なぜ、「キャリア戦略」が重要になったのか?

コンコードエグゼクティブグループは、専門的なノウハウを体系化した「キャリア戦略」でビジネスリーダーを支援しています。
それでは、なぜ、転職を考えるときに「キャリア戦略」は必要不可欠になったのでしょうか?

その理由は、この20年~30年で起こった「人材市場の発達」や「終身雇用制度の崩壊」と密接な関係があります。

人材市場の発達がキャリア戦略の意義を高めた

「人材市場」とは、端的に言えば「転職したい人」と「人材を求める企業」がマッチングされる場です。

ポジションや年収、仕事内容、スキル要件や業務経験など、双方の条件が折り合えば、無事に転職が決まります。
その際、まさに株の売買が行われている証券市場と同様に、高いスキルや経験値を持った人材は、市場価値が吊り上がり、多くの企業で争奪が行われます。

従来は、新卒で入った大企業に残ること以上にいい選択肢が少ない時代でした。
しかし、90年代あたりから優良な外資系企業が日本において魅力的な転職先として台頭し、徐々に人材市場の様子が変わってきました。
外資系企業が事業の拡大に伴って、優秀な即戦力人材を高待遇で中途採用したため、大手企業から優秀な人材が流出しはじめました。
特に、若い人でも優秀ならば高いポジションで採用するという実力主義の採用が、年功序列の日本企業に辟易としていた優秀な若手の考えにフィットしました。

魅力的な企業の中途採用が増えることで、優秀な人材が人材市場に出るようになり、それを受けて企業はますます中途採用に力を入れる――この連鎖が魅力的な転職の機会を増大させ、人材市場を大きく発展させました。

主体的にキャリア設計できるようになった

以前であれば、有望な仕事の選択肢が社内にしかありませんでした。
異動希望が叶うかどうかは、会社まかせや運まかせとなります。
そのような環境下では、自分の意思でコントロールできる要素が少なく、キャリア設計について受け身にならざるを得ませんでした。

しかし、現代ではスキルや実績があれば、自分の好きなことをできる企業へ転職することが可能です。
人材市場の発達のおかげで、主体的にキャリア設計できるようになりました。
とても大きな変化と言えるでしょう。

若くして高い年収、高いポジションを得られる機会が急増した

高い年収条件や高いポジションで転職できる機会が得られるようになりました。
20代で数千万円の年収となる投資銀行、30代前半で2,000万円を超える年収となる外資系コンサルティングファーム、それらに準ずる年収条件となる外資系事業会社やベンチャー企業など、従来の大手企業では考えられないような高額の年収を提示する企業はたくさんあります。
さらに、社長や経営幹部を外部から中途採用した30代の優秀な人材に任せようとする事業会社もあります。

このように、一般的な企業内には存在しない、若くして高い年収、高いポジションを得られる機会が急増したことも、現代の人材市場の大きな特徴です。

キャリア戦略をつくる意義がますます高まる

どんなにいいキャリア設計をして、キャリアの階段をつくろうとしても、それを実現し得るいい転職先がなければ無意味です。
人材市場が発達して魅力的な選択肢が豊富になった現代だからこそ、キャリア戦略をつくる意義が高まったのです。
今後さらに人材の流動化が進み、人材市場は発達していく中で、キャリア戦略をつくる意義はますます高まっていくでしょう。

終身雇用制度の崩壊により必要性が増すキャリア戦略

終身雇用制度の崩壊もまた、キャリア戦略の重要性を高める一因になっています。

1950年頃から2000年前半までのおよそ50年間は、終身雇用制度が一般的な時代でした。
高度成長期以降、多くの企業が順調に業績を伸ばし、企業は安定した雇用を長期にわたり従業員へ提供することができました。
そのため、新卒で大手企業に入り、その企業の中で幹部を目指すことが典型的なキャリアビジョンとなりました。
人材市場も未発達であったため、新卒で入った大企業に残ること以上にいい選択肢が少なかったため、実際、多くの方にとって適切なキャリア設計であったでしょう。

しかし、昨今の日本を代表するような大手メーカーの大規模なリストラ、外資系企業による日本企業の買収などの例を引き合いに出すまでもなく、大手企業の終身雇用制度は崩壊しつつあります。
さらに、GAFAなどのIT企業との業界を越えた競争が激化していく中で、どの大手企業も安泰とは言えないでしょう。

このような時代において、一つの会社に依存したキャリアは極めてリスクが高いと言わざるを得ません。
もちろん、「必ず転職をしなければいけない」ということでは、全くありません。
ただ、企業の大小や業界を問わず、倒産や人員削減のリスクは常に潜んでいるため、若いうちからキャリア戦略をしっかりと描き、いざとなれば転職できるように備えておく必要があるのです。

人材市場で評価されるスキルや実績があれば、たとえ勤務先の会社が潰れたとしても新たなキャリアを歩むことができます。
ひとつの会社をセーフティーネットとする時代から、人材市場をセーフティーネットとする時代になっているのです。

自分のキャリアを自分でデザインする時代へ

このように人材市場の発達によって、ビジネスパーソンのキャリアのあり方が大きく変わりました。

かつては転職というと、「上司と馬が合わない」「給料が安い」など現職の不満を解消するために職を変えるネガティブな行為として捉えられていた面があります。
しかし現代では、自分が求める経験、スキル、収入を得られる環境を自ら主体的・積極的に選択するポジティブな行為として捉えられています。

もちろん、自分が欲しいスキルや経験を習得するためだけに在職するのは評価されません。所属する企業でしっかりとした価値を生み出し、組織に貢献することが前提です。

このような変化を鑑みると、自分のキャリアを自分でデザインできる“自由”が得られたとも言えますし、自分のキャリアを守るために自分でデザインする“責任”を持たざるを得なくなったとも言えると思います。
いずれにしましても、自分のキャリアをデザインすることの重要性が非常に高い時代を迎えたのは確かでしょう。

もちろん、人材市場が発達して転職がしやすくなったのだからといって、気軽に仕事を選んで良いということではありません。
選択した転職先が、自分のキャリアビジョンと合致している方が、より早くゴールに辿り着くことができるのも事実です。
したがって、皆さまには、ぜひ慎重に転職先を選択して頂きたいと思います。

「ハブ・キャリア」で業界・職種を跨ぐキャリアチェンジを実現する

著者/監修者

blankコンコードエグセクティブグループ 代表 渡辺 秀和

一橋大学商学部卒業。三和総合研究所 戦略コンサルティング部門を経て、コンコードエグゼクティブグループを設立。
「日本ヘッドハンター大賞」初代MVPを受賞。2017年に東京大学で開講されたキャリア設計の正規科目「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクターとして、全体企画から講義までを担当するなど学生へのキャリア教育活動を積極的に行っている。
著書の『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社刊)、『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社刊)は東京大学での授業の教科書に選定された。『新版 コンサル業界大研究』(産学社刊)は東京大学生協本郷書籍部でランキング第1位を獲得。