された電気が持つ環境価値を、電気そのものと切り離して証書化し、取引可能にした制度である。

再生可能エネルギー由来の電気を購入したいと考えても、送配電網を流れる電気そのものからは、どの発電方法で作られたかを区別することはできない。この課題に対する日本の制度的な解決策が、非化石証書(英語表記:Non-Fossil Fuel Energy Certificate)である。

電気が持つ「非化石電源由来である」という環境価値を、物理的な電気の流れとは切り離し、証書という形で見える化することで、需要家は証書を購入することにより、実質的に非化石電源由来の電気を利用したとみなすことができる。

企業のRE100参加やCDP等への排出量報告、サプライチェーン全体の脱炭素化が重視されるなか、非化石証書はScope2排出量を削減するための実務的な手段として活用が広がっている。

サステナビリティ経営やエネルギー戦略に関わるコンサルティング業務において、非化石証書の正確な仕組みと関連制度との違いを理解しておくことは実務上の意義を持つ。

非化石証書とは

非化石証書制度の背景には、2009年に制定された「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」(通称:高度化法)がある。

同法は、発電事業者から電気を調達して需要家に販売する小売電気事業者に対し、国が定める非化石エネルギー源の利用目標の達成に向けて非化石電源の利用拡大を求める制度であり、政府は2030年度までに非化石電源比率(化石燃料を使わない発電所からの電気の比率)44%以上を目標として掲げている。

小売電気事業者がこの目標達成に取り組む手段として、2017年に非化石価値取引市場の創設が決定され、2018年5月、一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX:Japan Electric Power Exchangeの略)によって市場が開設された。

開設当初、非化石証書の取引に参加できるのは発電事業者と小売電気事業者に限られていたが、2021年11月には「再エネ価値取引市場」が新たに創設され、一定の条件を満たす需要家(企業等)も参加可能となった。

もっとも、需要家が自らJEPXの会員となって市場に直接参加するケースだけでなく、契約中の小売電気事業者やアグリゲーター(代理購入事業者)を介して証書を調達するケースも実務上は広く用いられている。

非化石証書の境界条件として、証書は発電方法に応じて3種類に分類される点が挙げられる。

固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariffの略)の対象となる再生可能エネルギー由来の「FIT非化石証書(再エネ指定)」、FIT対象外の再生可能エネルギー由来の「非FIT非化石証書(再エネ指定)」、そして原子力等、再生可能エネルギー以外の非化石電源に由来する「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」である。

このうち、FIT非化石証書は、FIT賦課金によって買い取られた電気に付随して生じる環境価値であり、この証書を売却して得られる収益は、国民が負担するFIT賦課金の負担軽減に充当される仕組みとなっている点も特徴のひとつである。

非化石証書を取引する市場も、目的に応じて2つに分かれている。ひとつは、FIT非化石証書を取り扱う「再エネ価値取引市場」であり、需要家(企業等)が参加してRE100参加や自社の排出量削減のために利用できるほか、小売電気事業者もここでFIT非化石証書を調達し、高度化法上の目標達成に充てることができる。

もうひとつは、非FIT非化石証書(再エネ指定・再エネ指定なし)を取り扱う「高度化義務達成市場」であり、こちらは小売電気事業者のみが参加でき、需要家が直接購入することはできない。

需要家が非FIT非化石証書に由来する電力を利用したい場合は、小売電気事業者が提供する再エネメニュー等を介して間接的に調達する必要がある。なお、RE100の要件を満たす証書として活用する場合には、発電設備の所在地や発電量を追跡できるトラッキング情報が付与された証書であること等、追加的な要件が求められる点にも留意が必要である。

制度創設当初は発電事業者と小売電気事業者による取引が中心であったが、需要家が参加できる市場が新設されたことで、証書の活用主体は着実に広がってきている。

証書の種類 対象電源 主な購入者
FIT非化石証書(再エネ指定) FIT制度対象の再生可能エネルギー電源 需要家(再エネ価値取引市場)、小売電気事業者
非FIT非化石証書(再エネ指定) FIT対象外の再生可能エネルギー電源 小売電気事業者(高度化義務達成市場)※需要家は小売電気事業者経由で間接的に調達
非FIT非化石証書(再エネ指定なし) 原子力等、再エネ以外の非化石電源 小売電気事業者(高度化義務達成市場)※需要家は小売電気事業者経由で間接的に調達

具体例/ミニケース

製造業A社が、自社工場で使用する電力についてRE100(事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とする国際イニシアチブ)への参加を目指すケースを考える。

A社は、既存の電力契約を直ちに再エネ電源に切り替えることが難しかったため、契約中の小売電気事業者が提供する代理購入サービスを通じて、再エネ価値取引市場でFIT非化石証書(再エネ指定)を調達し、既存の電力契約と組み合わせることで、実質再エネ電力として扱われる形を整えた。

あわせて、RE100の要件を満たすため、発電設備の所在地や発電量を追跡できるトラッキング情報が付与された証書であることを確認した。

A社はさらに、証書を調達した電力量について、GHGプロトコルのマーケット基準に基づくScope2排出量の算定において、実質的にゼロ排出係数として扱うことができることを確認し、CDPへの回答や統合報告書での開示に活用した。

このケースが示すように、非化石証書は、発電設備の新設や電力契約の切り替えを伴わずに、既存の電力調達構造を維持したまま環境価値を追加的に調達できる手段である点に実務上の特徴がある。

ただし、証書の購入だけでは発電設備そのものが増えるわけではないため、証書調達と並行して、自家発電設備の導入や長期の再エネ電力契約(コーポレートPPA等)を組み合わせる企業も多い。

グリーン電力証書・J-クレジットとの違い

非化石証書は、環境価値の取引に関わる他の制度としばしば混同される。共通点は「環境価値を証書化して取引可能にする」という点だが、対象とする価値の種類や、制度上の位置づけが異なる。

制度 対象とする価値 運営主体
非化石証書 非化石電源由来であることの環境価値 日本卸電力取引所(JEPX)(制度主体:経済産業省 資源エネルギー庁)
グリーン電力証書 再生可能エネルギー由来であることの環境価値 民間の認証機関(グリーンエネルギー認証センター等)
J-クレジット 省エネルギー・再エネ導入・森林吸収等による温室効果ガス排出削減・吸収量 国(経済産業省・環境省・農林水産省)

コンサルティング業務での位置づけ

論点設計(イシュー出し)

エネルギー戦略や気候変動対応関連のプロジェクトでは、クライアント企業がScope2排出量削減の手段として、非化石証書の購入、再エネ電力契約への切り替え、自家発電設備の導入のいずれを優先すべきかという論点整理が初期段階で発生する。コンサルタントは、コストと削減効果、RE100等の外部基準との整合性を踏まえ、優先順位を検討する役割を担う。

現状分析(As-Is整理)

現状分析のフェーズでは、既存の電力調達構造や電力使用量を棚卸しし、現在の電源構成に占める非化石電源比率を把握する。あわせて、非化石証書の市場価格動向や、RE100等の外部基準が求める要件との整合性を確認する作業が中心となる。

施策設計(To-Be)

施策設計の段階では、非化石証書の購入量・種類の選定、再エネ電力契約への切り替え、コーポレートPPA(Power Purchase Agreementの略。電力購入契約)の活用等、複数の選択肢を整理し、それぞれのコストとScope2排出量削減効果を試算する。

資料作成(スライド構造)

経営層向け資料では、非化石証書購入・電力契約切り替え・自家発電導入等の選択肢を、コストと削減効果の両軸で整理したマトリクスと、複数年にわたる調達計画のロードマップをセットで示す構成が定番である。選択肢ごとの特性を一枚で比較できる構造にすることで、経営層が投資判断をしやすくなる。

導入メリットと注意点

非化石証書を活用する最大のメリットは、発電設備の新設や電力契約の抜本的な見直しを行わずに、比較的短期間でScope2排出量の削減を実現できる点にある。既存の電力調達構造を維持したまま、必要な分だけ環境価値を追加的に調達できる柔軟性も利点として挙げられる。

一方で注意点も多い。第一に、証書の購入だけでは、社会全体の再エネ発電設備の拡大には直接つながらないため、追加性(新たな再エネ発電設備の導入を促す効果)の観点から限界が指摘されることがある。

第二に、証書の市場価格は需給動向によって変動するため、長期的な調達コストの見通しを立てにくい場合がある。

第三に、RE100等の外部基準によっては、認められる証書の種類や購入方法に一定の要件が課されており、自社の目的に合致する証書を選定する必要がある。

これらの点を踏まえ、実務では、証書購入を短期的な対応と位置づけつつ、中長期的には再エネ電力契約や自家発電設備の導入と組み合わせて活用することが重要とされている。

コンサル採用面接で問われる理由

コンサルティングファームの採用面接において、非化石証書という制度名そのものが直接問われる場面は多くない。しかし、エネルギー政策や企業の脱炭素戦略をテーマにしたケース面接では、電気の「モノ」としての流れと「環境価値」としての側面をどう切り分けて考えるかという論点が問われることがあり、その際に「証書によって環境価値を切り出して取引する」という発想を持っているかどうかが、回答の説得力に影響する。

単に「再エネ電力を買う」という表面的な理解にとどまらず、証書を通じた価値の切り出しという仕組みまで踏み込んで考えられると、エネルギー政策関連の議論に厚みを持たせやすくなる。

この構造を内面化した思考は、ケース解答における論理展開の質を高める。高度化法の条文や証書の取引ルールの細目まで暗記して面接で披露する必要があるわけではなく、電気の物理的な流れと環境価値を切り分けて考えるという発想の骨格をおさえておけば、面接官との議論の中で自然に応用できる知識基盤となる。

FAQ

Q1. 非化石証書とは、どのような制度か。

非化石証書とは、石炭・石油等の化石燃料を使わない非化石電源から発電された電気が持つ環境価値を、電気そのものと切り離して証書化し、取引可能にした制度である。

英語表記はNon-Fossil Fuel Energy Certificateであり、2009年制定の高度化法に基づき、小売電気事業者の非化石電源比率44%(2030年度目標)達成を後押しする目的で、2018年5月に非化石価値取引市場が開設された。2021年11月には需要家が直接購入できる「再エネ価値取引市場」も創設されている。

Q2. 非化石証書とグリーン電力証書・J-クレジットとは、何が違うのか。

最も大きな違いは、対象とする価値の種類と運営主体にある。非化石証書は、日本卸電力取引所が運営する市場で取引される、非化石電源由来であることの環境価値である。

グリーン電力証書は、民間の認証機関が発行する再生可能エネルギー由来であることの環境価値であり、J-クレジットは、国が認証する温室効果ガスの排出削減・吸収量そのものを対象とする制度である。いずれも環境価値を証書化する点で共通するが、対象範囲や運営主体、活用できる制度上の位置づけが異なる。

Q3. 非化石証書は、どのような手順で調達するのか。

実務における一般的な手順は、まず自社の電力使用量とScope2排出量を把握し、削減目標に対して非化石証書の購入がどの程度必要かを試算することから始まる。

次に、自らJEPXの会員となって再エネ価値取引市場に直接参加する方法と、契約中の小売電気事業者やアグリゲーターによる代理購入サービスを利用する方法のいずれかを選び、オークション形式でFIT非化石証書等を調達する。

調達した証書量に応じて、GHGプロトコルのマーケット基準に基づきScope2排出量の算定における排出係数を調整し、CDPや統合報告書等での開示に反映させる。

Q4. コンサルティングプロジェクトでは、非化石証書はどのように扱われているのか。

コンサルティングの現場では、クライアント企業のScope2排出量削減戦略を検討する際に、非化石証書の購入と再エネ電力契約・自家発電導入等の選択肢を比較検討する場面でこの制度が参照される。

また、RE100等の外部基準が求める要件を踏まえ、購入すべき証書の種類や量を整理し、複数年にわたる調達計画の策定を支援する役割を担うこともある。

Q5. 非化石証書について、どのような誤解が生じやすいのか。

よくある誤解のひとつは、非化石証書を購入すれば、購入した電力量に相当する再エネ発電設備が新たに整備されると考えてしまうことである。実際には、証書の購入は既存の非化石電源が持つ環境価値を取引するものであり、新規の発電設備の増設に直接つながるとは限らない。

もうひとつの誤解は、非化石証書とグリーン電力証書が同一の制度であると考えてしまうことである。実際には、両者は運営主体も対象範囲も異なる別個の制度であり、活用目的に応じて使い分ける必要がある点に留意する必要がある。

Q6. 非化石証書の価格は、どのように決まるのか。

非化石証書の価格は、オークションを基本とした市場取引を通じて形成される。再エネ価値取引市場では、参加者の入札額に基づき価格が決まるが、市場運営上、最低価格・上限価格といった一定の制度設計上の枠組みも設けられており、完全に自由な価格形成というわけではない。

需給動向や再エネ電力への関心の高まりによって価格は変動し得るため、調達コストの予測には一定の不確実性が伴う点に留意が必要である。

まとめ(実務整理)

非化石証書は、石炭・石油等の化石燃料を使わない非化石電源から発電された電気が持つ環境価値を、電気そのものと切り離して証書化し、取引可能にした制度である。

2009年制定の高度化法を背景に、2018年の市場開設、2021年の需要家向け市場創設を経て、企業のScope2排出量削減やRE100参加を後押しする実務的な手段として活用が広がってきた点に実務上の意義がある。

グリーン電力証書やJ-クレジットとは、対象とする価値の種類や運営主体が異なる点を理解しておくと、環境価値取引に関する議論の見取り図がつかみやすくなる。

コンサルティング業務との関係でいえば、証書購入・電力契約切り替え・自家発電導入という複数の選択肢を、コストと効果の両面から比較する視点が、エネルギー戦略関連プロジェクトにおいて参考になる。

採用面接との関係でいえば、制度の細部を暗記する必要はなく、電気の物理的な流れと環境価値を切り分けて考えるという発想の骨格をおさえておけば、十分な知識基盤となる。

出典

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