株主提案(権)
なぜ株主は、経営陣が用意した議案を承認するだけの立場にとどまらないのか。この問いへの答えの一つが、会社法が定める株主提案権である。
近年は、アクティビスト(物言う株主:投資先企業の経営改善を積極的に要求する株主)を含む機関投資家等による株主提案が高い水準で推移している。大和総研の調査によれば、2026年6月株主総会シーズン全体では株主提案を受けた企業が139社(前年と概ね同水準)にのぼり、うちアクティビスト投資家等による提案は73社と過去最多を更新した。
こうした動きを背景に、コーポレートガバナンス(企業統治)の文脈での株主提案権への関心が高まっている。M&Aアドバイザリーやガバナンス関連のプロジェクトに携わるコンサルタントにとっても、株主総会対応やリスク分析を行ううえで、株主提案権の仕組みを理解しておくことは実務上の基礎知識の一つといえる。
株主提案(権)とは
株主提案権(英:shareholder proposal right)とは、会社法第303条から第305条に基づき、株主が株主総会において特定の事項を議題とすること、または具体的な議案を提出することを会社に求めることができる権利の総称である。単一の条文で定められた権利ではなく、性質の異なる3つの権利から構成される点が特徴である。
第一に、議題提案権(303条)は、一定の事項を株主総会の目的(議題)とするよう取締役に請求する権利である。第二に、議案提出権(304条)は、株主総会において、既に目的となっている事項について自ら議案を提出する権利である。第三に、議案要領通知請求権(305条)は、自らが提案する議案の要領を、株主総会の招集通知に記載するよう請求する権利である。実務で「株主提案」として報道・注目されるのは、主にこの議案要領通知請求権の行使を指すことが多い。
行使には議決権要件がある。取締役会設置会社では、総株主の議決権の1%以上、または300個以上の議決権を、6か月前から継続して保有する株主が、株主総会の8週間前までに請求する必要がある(定款でこれらの要件を緩和することは可能)。もっとも、非公開会社(株式の譲渡制限がある会社)では、6か月の保有期間要件は適用されない。取締役会を設置していない会社では、303条・305条について1%または300個といった少数株主権の要件は設けられておらず、単独株主権として行使できる。
なお、令和元年(2019年)に成立した改正会社法(令和元年法律第70号、2021年3月1日施行)により、株主提案権の濫用的な行使が問題となったことを背景に、議案要領通知請求権を行使して提出できる議案の数について見直しが行われた。
具体的には、会社法305条4項により、1人の株主が提出しようとする議案が10個を超える場合、その超過分については同条の規定(招集通知への記載請求権)が適用されないという仕組みが設けられている。議案提出権(304条)そのものが10個に制限されるわけではない点には注意が必要である。
さらに、議案提出権・議案要領通知請求権については、法令・定款に違反する議案や、過去3年以内に実質的に同一の議案について総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった場合など、会社側が取り扱いを拒むことができる場合がある(304条ただし書・305条4項〜6項)。
株主提案権制度は、昭和56年(1981年)の商法改正によって、少数株主権として新設された制度である。制定当初から一定の議決権数を要件とすることの是非については議論があり、その後の実務・学説の蓄積を経て、平成17年(2005年)制定の会社法に引き継がれている。
制度創設から40年以上が経過した現在も、議決権300個という要件や株主提案権の行使の在り方をめぐる議論は続いている。2026年3月には、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会が「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」を取りまとめ、株主提案権の議決権数要件の見直しを含む審議が進められている。
| 権利の種類 | 根拠条文 | 内容 | 主な行使要件 |
|---|---|---|---|
| 議題提案権 | 会社法303条 | 一定の事項を株主総会の目的とするよう請求 | 取締役会設置会社では1%以上または300個以上+原則6か月保有(非公開会社は保有期間要件なし) |
| 議案提出権 | 会社法304条 | 株主総会の目的事項について議案を提出 | 持株数・保有期間の要件なし。ただし法令・定款違反等は拒絶対象 |
| 議案要領通知請求権 | 会社法305条 | 議案の要領を招集通知に記載するよう請求(10議案まで) | 議題提案権と同様の要件 |
具体例・ミニケース
議案要領通知請求権の代表的な活用例としては、機関投資家が、内部留保の水準に対して配当性向の引き上げ(増配)を求める議案を提出するケースが挙げられる。こうした提案は、会社の資本政策や株主還元方針に一石を投じるものとして、株主総会での賛否だけでなく報道でも注目されやすい。
また、環境・社会課題への関心の高まりを背景に、特定の事業からの撤退や情報開示の強化を求める議案が、NGOや個人株主から提出される例もある。可決に至らない場合でも、一定の賛成率を集めることで、経営陣への実質的な牽制(けんせい)として機能することがある。
一方、議題提案権や議案提出権は、総会当日の会場で行使される議案提出権(304条)のように、要件を満たせば単独の株主でも行使できる場面がある。少数株主による経営陣への質問・意見表明の延長として活用されるケースも見られる。
さらに、取締役の選任や報酬に関する議案が、株主提案として提出されるケースも近年増えている。既存の取締役会が提案する候補者とは別に、株主側が独自の取締役候補を提案する対抗的な事例もあり、こうした提案は経営陣の交代を巡る攻防として、投資家やメディアから強い関心を集めやすい。可決に至らなくても、会社側が株主の問題意識を把握する契機となり、その後の対話や経営方針の検討に影響する場合がある。
株主提案権と混同されやすい株主の権利との違い(比較表)
株主提案権は、株主が経営に関与するための権利の一つに過ぎない。株主総会招集請求権や株主代表訴訟提起権など、目的や要件が異なる他の少数株主権と混同されやすいため、整理しておく必要がある。
| 権利 | 目的 | 議決権・株式要件 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 株主提案権 | 総会の議題・議案を株主自ら提案する | 1%以上または300個以上(公開会社では原則6か月保有) | 303条~305条 |
| 株主総会招集請求権 | 株主自ら株主総会の招集を求める | 3%以上(公開会社では原則6か月保有) | 297条 |
| 会計帳簿閲覧請求権 | 会社の会計帳簿・資料を閲覧・謄写する | 議決権または発行済株式の3%以上(保有期間要件なし) | 433条 |
| 株主代表訴訟提起権 | 取締役等の責任を追及する訴えを起こす | 単独株主権(公開会社では原則6か月保有) | 847条 |
コンサルティング業務における位置づけ
ガバナンス関連のプロジェクトやIR(Investor Relations:投資家向け広報)支援において、株主提案権への理解は、株主総会対応やリスク評価の基盤となる。以下の4つの観点で整理すると、プロジェクトにおける論点が明確になる。
論点設計(イシュー出し)
まず整理すべき論点は「自社の株主構成の中に、株主提案を行い得る要件を満たす株主が存在するか」「過去の総会で、賛成率の高い否決議案があったか」である。これらを起点に、想定される提案のテーマ(配当政策、取締役選任、気候変動対応など)を洗い出す。あわせて、複数の論点が絡む場合には、どの論点が経営に与える影響が大きいかという優先順位づけも、この段階で行っておく必要がある。
現状分析(As-Is整理)
次に、直近数期分の株主総会における議決権行使結果、機関投資家の議決権行使方針(議決権行使助言会社の推奨基準を含む)、株主構成の変化を棚卸しし、株主提案が行われた場合の想定賛成率を分析する。特に、海外機関投資家の保有比率が高い企業では、議決権行使助言会社の推奨結果が機関投資家の議決権行使に影響する可能性があるため、個別に精査することが望ましい。
施策設計(To-Be)
現状分析をもとに、株主提案がなされた場合の会社側の対応方針(拒絶事由に該当するかの法的検討、反対理由の説明資料の準備など)を設計する。取締役会、経営陣、IR・法務等の社内関係部門の連携体制を事前に整理しておくことも、この段階の論点となる。あわせて、提案内容が経営上妥当な指摘を含む場合には、拒絶一辺倒ではなく、自主的な施策として取り込む選択肢も検討の対象となる。
資料作成(スライド構造)
最後に、想定問答集や、株主総会参考書類に記載する会社側の意見を整理した資料に落とし込む。提案の背景・論点・会社としての対応方針を一目で把握できる構成にすることが、経営陣への説明資料として重要になる。図表やタイムラインを用いて、提案から総会当日までのスケジュールを可視化しておくことも、経営陣の意思決定を助ける実務上の工夫である。
コンサル採用面接で問われる理由
コンサルティングファームの採用面接において、株主提案権の条文番号や要件そのものを詳細に問われる場面は多くない。むしろ重要なのは、ガバナンスやM&A関連のケースを検討する際に、株主という利害関係者の視点を論理展開に組み込めるかどうかという点である。
ケース面接との接点としては、企業の資本政策や経営改革に関するケースで、「株主がどのような行動を取り得るか」という視点を加えることで、分析に厚みが生まれる。これは、ステークホルダー(利害関係者)を網羅的に捉える思考の一環として評価されやすい。
思考法としての位置づけでいえば、株主提案権の細かな条文知識を暗記する必要はない。むしろ、株主という主体が経営にどう関与し得るかという構造を理解しておくことが、コーポレートガバナンスに関する論理展開に説得力を与える。概要と考え方の骨格をおさえておけば、十分な知識基盤になるといえるだろう。
FAQ
Q1. 株主提案(権)とは具体的に何を指すのか。
株主提案権とは、会社法303条から305条に基づき、株主が株主総会の議題や議案を会社に提案できる権利の総称である。議題提案権(303条)、議案提出権(304条)、議案要領通知請求権(305条)という3つの権利から構成される。
取締役会設置会社では、総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権を6か月以上保有する株主が、株主総会の8週間前までに行使できる(非公開会社では6か月の保有期間要件は適用されない)。これらの要件は定款で緩和することも可能である。令和元年改正により、議案要領通知請求権で提出できる議案は10個までとされ、法令・定款に違反する議案や過去に否決された議案と実質的に同一の議案は拒絶の対象となる。
Q2. 株主提案権と株主総会招集請求権はどう違うのか。
株主提案権は、既に予定されている株主総会に対して議題・議案を追加する権利である。これに対し株主総会招集請求権(297条)は、株主自らが臨時株主総会の開催そのものを求める権利であり、議決権要件も総株主の議決権の3%以上(公開会社では原則6か月保有)と、株主提案権より高く設定されている。
株主提案権は既に予定されている株主総会に議題・議案を持ち込む制度であるのに対し、株主総会招集請求権は株主総会そのものの招集を求める制度であり、両者は目的と手続が異なる。株主が実現したい目的(既存の総会で意見を反映させたいのか、総会自体の開催を主導したいのか)に応じて、いずれの権利を用いるかが使い分けられる。
Q3. 株主提案権を行使する場合、どのような手順を踏むべきか。
行使の手順としては、まず自社が議決権要件(取締役会設置会社では総株主の議決権の1%以上または300個以上。公開会社ではこれを6か月以上継続して保有していること)を満たしているかを確認する。
次に、提案する議題・議案の内容を整理し、法令・定款に違反しないか、過去3年以内に実質的に同一の議案が否決されていないかを確認する。そのうえで、株主総会の8週間前までに、書面または電磁的方法で会社(取締役)に対して請求を行う。議案要領通知請求権を用いて複数の議案を検討する場合は、10個を超える部分については請求が認められないため、優先順位をつける必要がある。
請求後は、会社側から拒絶事由の有無について確認や照会が行われることもあるため、想定される論点への回答をあらかじめ準備しておくと、手続きがスムーズに進みやすい。
Q4. コンサルティング業務で株主提案権はどのように活用されているか。
ガバナンス・IR支援の実務では、コンサルタントが株主構成分析や議決権行使助言会社の推奨基準の調査を通じて、株主提案が行われる可能性やその内容を事前に想定する形で活用されている。株主提案がなされた場合には、会社側の反論資料や想定問答の作成を支援することもある。
株主提案数が高い水準で推移する中、アクティビストを含む株主提案への対応方針策定に関する支援ニーズは高まっている。あわせて、提案内容を単なるリスクとして扱うのではなく、株主が指摘する論点を踏まえた自主的な施策の検討材料として活用する企業も増えている。
Q5. 株主提案権についてよくある誤解は何か。
代表的な誤解の一つは、「株主提案が可決されれば、その内容が必ず実行される」というものである。実際には、決議事項の性質によって普通決議・特別決議など必要な賛成割合が異なり、可決されても、提案内容や決議の法的性質によって、具体的な実施方法や手続きについて会社側の対応が必要となる。
また「議決権300個あれば誰でも自由に何度でも提案できる」という誤解もあるが、実際には法令・定款違反や過去の否決実績による拒絶事由があり、令和元年改正以降は議案要領通知請求権について提出できる議案も10個までとされている点には注意が必要である。
さらに、「株主提案は敵対的な行動である」という一面的な見方も誤解を招きやすい。株主提案には、資本政策、事業ポートフォリオ、ガバナンス、情報開示など、企業価値向上に関わる論点が含まれる場合もあり、提案の内容を精査せずに一律にリスクとして扱うことは、実務上望ましいとはいえない。
Q6. 株主提案は会社側が拒否できるのか。
会社は、株主提案の内容が一定の拒絶事由に該当する場合、その取り扱いを拒むことができる。具体的には、提案内容が法令・定款に違反する場合や、過去3年以内に実質的に同一の議案について総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった場合が該当する。これらの拒絶事由は、議案要領通知請求権(305条)だけでなく、議案提出権(304条ただし書)にも同様に定められている。
また、令和元年改正以降は、会社法305条4項により、1人の株主が議案要領通知請求権を行使して提出しようとする議案が10個を超える場合、その超過分について同条の規定が適用されない仕組みが設けられている(この上限は議案要領通知請求権に固有のものであり、議案提出権そのものを10個に制限するものではない)。
なお、議案提出権は株主総会の会場で当日行使されるものであり、事前の招集通知への記載を伴うのは議案要領通知請求権のみである。株主・会社のいずれの立場であっても、拒絶事由に該当するかどうかの法的な判断は、専門家への確認を要する場面が多い。
まとめ(実務整理)
株主提案権は、会社法303条から305条に基づき、株主が株主総会の議題や議案を提案できる権利の総称であり、議題提案権・議案提出権・議案要領通知請求権という性質の異なる3つの権利から構成される。行使には議決権要件や期限があり、令和元年改正により議案数の上限(10個)も設けられている。
ガバナンス関連のプロジェクトに携わるコンサルタントにとっては、株主構成分析や総会対応の論点整理に役立つ考え方であり、理解しておくと実務での引き出しが増えるだろう。特に、機関投資家の議決権行使方針や議決権行使助言会社の推奨基準まで踏み込んで把握しておくことは、株主提案がなされた場合の賛否の見通しを立てるうえで実務上の参考になる。
採用面接との関係でいえば、条文の詳細を暗記する必要性は高くなく、株主という利害関係者の視点を論理展開に組み込める程度の知識基盤があれば十分といえる。
出典
- 法務省「会社法の一部を改正する法律について」:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00001
- e-Gov法令検索「会社法(平成十七年法律第八十六号)」:https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 株式会社大和総研「2026年6月株主総会シーズンの総括」:https://www.dir.co.jp/report/consulting/investor-engage_ir-sr/20260820_025992.html
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