丸いキャリア・尖ったキャリア
丸いキャリア・尖ったキャリアとは
「丸いキャリア」とは、幅広いビジネススキルをバランスよく伸ばし、どの分野でも一定水準の能力を備えることを目指すキャリア形成のスタイルである。レーダーチャートで表すと、すべての項目が均等に広がり、全体として“円”の形を描くイメージに近い。
これに対して「尖ったキャリア」は、特定のスキルや分野に焦点を当て、その専門性を徹底的に磨き、実績を積み上げていくスタイルを意味する。レーダーチャートで示すなら、一部の項目が突出して伸びている形となる。
どちらのキャリアを選ぶかによって、重視する価値観や働き方の方向性は大きく変わる。幅広い汎用性を武器とするか、それとも専門性を強みにするか──キャリアの設計において重要な分岐点となるのである。
「尖ったキャリア」のほうが評価されやすい
キャリアを考える際、「自分の弱点を補おう」と努力する人は少なくない。たとえば「経理を経験したから次は人事のスキルを伸ばそう」「英語に不安があるからあえて海外業務に挑戦しよう」といった具合に、幅広く経験を積もうとする。その結果、強みがぼやけた「丸いキャリア」が形成されてしまうのだ。
しかし、これは大学受験のように「合計点」で評価されるシステムであれば有効かもしれないが、ビジネスの世界では必ずしも通用しない。なぜなら、ビジネスはチーム戦であり、個々人がすべてを完璧にこなす必要はなく、むしろ弱点はチームで補い合うことが前提にあるからだ。実際の人材市場で評価されるのは「どの分野でも平均点をとれる人」ではなく、「ある分野において他者には代えがたい強みを持つ人材」なのである。
たとえば経理職の採用であれば、経理に特化した経験を持つ人材のほうが、経理・営業・人事と幅広く経験してきた人よりも、現場ですぐに貢献できると評価されやすい。経理一筋で6年積み上げた経験は、企業にとって大きな安心材料となる。
このように「尖ったキャリア」は、「これなら任せられる」と信頼を得られる明確な強みとなり、結果としてキャリアパスに大きな差を生む要因になるのである。

多くの日系大企業では、総合職をゼネラリストとして育成するため、複数の職種をローテーションで経験させることが一般的だ。その結果、本人の意思にかかわらず「丸いキャリア」が形成され、尖った強みを磨きにくくなる点には注意が必要だ。
キャリア戦略でも「選択と集中」が必要
人材市場から評価される「尖ったキャリア」をつくるうえでは、自分が何に集中すべきかを見極め、そこにリソースを意識的に配分することが鍵となる。あれもこれもと手を広げるのではなく、自分の強みや関心が向く領域にしっかり軸足を置き、深掘りしていく必要がある。
現代は、「営業力はどの職種にも必要」「プログラミングは文系にも必須」など、あらゆるスキルが“やっておくべき”とされがちな時代だ。しかし、それらが本当に自分にとって必要かどうかは、それぞれの理想像や置かれている状況などによって異なる。自分にとって価値ある経験は何かを見極め、自分らしい軸でキャリアを積み上げていく視点がこれまで以上に重要になっている。
そして何より、キャリアは世間体や他人からの評価、流行などに合わせてつくるものではなく、自分が「本当にやりたいこと」を軸に構築していくほうが、ぶれない強さを持てる。自分の関心や情熱を注げる分野に力を注ぎ、成長の軌道を描いていくことで、結果的に尖ったキャリアが形づくられていく。
特に若いうちは、特定領域で「明確な売り」となるスキルを身につけることが肝要である。その後は専門性の軸を大きく変えずに、経験・スキル・ネットワークを積み重ねていくことで、専門性の厚みが増す。こうした「強みを伸ばし続ける」キャリア設計は、慣れ親しんだ領域で成長を重ねるため、仕事の負荷が軽減されるという副次的なメリットもある。自分の好きなことや得意なことを大切に育てていく姿勢こそが、豊かなキャリアを築く最善の道となるだろう。
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