いつ転職するのが有利なのか?~成否を握る「市況」の重要性

“努力なし”に転職活動が有利になる条件をご存知でしょうか?

転職活動を成功させるためには、「実力」「実績」「学歴」「在籍企業のブランド」「年齢」「選考対策」「求人情報」など、さまざまなことが考えられます。
確かにどれも重要ですが、意外と知られていないのが「市況」です。

人材市場の「市況」を理解していると、本人の〝努力なし〟に転職活動が有利になります。
ここでは、賢い転職活動として、決定的に重要な考え方を紹介しましょう。

人材市場の「市況」が合否を分ける

あまり知られていないのですが、人材市場の「市況」は、転職活動の成否にとても大きな影響を与えています。
採用意欲が高い時期には、人気企業にも受かりやすいうえ、高い年収、高いポジションを獲得しやすくなります。
逆に採用意欲が低い時期は、受かりにくいうえ、良い年収やポジションを得にくくなります。

「実力」や「努力」とは関係なく、年収や採用ポジションが変わってしまうという事実には驚かれる方も多いでしょう。
市況が転職活動に与える影響はとても大きいため、この事実を知ってキャリア設計をするか否かで、後のキャリアが大きく変わってしまうのです。

実際に、コンサルティングファームや投資銀行などの人気企業も、時期によって入社難易度は大きく異なっています。
そのため、実力が同じであっても、人材市場の市況によって合否が分かれることも珍しくありません。

大学入試の場合は、1年や2年で難易度が大きく変わるということは、まずないでしょう。
しかし転職活動においては、同じ候補者が「今年受けたら内定するけど、来年受けたら書類落ちする」ということもあり得るのです。

リーマンショック後の人材市場はどうなっていたか?

リーマンショック後の2008年後半から2009年にかけて、投資銀行やコンサルティングファームでも多くのリストラが行なわれました。
人材市場の「市況」が非常に悪い時です。
2009年半ばに底を打ったものの、2011年くらいまでは低迷した状態が続きました。

企業の採用意欲が冷え込んでいる中、人材市場ではたくさんの投資銀行出身者やコンサル出身者が転職活動をしているという状況でした。
彼らは、本来は極めて優秀な人材です。
パフォーマンスが悪くてリストラされているわけではなく、部門そのものの閉鎖や事業撤退などという非常事態に巻き込まれてしまったのです。

また、この時期にMBAを取得して帰国された自費留学の方も、かなり苦戦されました。
実は、MBA留学には市況リスクが存在しており、その点で新卒時の就職活動に類似します。

このような悪い市況のとき、転職する必然性がない人は、無理に活動しないほうがいいでしょう。
転職活動して選考に落ちると、応募企業に不合格の履歴が残って、再チャレンジが困難になる場合もあるため注意が必要なのです。
私たちもリーマンショック直後は「今はまだ会社に残っておいた方がいいです」と、なるべく転職をしないようにアドバイスをしていました。

最近の人材市場はどうなっているのか?

それでは、最近の人材市場はどのようになっているのでしょうか。

リーマンショック後、2019年末まで、ビジネスリーダー層の人材市場では活況が続きました。これほど長期にわたり良い市況が続くことは珍しいことです。
特に、コンサルティングファームやベンチャー企業、外資系企業、PEファンドといった人気企業で、未経験者も含めた積極的な採用が行われました。

その後、2020年に入ると、新型コロナウイルスによる経済の停滞と社内プロジェクトの一時的なストップのために一旦ビジネスリーダーやコンサル人材の採用も停滞しました。
しかし、2020年後半以降はむしろコロナ以前よりも積極的な採用を行うコンサルティングファームや経営幹部を求めるベンチャー企業が増えています。

その背景として、以前からあったデジタルトランスフォーメーション(DX)需要がコロナ禍においてさらに拡大していることがあげられます。
さらに、パンデミックによる世界的な経済の低迷のなか、日本企業は既存事業だけでなく、新規事業の立ち上げやM&Aなどを視野に入れ、生き残りをかけた事業再生をしていく必要があり、これらを実行できるコンサルタントや、経営幹部の採用が急務となっています。

こうしたことから、コンサルティング業界ではコロナ禍の今もコンサル未経験人材も含め、積極的な採用が行なわれています。
特に、大手のコンサルティングファームでは、採用ターゲットを拡大させており、従来の採用基準とは異なる年齢層、学歴、職歴の候補者も、積極的に採用しています。
それほどまでにビジネスが急拡大しているのです。

また、ベンチャー企業へ引き続き多くの資金が流入しており、ベンチャー企業での経営幹部採用が非常に活発化しています。
特にポストコンサルをCxO、経営幹部として、コンサル経験者は引く手あまたとなっており、コンサルティングファームに匹敵するような好条件で迎え入れたいという企業も多くなっています。

このような時期に転職すると、未経験者でもキャリアチェンジもしやすく、キャリア設計上で大きなアドバンテージが得られます。
そして、経験者が業界内で即戦力として転職すると、年収が2倍に跳ね上がるというような事例も見られます。
良いポジションに就くと、ネクストステップでもいい機会を得やすくなるという点も大きなメリットです。
市況を味方につけることができると、キャリア設計上とても有利になります。

その意味で、2020年以降のビジネスリーダーの人材市場は「未経験だけど、コンサルティング業界にチャレンジしたい」「コンサル経験をいかして、経営幹部として活躍したい」といった想いを持った方には絶好の市況と言えます。

「年齢」との兼ね合いも大切

実は、良い市況を逃さずに転職活動すべき理由が他にもあります。
それは、「年齢」との兼ね合いも大切だからです。

例えば、33歳でコンサル未経験の方が、外資戦略コンサルティングファームを目指していたとします。
「まだ35歳までに余裕があるから、外資系コンサルに行く前に、英語力をもう少し身につけておこう」とのんびり構えていると、もしかしたら危ないかもしれません。

仮にリーマンショックのようなことが起こって、市況が悪くなってしまえば、3年程度は人材市場が冷え込むでしょう。
そうなると、再び人材市場がよくなった頃には36歳。
戦略コンサル未経験者が応募可能な一般的なラインである35歳を超えることになります。

こうなると、キャリア戦略を根本から見直す必要が出てしまうかもしれません。。
だからと言って、市況が冷え込んでいるタイミングで無理やり転職活動をしても、あまり良い結果は得られないでしょう。

「市況」を味方につける賢い方法は、定期的な情報収集

見てきた通り、良い時に動いてキャリアを飛躍させて、悪い時は動かないという考えが、市況を活用する上での基本方針です。

入社時期を選べない新卒や自費留学のMBA生の就職活動と違って、中途採用の転職は、自分で活動の時期を決めることができます。
これは極めて大きな差で、このメリットを活用しない手はありません。

とは言え、人材市場は常に変化しており、数年先の市況を予想することは困難です。
そのため、「市況」を味方につける賢い方法は、定期的に情報収集をして、機を逃さないようにすることにあります。
実際に活動するか否かは別問題です。

「TOEICが800点を超えたら転職活動をしよう」、「キリが良い5年は今の会社にいよう」などと、自分都合だけでキャリアを考えないことが肝要です。

内定を勝ち取る選考対策とは

著者/監修者

blankコンコードエグセクティブグループ 代表 渡辺 秀和

一橋大学商学部卒業。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、コンコードエグゼクティブグループを設立。
「日本ヘッドハンター大賞」初代MVPを受賞。2017年に東京大学で開講されたキャリア設計の正規科目「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクターとして、全体企画から講義までを担当するなど学生へのキャリア教育活動を積極的に行っている。
著書の『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社刊)、『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社刊)は東京大学での授業の教科書に選定された。『新版 コンサル業界大研究』(産学社刊)は東京大学生協本郷書籍部でランキング第1位を獲得。