クロスフィールズ × コンコード 出版記念対談

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『ビジネスエリートへのキャリア戦略』の出版記念企画として、NPO法人クロスフィールズの小沼大地代表をお招きし、コンコードエグゼクティブグループ代表の渡辺が対談を行ないました。

新興国への「留職」プログラムを展開し、今日本で最も注目を集めるNPOのひとつであるクロスフィールズ。 同NPO代表の小沼氏は、一橋大のラクロス部で弊社代表・渡辺の後輩にあたります。 さらに、弊社取締役の杉浦がクロスフィールズの理事をつとめているという関係でもあります。

そのような親しい間柄の二人がざっくばらんに想いを語り合う本対談では、現代の起業家が考える「キャリアの本音」が飛び交います。

弱冠、28歳でNPOを創業した小沼代表は、どのようにして現在のキャリアをつくったのか? 渡辺が起業するリスクを冒してまでも、手に入れたかったものとは何だったのか?

「好きなことで、恵まれた収入を得ながら、社会に大きなインパクトをもたらす」という“ビジネスエリート”を目指す皆さんのキャリア設計に役立つ話が満載です。

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#1 教師志望だった小沼代表がNPOを創業した理由

渡辺:
まずは、小沼君のキャリアについてお話してもらえればと思います。

小沼:
学生時代は渡辺さんと同じく、一橋大でラクロスをやって、4年時は主将をやっていました。
ポジションも渡辺さんと同じゴーリー(ゴールキーパー)をしていました。
ラクロス部20周年の行事の関係で渡辺さんとお会いしてお付き合いさせていただくようになりました。

渡辺:
大学を卒業した後は何をしたの?

blank小沼:
就職活動をほとんどせずに、青年海外協力隊にいきました。
中東のシリアに行き、現地の小学校向けに環境教育のプログラムを起ち上げる活動を2年間したのが、社会人としての最初のキャリアでした。

渡辺:
それって一橋大では、ものすごく珍しいよね(笑)。

小沼:
そうですね(笑)。

渡辺:
なぜ就活しないで、いきなりそういう世界に行こうと思ったの?

小沼:
もともと、学校の先生になるつもりで、教員免許も取っていました。
ただ、社会を見ずに教師になるのが嫌で、何かしら社会経験を積みたいと考えていました。折角であれば、「おもしろいオッサンになったな」と自分が思える経験をしたくて、会社員になるよりもちょっと変わったことをやりたいと考えていました。
そのようなときに、電車のつり革広告に青年海外協力隊の募集を見つけて、「これだ!」と感じて、思い切ったキャリアを選びました。

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渡辺:
そうだったんだ。面白いねえ。もともと、海外の活動に関心あったの?

小沼:
はい。大学時代は、部活のオフはバッグパッカーをしていて、東南アジアに旅行していました。
でも、部活のオフは一ヶ月しかないので、現地の人と仲良くはなれるんですけど、ケンカをできるほどは親しくなれません。もう少し海外の人と、ガツガツやりあうような経験をしてみたいと思ったこともあり、それが協力隊という進路につながりました。

渡辺:
それは思い切ったね!協力隊にいったときは、教員になろうと思っていたんだね。

小沼:
中高の部活の顧問をやりたいなと考えていました。

渡辺:
協力隊に行ってみてどうでした?

小沼:
社会貢献の世界で2年間を過ごしてみて、その世界とビジネスの世界が繋がるんじゃないのか…ということを考えるようになりました。
僕が現地で所属していたNPOに、2名のローランドベルガーのコンサルタントが、ドイツから一年間出向してきていました。
「そんなエリートのコンサルタントが来て、何をやるんだ?」と思っていたら、彼らがビジネスで培った力を使って問題解決することで、NPOの状況がどんどんよくなっていきました。
問題解決する力は、とても価値があるんだと感じました。
また、そのビジネスエリートたちは、すごく楽しそうに仕事をしていました。
「自分が今までのキャリアで培ったスキルや経験が現地の人たちの役に立ち、『ありがとう』と言ってもらえて、とても嬉しい」と。
そのとき、輝かしいビジネスエリートの世界と社会貢献の世界とがオーバーラップした気がしました。

渡辺:
なるほどなぁ。そこが原点だったんだね。

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小沼:
そんな経験をした後、日本に帰ってきました。
ところが、日本に帰ってくると、同世代の友人たちがゴルフと合コンの話しかしていない(一同笑)。
もともと熱かった大学時代の友人たちが、魂を抜かれた遊び人のように僕の目には映ってしまいました。
「お前ら目を覚ませ!」っていう気持ちが、僕の起業に対する熱い想いへとつながっていきました。
学校教育よりも、僕が目の前で見ている同世代の人たちに働きかける教育をやりたいと思うようになったのです。

渡辺:
大人向けの教育が必要だと。

小沼:
その大人の教育で何をやるかと言うと、あのドイツ人コンサルタントみたいにNPOの世界にどっぷり浸かって、そこで社会に対してガツンと貢献すれば、その経験で人は変わるだろうと。
それが今やっている事業に繋がっています。

渡辺:
日本に戻ってきてから、マッキンゼーに行こうと思ったのは、やはりローランドベルガーの人と出会ったからなの?

小沼:
そうです。ローランドベルガーの方に、社会貢献の世界とビジネスをつなぐ仕事がしたいと話しました。社会貢献の世界にいたので、次はビジネス界でのキャリアを積みたいと。
「何をしたら、ビジネススキルが身につくんですか?」と聞いたら、「コンサルタントになれば、すごいスピードでビジネスの道を進んでいける」と言われました。
その教えに従って、帰国してすぐにマッキンゼーに応募して、無事受かることができて入ることになりました。
ですので、まさにシリアのときの経験が、その後の自分のキャリアを作っていったということになります。

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#2 小沼代表が描いたキャリア戦略とは?

渡辺:
なるほど。では、ずっとコンサルタントをやろうと思ってマッキンゼーに行ったのではなく、将来は二つの世界を繋ぐような事業をやろうと思って入社したんだね。

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小沼:
そうですね。起業するかどうかまでは分かりませんでしたが、この二つの世界を繋ぐような何かしらの活動をやりたいと思っていました。
自分が起業するか分からないですし、それをNPOの世界からやるのか、ビジネスの世界からやるのかも分かりませんでした。
ただ、そういったことをやりたいんで、マッキンゼーには3年間くらいかなと腹をくくって入社しました。

渡辺:
自分のビジョンを見据えて、キャリアを選んでいくという発想を持っていたんだね。
マッキンゼーを離れようと思ったのは、何年くらい経ってから?

小沼:
3年で辞めようと初めから決めていた面もありましたが、具体的に退職後のことを意識したのは2年目の後半くらいからです。
2年目の半ばくらいにアメリカに半年間行く研修があって、そのときにサンフランシスコに行きました。
すると、そのサンフランシスコで僕がやりたいなって思う世界観を実現しているNPOがいくつもありました。
そういうNPOを見て刺激を受けて、ビジネスプランを自分も書いてみようと意識してやり始めたのがそのときです。

渡辺:
なるほど。そういう機会があって、ますます想いが強くなったんだね。
実際に創業したのはいつだったの?

小沼:
2011年の3月に会社を辞めて、5月に創業をしました。
辞めたのが、震災があった2011年3月11日だったのです。
退職の挨拶メールを書いているときに揺れが来ました。そのまま避難してという数奇な運命で。

渡辺:
それはなんともすごい運命だね。

小沼:
そうなんです。日本全体が大変な状況に陥っていたので、事業立ち上げの準備をしようとしても上手く進まず、それであればと東北の復興支援の活動に2ヶ月間ほど携わりました。
退職していて、ある意味では時間が有り余っていたので。
その活動が一段落した5月に、共同創業者の松島由佳と二人でクロスフィールズを立ち上げました。

渡辺:
なるほど。ということは、そのときには、今のクロスフィールズのビジネスの構想はあったんだね。

小沼:
そうです。辞める直前に有給期間なども使って、いろいろな企業さんと会ってテストマーケティングをしていました。
これは可能性があるなと思ったところで、起業を最終的に決意することができました。

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渡辺:
そこまで準備を整えていたんだ。さすがだね。
起業までの一連のストーリーを聞いていると、とても戦略的だ。
新卒で社会貢献の世界に入り、そこで自分の軸をつかみつつ、国際協力の経験を積む。
さらにコンサルティングファームで問題解決能力や経営に関するスキルを身につける。
そして、自分の軸と経験が積み重なる事業領域で、起業する。
しかも、いきなり起業するのではなく、テストマーケティングして、顧客のニーズを確認しながら、事業モデルを固めた後で踏み出しているよね。
でも、その事業で起業するのに必要な経験やスキルを持たないまま起業する人も多いし、事業の検証をしないまま、いきなりはじめてしまう人も少なくないんだ。

小沼:
渡辺さんの本に書いてあった通りです。
NPOを創業するというのは、端から見ると向こう見ずなキャリア選択かもしれないんですけど、僕自身としてはしっかりキャリアデザインしていました。
「ビジネスと社会貢献を繋ぐ」ということが見えてからは、そこから将来どのようなことをやりたいか、逆算すると何が必要かと考えて、コンサルティング業界に入りました。
起業する際も、一回事業会社に行ってから起業するかどうかも考えました。
ただ、色々な人にアドバイスを聞いて今のタイミングがベストだと判断したので事業会社は選びませんでしたが。
衝動に突き動かされてやったというよりは、見極めてからのスタートだったと思います。

渡辺:
そうなんだよね。自分の生きる道がクリアに見えると、戦略的に考えられるんだよね。
逆に、「起業でもするか」、「起業しかない」というような“でもしか起業”の人の方が、むしろ思い切りよくいきなり起業しちゃっている。
深い想いをベースに持っている人は、しっかり戦略的に起業しているケースが多い。

小沼:
僕自身も想いが先に立って、そのあとスキルをどうつけるか考えるべきだと思うので、想いから逆算したキャリア戦略っていうのが大切だと感じています。

それと話は少し逸れるんですが、仲間がいたこともすごく大きかったです。
実は大学時代の友人たちの中でも昔の想いを大事にしたいという思いを持っている仲間を集めてシェアハウスをしていました。
そこでいろいろな人たちと集まって、定期的に「何か将来やろうぜ」という話をする勉強会のようなコミュニティをやっていたんです。
そのメンバーの一人が共同創業者の松島でした。
今度、一橋ラクロスの同期がうちに入社するのですが、それも全部同じコミュニティの仲間です。
「このメンバーでなんかやろう」ということがあって、その中からクロスフィールズの事業が立ち上がったという感じでした。

渡辺:
お客さんと仲間に支えられながら、スタートしているんだね。
実際に経営してみて、今はどうですか?

小沼:
「いつが一番大変でしたか?」と時々聞かれるのですが、「今日です」っていうのが素直な答えです。
もちろん、一番楽しい瞬間という質問への答えも全く同じ答えなんですけど(笑)。
両方ともずっとレベル感があがり続けているなという感じがあります。
応援いただいたり、期待されたり、一緒に働いている仲間が増えたりすると、その分だけ嬉しいですし、楽しいですし、やりがいを感じます。
一方で、同時に責任とそこから生じる胸が締め付けられるような想いもどんどん増えていますね。

渡辺:
わかるなあ(一同笑)。
創業者たちが共通して持っている感覚かもね。

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#3 自分の「好き」を知る。それがキャリア設計の出発点

小沼:
渡辺さんが起業しようと思ったのはどうしてなんですか?

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渡辺:
中高時代の話にさかのぼるんだけどね・・・。
僕は麻布中という都内の六年一貫校に通っていたんだ。当時の麻布の授業は、ものすごく分かりづらくて、本当に意味不明(笑)。
小学校の頃に通っていた塾はすごく分かりやすくて、勉強がとても楽しかったのにね。それが中学に入ったら、勉強が全く面白くなくなって、モチベーションが一気に下がってしまった。
それで中3の頃は、部室やゲーセンとかでプラプラ過ごしていた。
でも、家に帰ると後悔するんだよね。「今日もまた無駄なことに、時間を使ってしまった…」と(笑)。
勉強をする気はしないけど、少なくとも、“つまらないこと”はやめて、毎日なるべく“楽しいこと”だけに時間を使おうと考えたんだ。
で、どうしたかと言うと、毎日記録をつけることにしたんだ。
楽しいと思ったことは何か、つまらないと思ったことは何かという記録をとっておいて、翌日からつまらないと思ったことをやらないようにしようと考えたんだよね。

小沼:
例えばどんなことをやらなくなったんですか?

渡辺:
僕は将棋部に所属していたのだけど、将棋を指すときに、時間つぶしみたいに遊び半分で指していると、後でつまらなかったなと感じる。勝敗に関係なくね。
でも、自分がしっかり研究した作戦を試してみるとか、さらにその作戦がうまくいったというときには、もの凄く楽しい。

小沼:
戦略家としてやるってことですね。

渡辺:
まさにそう。将棋を指すという行為は同じでも、背景が全然違うと面白さが違っていたんだよね。
一年ほど記録をつけていくと、そういうことに気付いていったんだ。
そして、自分が何を好きで、何を嫌いかっていう情報がだんだん集まってきて、「俺ってこういうことが好きなのかな?」ということが見えてきた。
知的創造作業の快楽が自分にとっては大切だとか、人生について考えるのが楽しいんだとか、人の相談に乗るのが好きだということが分かってきた。

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小沼:
高校生で、ですか?

渡辺:
高1だね。

小沼:
早熟ですね。

渡辺:
暇だったからね(一同笑)。勉強は何もしないので、時間が膨大にあったから。
それで、自分の「好き」と「嫌い」を分析して、人生相談業みたいなことをやりたいと思うようになったんだ。
だけど、人生相談業という会社はなさそうだと高校生ながらに分かるので、自分で起業してやるしかないだろうなと考えた。そのような訳で、かなり以前から起業家志向だったんだ。

小沼:
想いとかやりたいことが先に立ったということですね。

渡辺:
まさにそうだね。想いを実現するための「手段」としての起業だね。

小沼:
一橋大に入った後、就活はどうしたんですか?

渡辺:
僕らの就活時は、新卒採用が冷え込んでいた頃。一橋では都銀に人気がある時代だった。
でも、僕は起業家志向だったので、経営経験が積める仕事に就くため、ベンチャーキャピタル業界かコンサルティング業界に行くつもりだった。一橋なのに都銀を全く受けなかった(笑)。

小沼:
そんな業界に目をつけるなんて、感度高いですねぇ。

渡辺:
当時の一橋ではかなり珍しかったと思うよ。ベンチャーキャピタル業界が第一希望だったので、卒論のテーマもベンチャーキャピタルの研究にしちゃった。ゼミの内容と全然関係ないのに(一同笑)。
当時、そんな研究している学生はいないから、「君はベンチャーキャピタルにすごく詳しいね」と就活でもびっくりされるんだよね。
受けたベンチャーキャピタルはすべて内定をもらえて、第一希望のベンチャーキャピタルに入社するつもりだった。

小沼:
なんで行かなかったんですか?

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渡辺:
内定後の懇親会で、僕がベンチャーキャピタルの役員の方に「これからはハンズオンで経営支援していく必要がありますよね?」と言ったら、その方が「その通りだ。うちの会社もそうならなければいけない。ぜひ、それを渡辺君にやってほしい」と仰って下さった。普通はものすごくありがたい話だよね。

小沼:
ですよね。

渡辺:
でも当時の僕は、「大学出たばかりの自分に期待するなんて、ハンズオンで経営支援するのがどれほど難しいのか分かっているのか。本気で取り組むつもりがないんじゃないか」と思っちゃったんだ。リップサービスというものが分からなかったんだね(笑)。
仕方ないから、コンサル業界にしようと。ただ、英語は絶対嫌だったから、外資系はやめておこうと思っていた。

小沼:
英語が嫌いだって本にも書いてありましたよね(一同笑)。

渡辺:
「英語を話せなくてもいい」と良く言われるけど、読み書きはできないとさすがにまずいからね。僕は読みもできないから(笑)。
それで内定をもらったシンクタンクの戦略コンサル部門に入ったんだよね。

小沼:
当時の三和総研(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に入られてから、どんなプロジェクトをしたのですか?

渡辺:
三和総研では、起業するうえで特に役立つ新規事業立ち上げのコンサルティングを中心に担当していたね。素晴らしい先輩方にも恵まれて、本当にいい経験をたくさんさせてもらえたと思う。
それに自分の将来に役立つことを経験させてもらえているので、モチベーションもすごく高く、自然に仕事に打ち込むことができたのも良かった。
そんなこともあって、入社4年目には自分で案件をとるポジションに当時最年少で昇格できたんだ。
会社が楽しくて、徹夜とかしながら働いていたよ。

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#4 起業するリスクを冒してでも、手に入れたかったもの

小沼:
人材紹介の世界に入ったのは、いつ位なんですか?

渡辺:
30歳のとき、ある人材紹介会社にジョインさせてもらったのが、この業界でのキャリアのスタートだね。それまでは経営に関する経験を積んできたけど、ここでようやくやりたかった個人向けの相談業に就けた。そこで、戦略コンサルファーム向けの人材紹介を7年ほど担当していた。やりたかった仕事で楽しかったので、朝から晩までどっぷり仕事に没頭していたよ。

小沼:
その人材紹介会社で、人生相談業をすることはできなかったんですか?
起業に至ったのはどうしてなんですか?

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渡辺:
それはもの凄く考えたね。そのまま、その人材紹介会社で頑張っていくというキャリアもあったと思う。
当時は部下や同僚にも恵まれて、会社も楽しかったし、キャリアコンサルタントとしては申し分のない環境だった。研修も何もないし、何かを丁寧に教えてくれるという会社ではなかったけど(笑)、自分で創意工夫して、イメージしていた人生相談業に近いこともやっていたしね。
ただ、それはあくまで自分個人として。オーナーでも社長でもない自分が、会社全体をそういう方向に持っていける訳ではなかったからね。
人材紹介会社としては全国屈指のしっかりした会社だったけど、キャリア設計や生きる知恵を通じて日本を真に豊かにする…といった僕の想いを自由に実現できる環境ではなかった。
僕の場合は、そういうものを実現するための手段は、人材紹介だけでは足りないと思っていたんだ。
人材紹介以外のこともできる自由が欲しかったんだよね。

小沼:
そうだったのですね。

渡辺:
一般的に人材紹介業界は、自社を「営業会社」だと定義づけているし、目先の売上を重視する企業が少なくない。仕方がないことだけどね。
ただ、僕としては、広く世の中にキャリア設計法を知ってもらうとか、影響を与える仕掛けをつくるとか、目先のキャッシュをうまないとしても、本質的な活動をしたかったんだ。
例えば今回の本も、僕がものすごい時間を割いて書いているんだけど、正直ビジネス的には非効率なんだよね(笑)。しかもノウハウをオープンにしちゃうし。
「勿体なくないんですか?」と仰って下さる人材紹介会社の社長さんもいらっしゃった。
ただ、僕としてはキャリア設計を通じて、日本人一人ひとりの人生を豊かにしていければいいというのがあってね。
普段、ご支援できない学生や遠隔地にいらっしゃる方にもお伝えしたいなというのもあるしね。

小沼:
「目先の売上ではなくて、本質的な価値があることを」というお話が印象的ですね。
実は杉浦さん(コンコード 取締役)と最初にお話したときにも、まさに今の話やコンコードが目指す世界観について熱く語って頂きました。
それがあって何か一緒にやりたいなと思って、杉浦さんに理事をお願いしたんですよね。

ところで「リーダーとなるべき人の道を切り拓く」というミッションと、この渡辺さんの想いはどのようにつながるんですか?

渡辺:
キャリア設計や生きる知恵といったものを伝えることで、一人ひとりを豊かにしていく、結果的に日本全体を豊かにしていくということをやりたかった。
ただ、はじめから広く出来る訳ではないし、まずはリーダー層に広めて行くのが効果的だと考えたんだ。
コンコードは、もともと社会を変えるっていう目的で作られた器なんだよね。

blank小沼:
我々の組織の目指す方向性もその話とかなり近いです。
僕らのビジョンは「すべての人が“働くこと”を通じて、想い・情熱を実現させることができる世界」。
まさに英知を伝えて、日本全体を結果的によくしていこうと。
パートナー達と次々と社会の課題を解決していく世界を、まさしく自分たちとしても実現していきたいと思っています。

渡辺さんが出版に至った想いがよく分かりました。日本全体に向けてということなんですね。
でも、怖くはなかったんですか?
他の経営者に指摘されたそうですが、商売道具としての英知なわけじゃないですか。
それをオープンにすると言うことについて、悩んだりしなかったんですか?

渡辺:
コンコードの人材紹介事業に、どういう影響があるのかはすごく考えたよ。
考えたけど、やりたいことや実現したいことがその先にあるので、やるしかないよね(笑)。

小沼:
なるほど、起業家ですね(一同笑)。

渡辺:
それとノウハウをオープンにすると、また多くのものがかえってくるっていう感覚を持っているんだよね。
これは、戦略コンサル時代の体験で培った感覚だけど。
ほら、マッキンゼーの人たちだって、ノウハウを社内で次々にオープンにしているじゃない。わざわざ手間暇かけて。

小沼:
すごく気持ち良いくらいの性善説が働いているというか、オープンにする感じがありました。
ギブアンドテイクするっていうより、さらに言うとギブすることがどれだけいいことかっていうのをグローバルに全社員が共有している組織でした。

渡辺:
だよね。それが良いプロフェッショナルファームのカルチャーだよね。
それが組織外の社会でも本当に通用するのかどうか分からないし、怖い部分もあるけどやってみましたという感じだね(一同笑)。

お陰様で今のところ、すごくおもしろいことがたくさん起こっている感じかな。
「この本を読んで、自分の人生を取り戻したいと思いました」と感想を送って下さる方もいらっしゃって、とても嬉しいし、僕らの方が勇気を頂けるようなこともある。
いろいろなメディアから連載の話を頂くようになったりもした。
それと普段接点を持たない学生の人たちから、「人生や就活のことを考えるのに、とても役に立ちました」という反響をたくさんいただけているのもとても嬉しいよね。
そんなこともあって、来年は一橋のキャリア関係の授業に登壇することにもなった。
学生向けなので、人材紹介のビジネスには直接関係ないんだけどね(笑)。
でも、若い人たちにぜひ知って欲しいと思っていたことなので、良かったなあと思っているんだ。

確かに、今回の出版は事業的には思い切っているかも知れない。
ただ、コンコードは普通の営利目的の企業ではなくて、社会を変える側に立っている組織だからこその決断なんだよね。だからクロスフィールズととても近いと思うよ。

小沼:
そう仰って頂けると嬉しいです。ありがとうございます。

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#5 なぜ、NPOは“やりがい”と“成長機会”にあふれているのか?

渡辺:
社会を変える組織であるNPO。「NPOのキャリアは非常に面白いよね」と通の間で言われ始めているよね(笑)。NPOキャリアの意義について、ぜひ聞かせてもらえればと思います。

小沼:
通なのかニッチなのか分からないですけどね(笑)。

blank渡辺:
先を行っている人ということで(笑)。
NPOキャリアの魅力の一つは、若いうちから高い目線の仕事を責任を持ってできることにあると思う。
NPOは小さな組織が多い。ベンチャー企業と同様で、若いうちから組織全体の方向性に対する自分の意見を言えるチャンスがあったり、プロジェクトを丸ごと任せられたりというような経験ができる。
例えば、将来自分は経営者や起業家になりたいような人にとっては、若いうちに高いレベルの経験を積んで、一気に成長できるという意味で、いいステージじゃないかと思うんだけど。

小沼:
そうですね。我々の団体も今10名程度で運営をしているので、事業の今後の方向性を考えるっていうことや自分ひとりで何か新しい事業を立ち上げて、それを自分で全部回していくというチャンスがあふれています。
むしろそうしていかないと、存続していけないという状況です。
他のベンチャー企業と同じようにチャレンジすることだったり、自分の力で何かやったりというチャンスに恵まれていますね。
それはすなわち、成長に繋がるんじゃないかなと思いますね。

渡辺:
折角なので照沼さんに伺いたいんですけど(笑)、クロスフィールズに入って、ご自身の成長はどんな感じですか?
(同席されていたクロスフィールズ照沼さんへ渡辺がいきなり質問をする)

小沼:
いきなり予想外の展開ですね(一同笑)。

blank照沼:
それでは、折角ですので(笑)。
クロスフィールズに入って、新しいことをいろいろとやらせてもらっています。種類が二つあるんですけど。
一つは、広報の仕事のように、今まで全く経験したことのない新しい仕事をやらせてもらっているっていう意味で、チャレンジングでワクワクしてとても楽しいです。
もう一つは、前職の商社で培った経理や内部統制の経験を活かしながら、仕組みを丸ごとつくるという新しいチャレンジをしています。
前職での経験やスキルを活かせるんですが、ほとんど仕組みができていない状況だったのでチャレンジがあります。

小沼:
本当に一年で全くなかったものが次々組織内にできて、世界観が違いますよ。彼女が来るまでは、誰も決まった日に経費(領収書)を出していませんでした(笑)。

照沼:
仕組みを新しくつくるという段階から任せてもらえているので、相当にストレッチがある挑戦をさせてもらえているという感覚がありますね。

渡辺:
自分がつくった仕組みで、本当に運営されちゃうんだ。「いいのかよ?」みたいな。

小沼:
しかも、そのままのルールで続くみたいな。

照沼:
そのまま続くので責任重大ですね。
商社時代は、何千人もの人がいて、自分のそれまでの経験では想像が難しいほどの、何か大きなものが動いているという感じが否めませんでした。
でも、クロスフィールズは、小さな組織なので、動きが自分の目で全て見えるんです。
ちゃんと手応えを感じながら仕組みを作れるし、実感を持ちながら仕事をつくったり、運営したりできますね。

渡辺:
まさにそういうことがビジネスの本来の醍醐味だと思います。
例えば、学園祭とかでTシャツを自分でデザインして売るとします。
誰をターゲットにしよう、デザインどうしよう、店を置く場所はどうしよう、営業トークはどうしようとか、いろいろと考えることがある。
それを一通り回すと、もの凄く面白いんですよね。
知恵を振り絞って苦労して、Tシャツが一枚売れたときの快感が、実はビジネスの本来の醍醐味だと思います。自分で色々考えたことを具現化して、社会の反応を感じられる。これがとても楽しいですよね。

照沼:
今までは、メディアの方から問い合わせがきて「こういう企画なので取材したいんですけど」というものに対応するというパターンが多かったのです。
それが、記者の方にイベントに来て頂いたり、電話したりしてコミュニケーションを密にしていると、「最近はこんな面白いことをしているんですね。話を聞かせてください」とか、「どんな風なことを記事にしたら、クロスフィールズさんにとって嬉しいですか?」などとメディアの方に言っていただけるようになりました。
自分自身がいろいろと工夫して、関係を構築することで、自分たちの組織や新しい取り組み、いわば時代の変化みたいなものを世の中に出すことができるのは、すごく嬉しかったですね。

blank小沼:
今の話は、まさにその通りです。僕は「手触り感」が大きなポイントになっていると思います。
これはベンチャーだからというだけでなく、NPOは受益者がそばにいることが多いというのも面白いところです。ITベンチャーだと誰が使ってくれているのかが、意外と見えにくいということも多いですからね。
我々は、支援する人が変わるのを間近で見ることができる事業が多かったりするので、社会との距離がすごく近い。
これが大企業へのアンチテーゼだと僕は思っています。大企業というのはすごく大きな規模の事業をやっているんですけど、一方で、手触り感はなかなか持ちにくいのではないでしょうか。
それに対してNPOであれば、目の前の人の暮らしが変わったりするし、それによって「ありがとう」と言われるそういう感覚を仕事の中に取り戻せる。そういうことができるのが、NPOの働きがいですね。

渡辺:
仕事の喜びの原点って、まさにそこだよね。だから、「ビジネスは“本来”美しい」と僕は思っている。

小沼:
“美しさ”を感じられないほど組織の肥大化が進んでしまっているんでしょうね。
僕が思うに産業革命以来の機械化だったり、IT化だったり、グローバル化によって顧客との距離がどんどん遠くなってしまっているなと。
顧客から遠いところにいる人には、その本当は美しいはずのものを感じることができない。これが、働きがいをなくさせていると。
それがNPOですと、小さな組織だし、社会との距離が近いので、働きがいを感じやすい。だからNPOに通な人が来ているんだと思います。
ただ、当然ですが、僕は大企業で働く人たちを応援する事業をしているわけで、大企業では働きがいが持てないとは決して言っていません。。
大きな組織では社会との距離が遠いので、働きがいを感じるのが難しいというだけのことです。
留職という事業では、途上国で社会に貢献する機会を提供することで、大企業の社員に働きがいを取り戻すお手伝いをしたいんです。

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#6 “トライセクターリーダー”が社会を変える

渡辺:
NPOキャリアを考える上で欠かせないものとして、「トライセクターリーダー」というキーワードが話題になっていますね。

小沼:
そうですね。

blank渡辺:
小沼君はよく知っていることだけど、民間企業と政府と非営利団体という異なるセクターを渡り歩きながら作るキャリアのことで、三つのセクターをまたぐので“トライセクター”と言われているんですよね。
例えば、民間企業側にいた人が、政府系機関の動き方や、NPOの動き方が分かることによって、それらの力もうまく活用することによって、社会全体を効率よく良くしていける。
そういうことができるリーダーになろうという話ですね。

小沼:
民間企業や政府といったひとつの枠に閉じこもって考えていると、できることに限界が出てしまいます。

渡辺:
社会的な問題を解く際、民間企業の枠にとらわれないのは、とても強いよね。

これは個人のキャリアの話だけではなくて、数年前から、日本のコンサルティング業界でも、企業と政府を結びつけながら改革する動きが見られるね。
今までの企業は、政府が用意する政策や規制に合わせて活動するのが当たり前だった。
それが、政府も民間企業が何を望んでいるのかを知りたい、民間企業も要望を聞いて欲しいと変わってきた。一緒になって良いルールをつくろうと。両者をつなぐことで、民間企業としても様々な制限を取り払った事業をつくることが可能になってくる。
今、こういうコンサルティングをシンクタンクやドリームインキュベータ、デロイトトーマツコンサルティング(DTC)などが取り組んでいるね。

小沼:
まさに先日、DTCと共催でイベントを開催させて頂きました。それもトライセクター時代を象徴しているなと思います。

そのイベントではGEの熊谷社長が基調講演をされたんですが、同社はエコマジネーションという戦略をつくり、エコをビジネスにする仕組みを作って大成功しています。
このような事業をつくろうとすると、セクターをまたいでいろんなことを発想できないと難しいです。
同様の思考を21世紀のビジネスエリートは持つ必要があると思います。そういう意味で、三つのセクターを渡り歩いたようなキャリアを持つことはすごく価値があると思います。

渡辺:
まさにそうだよね。社会をより良くしたいという人には、セクターをまたいだキャリアにぜひ注目して頂きたいと思う。
そう考えると、NPOはとても良いステージになるよね。日本においては政府系のキャリアはあまりオープンではないけど、NPOキャリアならオープンだし、政府と関わる機会もある。

ただ一方で、ベンチャー企業に飛び込むのに色々と注意が必要なのと同様に、NPOに飛び込むのにも色々と注意が必要だよね。
小沼君は、どんなところに注意が必要だと考えています?

blank小沼:
まずは、いいNPOを見極めることが本当に大切だと思いますね。
NPOは日本だけでも5万団体以上あり、まさに有象無象です。ベンチャー企業でも、ブラック企業云々というのがありますが、それと同様です。
NPOなら良い経験を積めるというものではないので、ちゃんとしたNPOを見極めると言うことが何よりも重要かと。

渡辺:
そうそう。ベンチャー企業と同様で、良い組織とそうでない組織の差が激しいよね。
しかも、ベンチャー企業以上に注意しなければいけないのが、想いは良いんだけど、経営のけの字も分からない人が創業していて、まわっていないNPOがかなり多い。
「トライセクターリーダーとしてのキャリアを積みましょう」と言っても、そういう経営者のもとではあまり学べない。
それどころか、NPO自体がうまく回っていないので、メンバーは収入面も含めてアンハッピーだし、早々に潰れることもある。
良いリーダーが率いているNPOかどうかがとても重要だよね。

小沼:
本当にそうですよね。
それと、どういうことを志向している団体なのかが大事だと思います。
自分でやりたいことを切り拓いていくような“ビジネスエリート”の方に対しては、「社会を変える」ということを想いだけでなく、明確な戦略とともに語れるようなリーダーたちと働いて欲しいなと思います。
そういう人たちがいる組織であれば、安心だと思いますね。
特に21世紀に入ってから設立されたNPOには、他のセクターの存在を毛嫌いせずに、民間企業や行政とも協働して何か新しいものを作っていこうという考えで経営している団体が多いのです。
そのような団体に入っていけば、すごく良い未来が切り拓けるんじゃないかなと思います。

blank渡辺:
「ビジョンが美しくても、良い組織とは限らない」――これも、NPOに転職・就職しようという素晴らしい想いを持っている方へお伝えしておきたいことなんだよね。
これはベンチャー企業に入る場合も同じ。ホームページやメディアの記事で、「こういう社会を作りたい」という美しいコメントが書いてあると、「良い組織だな」と素直に受け取ってしまう人が少なくない。
でも実際には、そのビジョンを実現するためのストラテジーや仕組みこそが大切。
美しいことを言うのは、口がそれなりに上手ければ簡単にできる。
むしろ、ビジョンを社会の中で実現していくことこそが難しいわけで、それをできているかを見極めるのが大切だと思う。

小沼:
「NPOイコールボランティア組織」であって、自分たちの生活を投げ打って働いているというイメージが世間にはあると思います。
もちろん、そういうNPOもあります。しかし、今日語っているキャリア戦略上に浮かび上がるNPOというのは、そういう組織ではありません。
しっかりとしたキャリアを積むことができて、回転ドアのように、クルリとビジネスにもう一回戻ることもできて、NPOと企業を行き来できるような組織です。
実際に、コンコードさんを通じてビジネスコンサルからクロスフィールズにジョインして、そしてまたコンサルティングファームへ転身した方もいました。
NPOも徐々にそういうキャリアとして捉えられるようになってきました。
また、NPOへ給与も含めて身投げするのではなくて、自分の未来をしっかり予測できるような場にしていかないとNPOは強くなっていかないでしょうね。
NPOとして強くなっていこうという想いで運営している団体に入るのであれば、リスクはそんなに高くないと思いますね。
変な話ですけど、転職先としてボランティア団体Aとクロスフィールズを比べるよりも、コンコードとクロスフィールズを比べる方が、ちゃんと考えている人かなと思います。同じNPOというくくりだから近いというわけではない。

渡辺:
社会をより良くするために組織やチームを作っているというカテゴリーがあって、その中にクロスフィールズもあるし、コンコードもあるという感じだよね。

小沼:
そうですね。そういう正しい未来を作っていきたいと考えている方に、クロスフィールズやNPOも選択肢の一つに入れて頂いたら、面白いかも知れませんということをお伝えしたいですね。

渡辺:
一方でNPOならではの良さもあるんじゃない?

小沼:
その通りです。

渡辺:
コンコードは「株式会社」としてやっているので、「何か一緒にやりましょう」という話がメディアや政府や大学などからすぐにはこない。
社会をより良くするための器として運営していても、株式会社というだけで、警戒される感じがある(笑)。
これはNPOとの違いだと思うんだよね。

blank小沼:
確かに我々はいろいろな話がたくさんきます(笑)。

渡辺:
そうだよね。それはNPOの魅力の一つだと思う。
コンコードも、今回の本によって考え方やスタンスをしっかりと理解してもらえて、大学との話などが進むようになった。
これまでは、「マッキンゼーやBCGや投資ファンドへ年収が高い人を紹介して、荒稼ぎしているんじゃないの?」と警戒される感じが少なからずあったね。本当は結構地道にやっているのにね(一同笑)。

小沼:
そうかもしれないですね。色々なところに入り込んでいけるのは、NPOのいいところだと思います。
クロスフィールズは政府とも企業ともつながりがあるので、転職をしなくてもトライセクターそれぞれの経験を積むことができます。
しかもグローバルでそれを経験できるというのもとてもエキサイティングだと思います。
現在クロスフィールズで採用している「プロジェクトマネジャー」という職種は、日本企業の人たちを、インドのIITを出ているような超優秀なリーダーたちがやっているNGOと結びつけて、プロジェクトを行なったりします。
こういう現地の素晴らしいリーダーたちと一緒に働ける経験を積めるのは、クロスフィールズでの仕事の大きな魅力だと考えています。

渡辺:
まさに社会を変えるリーダーになるための素晴らしい経験を積めるね。
もちろんクロスフィールズにそのまま残り続けてもいいし、卒業した後で自分でNPOをつくるのも良いだろうし。

小沼:
そう思います。自分たちも、ある種の教育機関として、もちろんプログラムに参加してくださる人たちに対して自分の人生が飛躍する機会になればいいと思いますし、我々の組織にいる人間に対しても全く同じことで、未来を切り拓くようなことを組織の内外でやってもらいたいと思っています。

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#7 リスクが高いと言われる現代を、二人の起業家はどう捉えているのか?

渡辺:
では、最後に読者へのメッセージをお願いします。

blank小沼:
こういう機会で時々言わせて頂いているのですが、「挑戦しないことがリスク」じゃないかと僕は思っています。

渡辺:
うん。うん。

小沼:
これは二つの意味で思っているのですが・・・。
一つは、多くの人が自分のやりたいことや想いを持っていると思いますが、それに蓋をして生きてそのまま死んでしまったら、とても後悔するという大きなリスクがあると思うわけです。

渡辺:
想いは封じ込められない。自分を裏切ることはできないからね。

小沼:
それがいつの間にか、家族がいるからとか、会社でこのまま我慢していれば次はこうだからと、徐々に想いを封じ込めてしまう・・・。

渡辺:
それは辛いよね。

小沼:
転職活動など何らかの形でその想いに対して向き合ってみた方が、リスクが少ないと思います。
「なぜ、起業というリスクをとれたのですか?」とよく聞かれますが、単純に、後悔するという大きなリスクをとりたくなかったのです。

それと、もう1つ意味があります。
これだけ変化の激しい時代においては、常に新しい働き方が求められています。今日の常識が3年後には非常識になり、今日の非常識が3年後には常識になる時代です。
だから、いま全員が「いいね!」という方向にいったら、危ないんです。むしろ、「なんだその選択は」と驚かれるようなことをするべきだと思います。
NPOというキャリアも、そういう意味で、僕は面白いと思います。
「NPOって何だ?」というイメージが今まではあったと思いますが、本質的に考えて、面白いことに気付くアンテナを張ってもらいたいと読者の方にお伝えしたいですね。
今の常識に縛られている方がリスクが高いんじゃないかと。
この本が語っていることや、対談の中で語っていたことを考えると、選択肢はとても広いんじゃないかなと思います。
どんどん挑戦をしてもらいたいなって思いますね。

渡辺:
リスクということで言うと、ここ数年の日本を代表するメーカーのリストラの話は、とても象徴的な出来事だよね。
僕らの世代からすると、就活した際にはそんなことが全く想定できなかった会社だったんだよね。あれだけ大きなメーカーだったら絶対にそういうことが起こりえないという「常識」を持って、僕らの世代は新卒のときに入社した。しかもどちらかというと、手堅い人こそがメーカーを選んでいたぐらい。
そうしたらあんなことが起こっているわけで…。
あのような会社でさえそういうことがあるんだから、どんな会社にだって頼ることはできない。
一方で人材市場を見ると、今はとても発達していて、魅力的な機会やキャリアを積む機会が膨大にある。
だから一つの企業にキャリアや人生を懸けるんじゃなくて、人材市場をセーフティネットとして生きることこそがリスクが低い生き方と言える。
いくら新卒のときに一生懸命に大きな会社を選んでも、それで逃げ切れるわけじゃないんだよね。

小沼:
リスクが高い時代ということで、危機感を持っているんでしょうけど、結論が違う方向に行ってしまっていますよね。
残念ながら大部分の人は、リスクが高いから大企業にしがみつこうとしているように僕の目には映ります。

blank渡辺:
しがみつくものが頼れなくなっているんだから、危ないよね。

脳科学の研究成果をベースにつくられた、ある適性テストがあるんだ。大手テスト会社がやっているものとは異なる、かなりマニアックなものなんだけどね。
僕も散々いろいろな適性テストを試してみたけれど、このテストが抜群に良いものだった。
そのテストを開発した人たちの話では、データをとっている20年前から比べて、若い人たちが持つ「不安」という気持ちが明らかに増大しているのだそう。
今の20代前半くらいの人たちがそのテストを受けると、「不安」という項目の点数がすごく高く出る。どのぐらい高いかというと、今の20代前半の人たちのほとんどが、他の世代の人たちの上位16%の水準に入ってしまうらしい。
それくらい今の若い人たちは、不安を強く感じているということなんだろうね。

小沼:
僕もそこに入りそうな気がしますけど、今事業家として(一同笑)。
それはどんなことが要因なんですか?

渡辺:
はっきりとした理由は分からないけど、生まれた頃から「不況」とか「リストラ」とメディアで言われるような時代に育ってきて、明るい未来を描きにくいと言っていた学生がいたね。直近もリーマンショックや東日本大震災などもあったしね。
それで、不安になって、公務員や大企業であれば、安心なんじゃないかということで流れているのだろうね。
適性テストの結果にまで、若い世代の人たちの不安が現われているとはね。

小沼:
とても興味深いですね。

渡辺:
不安が高まっている時代だからこそ、人材市場をセーフティネットとして安全に生きる方法や安全着実に自分の夢を実現するキャリア設計法を、若い人たちがしっかりと勉強することが大切だと思う。

小沼:
本当にその通りだと思いますね。

渡辺:
人生は一回しかないから、自分の夢にチャレンジしてみたい。でも一回しかないからこそ、失敗もしたくない。誰だって失敗したくないからね。本音で言えば。
ご相談者と10数年ずっと話をしていて、多くの方がこの狭間で悩んでいる。
これを両立させることは普通にやっていては当然無理で、工夫した戦略が必要となるんだよね。一か八かでやることでもないし、あきらめることでもない。そんなことを今回の本を通じて、特に若い世代の人につかんで欲しいなと思っているんだ。

blank小沼:
クロスフィールズも、今すぐではないですけど、5年後や10年後は新卒を採用するようになるかもしれません。
特にそのような人とは違う道を選ぶ場合は、ちゃんとした戦略を持っている必要があると思います。自分の経験からも実感します。
ちゃんとした戦略や人材市場での価値といったものを、正確にこういう本で学んだりしながら、その上でリスクを取るというのが大事だと思います。

それと、今は大変な時代だ・・・という若者が多いという件ですが、僕も「バブル」と聞けばイコール「崩壊」しか出てきません。
物心ついたらバブル崩壊、大学に入ったらライブドアショック、社会人になった瞬間リーマンショックでトリプルパンチを食らって、お金については何も良いことない感じで、課題だらけです(笑)。
ただ一方で、課題があるってことは、それを解決したらすごいことが起こるというその発想の逆転をするのがすごく大事だと思います。大変だからこそ、それをやりきったら楽しいという思考になれば、こんなに楽しい時代はないんじゃないかって。

渡辺:
そうそう、まさにそう思うよ。課題は解決すればいい。
それと、インターネットが発達したことがすごく大きいんだよね。
いろいろな活動のためのコストが激的に下がったし、起業もしやすくなって、社会的な問題を自分達の手で解決できるようになった。逆に30年前ではこうはいかない。

小沼:
本当に今ほど楽しい時代はないって思いますよね(笑)。

渡辺:
そう思うよ。自分達の手で解決できる可能性があるんだから、実に楽しい(笑)。

小沼:
以前であれば、NPOを起業してそれで失敗していたら、キャリア的に絶望的だったかも知れません。
ですが、今は徐々に、こういう経験を積んだ人が人材市場でも高い評価を得られるようになってきたように思います。起業して失敗しても、その経験を評価してくれて、セカンドチャンスがあるというように。
それは、すごく安心できる。そんな世の中があるんじゃないかなっていう。

blank渡辺:
実際に今の人材市場では、ちゃんと評価されるようになっているよ。コンコードのご相談者でも起業経験がある方はたくさんいらっしゃる。学生起業した後、事業を売却したというケースもあるし、残念ながら事業がたち行かなくなったというケースもある。
いろいろなケースで転職相談にいらっしゃるけれど、起業していた経験が評価されて、ほぼ何の問題もなく転職できる。今はすごくそういう人が多い。

小沼:
そういう人たちの経験を評価できる「目利き」を渡辺さんたちの業界が作ってくださったから、採用されるようになってきているんだと思います。
こうやってセーフティネットができていて、本当の価値を見てもらえるとなると、挑戦しやすいですよね。

「やっぱり家族がいたら、起業できなかったんじゃないですか?」と言われることがあるんですけど、そんなことはありません。私も起業時に妻がいました。
仮に事業が上手くいかなくても次のキャリアのステップは大丈夫だということを妻にもしっかりと説明して、納得してもらってスタートしています。
今は、誰でも挑戦しやすい時代なんだと知ってもらいたいですね。

渡辺:
もっともっとセーフティネットを増やすように頑張るよ(笑)。
今は起業の経験が評価されるようになってきて、本当に良かった。安心してチャレンジができる社会になってきたね。

今日は、キャリア観やNPOや起業に関することを深く話し合えて、とても楽しかったです。
特に、体験にもとづく生々しい話は「好きなことで、恵まれた収入を得ながら、社会に大きなインパクトをもたらす」というキャリアを目指す読者の方のお役に立つのではないかと思います。
小沼さん、どうもありがとうございました。

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編集後記

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「将来のことなど分からないのだから、キャリア設計をしても意味が無い」という論調の記事を目にすることがあります。

しかし、社会にインパクトを与えている現代のリーダーたちは、衝動や思いつきの行動で成功している訳ではありません。
現代では、若くして経営に関するスキルや知識を身につけられる仕事がたくさんあります。
彼らは適切な環境を主体的に選択して、自分のビジョンを実現するうえで必要な経験を積めるように上手にキャリア設計をしています。

本インタビューに登場した二人の起業家も、「ビジネスと社会貢献を繋ぎたい」(小沼氏)、「日本を真に豊かな国にしたい」(渡辺)というような想いやビジョンを持ち、それを実現するために「想いから逆算したキャリア」を積み、必要な経験とスキルを周到に身につけた上でチャレンジしています。

特に起業する場合は、資金が少ないので、何度も失敗しながらゆっくり学んでいくという余裕はありません。
また、立ち上げ後は、事業とマネジメントに関する膨大な量の課題を次々と解決して、意思決定していくことが求められます。
そのため起業する前に、経営に関する経験やスキルを身につけておくことがとても大切なのです。

一方で、「将来のゴールがクリアにならないので、今何をすべきかが分からない」という方もいらっしゃいます。

そのような方は、ビジョンを詳細なことまで決めようとしていることが多いようです。
20年後や30年後の未来を予測して、自分がどのような仕事をしているべきかを想定することはとても難しいことです。

ビジョンは“ざっくり”と決めることが大事です。
時代によってとるべき方法は変化するため、事前に細かく考えたことが無駄になってしまうことは珍しくありません。どのような手段が最適なのかは、ビジョンに近づいていく中で判断していくべきものなのです。
小沼氏も渡辺もどのような事業をやるのかといった将来の細かい点までを、10年前や20年前に決めていた訳ではないことは本記事でお分かり頂けるかと思います。

幸いなことに、昨今の人材市場には魅力的なキャリアを積む機会がたくさんあります。
この人材市場を活用することで、ビジョンを着実に実現していくことができるようになってきました。
本対談企画が、皆さまのビジョンの実現やキャリア設計のお役に立てば幸いです。

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小沼大地 | Daichi Konuma【共同創業者・代表理事】小沼大地 | Daichi Konuma【共同創業者・代表理事】

一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊(中東シリア・環境教育)に参加後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。同社では人材育成領域を専門とし、国内外の小売・製薬業界を中心とした全社改革プロジェクトなどに携わる。2011年3月、NPO法人クロスフィールズ設立のため独立。世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に2011年より選出。

照沼かおり | Kaori Terunuma【事務局(広報・バックオフィス)】照沼かおり | Kaori Terunuma【事務局(広報・バックオフィス)】

慶應義塾大学総合政策学部卒業。三井物産株式会社に約7年間勤務し、南米(ペルー・チリ)での駐在を含め、経理や内部統制など管理業務、及び南米向け金属資源投資案件のプロジェクト推進に従事。2013年8月よりクロスフィールズに参画し、広報・バックオフィスを担当。

渡辺 秀和|Hidekazu Watanabe【コンコードエグゼクティブグループ 代表】渡辺 秀和|Hidekazu Watanabe【コンコードエグゼクティブグループ 代表】

一橋大学商学部卒業。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、2008年、コンコードエグゼクティブグループを設立。日本ヘッドハンター大賞MVP受賞。東京大学「未来をつくるキャリアの授業」コースディレクター。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)など。

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