ESGスクリーニング
数ある投資先候補の中から、どのような基準で銘柄を選別すべきか。この問いに対する古典的な手法の一つが、ESGスクリーニングである。環境・社会・ガバナンスの観点から投資対象を絞り込むこの手法は、宗教的な倫理観に基づく投資選別を起源とし、2000年代以降のESG投資の拡大とともに国際的な定義の整備が進められてきた。
日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF:Government Pension Investment Fund)等の大手機関投資家がESGを考慮した運用を拡大する中、コンサルティング業界においてもこの手法への理解が実務上求められる場面が増えている。
ESGスクリーニングとは
ESGスクリーニングは、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)とScreening(選別・ふるい分け)を組み合わせた用語であり、一定の基準に基づいて投資対象企業を選別する手法を指す。
この手法の源流の一つは、1920年代に欧米の宗教団体などが宗教的・倫理的価値観に基づき、酒・たばこ・ギャンブル・武器などの関連企業を投資対象から除外したことにあるとされ、社会的責任投資(SRI:Socially Responsible Investment)の源流の一つとされている。近代的なSRIの代表例としては、1971年に米国で設立されたPax World Fund(パックス・ワールド・ファンド)が挙げられ、ベトナム戦争関連の兵器製造企業を投資対象から除外したことで知られる。
一方、ESGという用語自体は、2004年に国連グローバル・コンパクト(UNGC:United Nations Global Compact)のもとでまとめられた報告書「Who Cares Wins」で広く知られるようになったとされている。
なお、ESG投資という用語の前身にあたる社会的責任投資(SRI)は、欧米において宗教団体・労働組合・政府機関等が関与しながら発展してきたとされ、当初から環境・社会・ガバナンスへの配慮を投資判断に取り入れるという発想を内包していた。ESGという用語が2004年の報告書で広く知られるようになった後、2006年には国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクトの支援のもとで責任投資原則(PRI)が発足し、機関投資家がESG要素を投資プロセスに組み込む動きが広がった。
世界持続可能投資連合(GSIA:Global Sustainable Investment Alliance)の従来のサステナブル投資分類では、ネガティブ・スクリーニング、規範に基づくスクリーニング、ポジティブ/ベストインクラス・スクリーニングなどが整理されてきた。
一方、2023年にはCFA Institute・GSIA・PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)が責任投資アプローチの用語を調和し、「スクリーニング」「ESGインテグレーション」「テーマ投資」「スチュワードシップ」「インパクト投資」の5つのアプローチとして定義を整理しており、この整理におけるスクリーニングは「定義された基準に基づきルールを適用し、投資が許容されるかどうかを判断すること」とされている。2021年に証券監督者国際機構(IOSCO)が資産運用業界全体で一貫性のある用語・定義を策定する必要性を指摘したことが、この調和の背景にある。
| 種類 | 概要 | 具体例 |
|---|---|---|
| ネガティブ・スクリーニング(除外) | 特定のESGの観点から、一定の業種・企業・活動を投資対象から除外する | たばこ・アルコール・ギャンブル・武器関連企業の除外 |
| 規範に基づくスクリーニング | 国連・OECD等が策定する国際規範の最低基準を満たさない企業を除外する | 児童労働・強制労働に関与する企業の除外 |
| ポジティブ/ベストインクラス・スクリーニング | 同業種の中でESG評価が相対的に高い企業・活動を投資対象として組み入れる | 業種内でESG評価上位の企業への重点投資 |
具体例・ミニケース
具体例として、年金基金Xが保有株式ポートフォリオにESGスクリーニングを適用するケースを想定する。Xはまず、たばこ製造や対人地雷等の非人道的兵器の製造に一定割合以上関与する企業を投資対象から除外するネガティブ・スクリーニングの基準を設定した。
次に、除外後のユニバース(投資対象候補群)の中から、ベストインクラス型のポジティブ・スクリーニングとして、業種ごとにESG評価が相対的に高い企業を選別し、最終的な組入れ銘柄を決定した。このように、複数のスクリーニング手法を組み合わせて投資方針を具体化する点が、ESGスクリーニングの実務における具体像である。
ESGスクリーニングとESGインテグレーション・インパクト投資との違い
ESGスクリーニングは、ESG要素を投資判断に取り込む他の手法とは、目的やアプローチにおいて性質が異なる。以下の比較表は、2023年にPRI・CFA協会・GSIAが調和した責任投資アプローチの定義に基づき、それぞれの手法が持つ役割の違いを整理したものである。
| 概念・手法 | 主な目的 | 主な手法 | 2023年の責任投資アプローチにおける位置づけ |
|---|---|---|---|
| ESGスクリーニング | 一定の基準に基づき投資対象を選別・除外する | 除外、規範に基づく除外、ポジティブ等 | Screening(スクリーニング) |
| ESGインテグレーション | 財務分析にESG要素を体系的に組み込む | ESG情報を投資分析・意思決定プロセスに組み込む | ESG integration(ESGインテグレーション) |
| インパクト投資 | 財務的リターンとともに社会・環境へのポジティブな影響を生み出す | インパクトを意図し、測定可能な形で追求する投資 | Impact investing(インパクト投資) |
| エンゲージメント・議決権行使 | 投資先企業との対話や議決権行使を通じ行動変容を促す | 対話・株主提案・議決権行使 | Stewardship(スチュワードシップ) |
コンサルティング業務における位置づけ
論点設計(イシュー出し)
ESGスクリーニングの導入検討における論点設計では、ネガティブ・スクリーニング、規範に基づくスクリーニング、ポジティブ・スクリーニングのうちどの手法を採用するか、また除外基準や評価基準をどこまで厳格に設定するかという論点を整理することが起点となる。基準の厳格さと運用の柔軟性・分散投資効果とのバランスをどう取るかが、実務上の重要な論点となる。
現状分析(As-Is整理)
現状分析フェーズでは、既存の投資ポートフォリオにおけるESGスクリーニングの適用状況を棚卸しし、利用しているESG評価機関の評価手法や評価対象範囲を確認する。評価機関によって評価結果が異なる場合があるため、複数の評価データを比較し、その差異の要因を把握することが実務上の要点となる。
施策設計(To-Be)
施策設計フェーズでは、採用するスクリーニング手法の組み合わせ、除外基準・組入れ基準の具体的な設計、モニタリング体制の構築を行う。あわせて、スクリーニングの適用によってポートフォリオの分散投資効果がどの程度影響を受けるかを試算し、リスク管理上の許容範囲を確認することも重要である。
資料作成(スライド構造)
資料作成においては、①エグゼクティブサマリー、②採用するスクリーニング手法とその根拠、③除外基準・組入れ基準の一覧、④ポートフォリオへの影響試算、⑤モニタリング体制、という構成が一例として考えられる。意思決定者が短時間で判断できるよう、各スライドの冒頭に結論を配置する構成が重視される。
ESGスクリーニングのメリットと注意点
ESGスクリーニングのメリットは、投資家や資産保有者の価値観・規範を投資方針に反映しやすい点、他のESG投資手法と比較して基準の設計や運用の仕組みが比較的シンプルである点にある。
一方で注意点としては、除外基準を厳格に設定しすぎるとポートフォリオの分散投資効果が損なわれる可能性があること、ESG評価機関によって評価結果が異なるため評価のばらつきが生じうること、スクリーニングは投資対象の選別を主な手段とするため、投資先企業との対話や議決権行使を通じて行動変容を促すスチュワードシップとはアプローチが異なることが挙げられる。
GPIFの経営委員会資料でも、ネガティブ・スクリーニングの手法を含む指数を選定する場合には、分散投資効果が損なわれることや、事実上のダイベストメント(投資撤退)とみなされることを避ける観点から、選定根拠が経済合理性に立脚したものであることを確認する必要があるとされている。
コンサル採用面接で問われる理由
面接官がESGスクリーニングという用語そのものを直接・ダイレクトに問うことは少ない。ただし、サステナブル経営やアセットマネジメントを扱うケース面接では、「投資基準をどのように設計すべきか」といった問いが出題されることがあり、除外基準と分散投資効果のトレードオフを整理する視点はケース解答の質を高める。
背景にある考え方を理解しておくと、論理展開に説得力が生まれる。用語やフレームワーク名を暗記する必要はなく、概要と考え方の骨格をおさえておけば十分な知識基盤となる。
FAQ
Q1. ESGスクリーニングとは何か。
ESGスクリーニングとは、環境・社会・ガバナンスの観点から一定の基準を設け、投資対象とする企業や除外する企業を選別する投資手法である。GSIAの従来の分類では、特定の業種・企業を除外するネガティブ・スクリーニング、国際規範の最低基準を満たさない企業を除外する規範に基づくスクリーニング、同業種内でESG評価の高い企業を組み入れるポジティブ・スクリーニングの3手法に整理されてきた。
この手法の源流の一つは1920年代の欧米における宗教的価値観に基づく投資選別に遡るとされ、ESGという用語自体は2004年の国連の報告書「Who Cares Wins」で広く知られるようになったとされている。
Q2. ESGスクリーニングとESGインテグレーションの違いは何か。
ESGスクリーニングとESGインテグレーションの最大の違いは、ESG要素を投資判断にどのように組み込むかにある。ESGスクリーニングは、あらかじめ定めた基準を投資ユニバースに適用し、投資対象に含めるか、除外するかを判断する手法である。
一方でESGインテグレーションは、既存の財務分析プロセスの中にESG要素を体系的に組み込み、個別銘柄の評価やバリュエーションに反映させる手法であり、投資対象を除外することを前提としない点が異なる。両者は排他的なものではなく、実務上は組み合わせて用いられることも多い。
Q3. ESGスクリーニングの使い方・フェーズ別に活用されるツールは何か。
ESGスクリーニングは、基準設計から運用・モニタリングまでを段階的に進める手順として実務上活用される。特定のツールが一律に決まっているわけではなく、基準設計フェーズでは国際規範やGSIAの分類を参照した除外基準の整理、評価フェーズではESG評価機関が提供するレーティングデータ、銘柄選定フェーズではポートフォリオ分析システム、運用後のモニタリングフェーズではポートフォリオのESG評価の推移を追跡するデータ基盤など、目的に応じてツールを組み合わせることが実務上の要点となる。
Q4. コンサルティング業界ではESGスクリーニングはどのように実務活用されるか。
コンサルティング業務では、ESGスクリーニングを導入・見直す際に、除外基準や組入れ基準の設計、複数のESG評価機関のデータ比較・検証、ポートフォリオへの影響分析、投資方針の文書化支援などを論点として整理することがある。
Q5. ESGスクリーニングに関するよくある誤解は何か。
ESGスクリーニングに関するよくある誤解の一つは、除外基準を厳格に設定するほどESGへの取り組みとして優れているという理解である。実際には、除外基準を厳格にしすぎるとポートフォリオの分散投資効果が損なわれ、リスク管理上の課題が生じる場合がある。
また、ESGスクリーニングを導入すれば投資先企業の行動が自動的に改善されるという誤解も見られるが、実務上は投資先企業への直接的な働きかけを伴うエンゲージメント・議決権行使とは異なる手法であり、両者を組み合わせて活用する視点が重要である。
Q6. ESGスクリーニングに関する国際的な用語整理の動きはどのようなものか。
ESGスクリーニングをめぐっては、投資手法の定義が国・団体によって異なるという課題があり、国際的な用語整理の動きが進んでいる。2021年に証券監督者国際機構(IOSCO)が、資産運用業界全体で一貫性のある用語・定義を策定する必要性を指摘したことを受け、CFA協会・GSIA・PRIの三者が責任投資用語の調和に合意し、2023年11月には「スクリーニング」「ESGインテグレーション」「テーマ投資」「スチュワードシップ」「インパクト投資」という5つの責任投資アプローチとして定義を整理した。
日本では、GSIAの構成団体である日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)がこうした国際的な定義整理の内容を日本語で紹介しており、国内の実務にも今後反映されていくことが見込まれる。
まとめ(実務整理)
ESGスクリーニングは、環境・社会・ガバナンスの観点から投資対象を選別する手法であり、ネガティブ・スクリーニング、規範に基づくスクリーニング、ポジティブ・スクリーニングという複数のアプローチを含む概念である。コンサルティング業務においては、基準設計からポートフォリオへの影響分析に至るまで幅広い工程でESGスクリーニングの視点が参考になる。
転職・キャリア形成の観点では、ESGスクリーニングという用語そのものを暗記することよりも、除外基準と分散投資効果のトレードオフを踏まえて投資方針を設計するという発想を理解しておくことが、実務理解や面接での論理展開において役立つ知識基盤となるだろう。
出典
- 投資残高調査2023版説明会「責任投資『定義レポート』(PRI/CFA協会/GSIA, 2023.11)」|日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)
https://japansif.com/240422b.pdf - 第46回経営委員会議事概要「ESG指数選定における実務指針」|年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
https://www.gpif.go.jp/operation/keieiiinkai4603.pdf
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